奴隷落ち予定の令嬢は公爵家に飼われました

茗裡

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第一章

46 望む強さ

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ルナリアと分かれた後、アネット、ディオン、クロエの三人は別室へと向かっていた。


「何処に行くつもり」


踵を返すディオンの腕をアネットが掴む。


「ルナリアの元ですよ」
「乙女の園を覗くつもり?何時からそんな変態になったのかしら」
「それは嘘でしょう」


アネットの冗談に真顔で返すディオン。


アネットの双眸が鋭く光る。


「……行ってどうするの」
「ルナリアの事だ一人で泣いている」
「だから?」
「姉さんが言いたい事は分かっていますよ。ルナリアは……私の従者だから守りたい……それが理由で良いでしょう」


眉宇を歪め弱った表情を浮かべた。



その表情にアネットは深い溜息を零す。


「分かっているならいいわ。だけど、貴方の想いを伝える事は許さないわ」
「直接は伝えませんよ……今はまだ……」
「そう……」
「だけど、姉さん。これだけは覚えておいてください。男は一人でも生きていけます。しかし、女は誰かが守らなければ生きて行けない。俺はルナリアを守る為に姉さんの言う通り力を付ける。……それに、目の前で涙を流す好きな女の涙も拭えないような甲斐性なしにはなりたくないんですよ」


それだけ言うとディオンはアネットに背を向けて、ルナリアの後を追った。


「宜しかったんですか?」
「んー……まあ、いいんじゃない?」


クロエはアネットの二歩程後ろについて歩きながら問う。


「それにしても青春ね~!そして、ディオンがあーんなキザ男だったとは。いや、攻略対象だからこそキザいのか?それに、漸く私に歯向かうようになって来たじゃない?これからどう成長するのか楽しみね」
「キザ男や攻略対象というものが何か分かりませんが、お嬢様が随分と楽しんでおられることだけは分かりました」
「そうね。ディオンにはグラニエ家を継いで貰わなければならないもの~。……だけど、あの子はまだまだ子供ね。あの子のルナリアちゃんに抱く想いが生半可なものじゃないことはさっきの言動で分かった。だけど、あのままじゃルナリアちゃんを傷付けるわ」
「互いに想い合っているのに……ですか?」
「だからよ。女は誰かに守られなければ生きて行けない。ディオンの言う通りだわ。それに、この世界では特にその言葉が身に染みるわね。互いに想い合うからこそ、ディオン自身がルナリアちゃんを一番傷付けてしまうのよ……」
「では何故止められなかったのですか?」
「私がでしゃばるものじゃないでしょ。それにね、姉心としては好きな女の涙も拭えないようなヘタレじゃなくて安心してるっていうのもあるのよ!」


アネットは振り返り快活に笑った。


それ以上、クロエが何かを聞くことは無かった。



#


どうしよう……


私は今、この現状をどう脱するか脳をフル回転させていた。



ディオン様に頭を抱えるようにして抱き締められたまま、顔を埋めて固まっていた。



私とディオン様は従者とご主人様。


先の言葉もアネット様のように従者を守れるようになるという意味合いだと理解している。



そう、深い意味合いは無い。



都合のいいように受け取ってしまいそうになる考えを振り払う。


然れど、頬には熱が集まり動悸が早くなる。


ディオン様の背中に手を回して縋ってしまいたい。



だけど……


それじゃ駄目なんだ。


「ありがとうございます……。ですが、わたくしも守られるだけの"従者"ではいられません。主をお護りすることもまた侍女の務めですので」


胸板に手をついて、彼の体を彼方に押しやりながら距離を取って笑顔で告げる。



私は強くならなくちゃいけない。


ディオン様とアネット様に恩返しが出来る程に。

「……ルナリア。主人を護ることが侍女の務めではない。俺は君にそんな危ないことを望んでいるんじゃない」
「侍女は主の傍にお仕えし補佐する事だと重々理解しております。ですが、わたくしが目指す御方はクロエさんなのです。ですので……どうかあまり、わたくしを甘やかさないで下さいませ」


主の補佐だけではなく、その身を護れる程に強くなること。


それが、私が目指すべき場所。


ディオン様はお優しい方だから、命をかけてまで護らなくていいと言ってくれるだろう。



だけど、それでは駄目なのだ。



私とアネット様は知っている。



この先の出来事を。



アメリーやパトリス殿下達が居なくなった事で、変わったこともある。



だけど、時代が刻む歴史までは変えることは出来ないだろう。



その為に、強くならなくてはいけないのだ。


そして、グラニエ家に仕える私の存在が公爵家の名に傷を付けるものではなく、利点であると周囲の者達に認めさせる為に。
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