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第一章

39 真の黒幕

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裁判官が上げた証言は全てアメリーに当てはまっていた。


アメリーの身長は156センチ。



ヒールを履くと160センチ前後となる。



それに、可愛らしい見た目通り、声も可愛らしいものだ。


まあ、甘ったるい声もあながち間違ってないが。


「そ、そんな!だからって犯人が私だと決めつけるなんて酷いです!顔は見てないんですよね?」
「ええ。顔の確認は行っていません。ですが、貴女は二つのミスを犯した。マルクス殿は騎士ですよ?アングラード侯爵家の名を騙る不届き者を野放しにするわけがありません。もう一つは、依頼を請け負わなかったマルクス殿の前で同じ酒場にいた別の者達に依頼を頼んだ。」
「だ、だからって何で私だと決めつけるんですか!顔も確認していないのに誰なのかも分からないじゃないですか!」
「はぁ……アメリー嬢、貴女は人の話をもう少し理解して頂けませんかね?」
「なっ、何よ!馬鹿にしてるの!?あんた聖職者なんでしょ!?人を馬鹿にしていいと思ってるの!?」



アメリーは裁判官の態度に対して顔を真っ赤にして罵倒する。



裁判官は良くやってくれている方だろう。



アメリー達が偽証を述べる中、全てに対して懇切丁寧に説明し疑問を解明している。


「私は不届き者を野放しにするわけがないと言いましたよね?つまりは、事件が起こった時には既にアメリー嬢が犯人である事が判明していたのです」
「ははっ、おかしな事を言うのですね。犯人が分かっていたなら何故事件を未然に防ぐ事が出来なかったんですか?アメリーは襲われたんですよ!アメリーは被害者だ!」
「私も当事者でも騎士団でも無いので深い理由までは知りませんが、泳がせていたのだと推測します」
「裁判官、此処から先は私が答えよう。この一件は私の管轄でもある」



そう言って名乗りを上げたのは、グラニエ家の当主にして宰相であるナゼール様だった。



「この一件は事が起こってからでないと、動けない案件だったのでね。しかも、猶予は一日も無い上にマルクス殿は戦場に駆り出されて犯人を捕まえた頃にはいない」
「分かっていたというならば何故止めなかったんですか?危うく私大変な目に遭うところだったんですよ!」
「自作自演は自業自得。それに、君は自分が助かることを知っていたからルナリア嬢の名を騙ってまで自分を襲うように仕向けたのだろう?」
「な、何のことか分かりませんが、私は自作自演などしていません!」
「パトリス殿下の言葉を借りるならば、犯人は自分がやったとは言わない。まさに、今の君に当て嵌る言葉だね」
「貴様!私までも愚弄するか!親が親なら子も子だな。グラニエ家は全員不敬罪にするぞ!」



ナゼール様の揶揄した言葉に怒りを顕にするパトリス殿下。


「儂の側近を儂が居る前で貴様が裁けるわけが無かろう!権力を不当に振るうその行いこそ罰するにあたいするぞパトリス。そもそも、犯罪の容疑がかけられておる貴様に王家の権限など最早無いわッ!」
「そ、そんな!父上!」
「続けろナゼール」
「はっ。本来、この案件についてはマルクス殿が遠征より戻り次第酒場で依頼をされていた者と犯人が一致するかの確認をとり正当に処罰を下すはずだったのです。ですが、見張り兵の制止を無視し、それも権力でねじ伏せ勝手に取り調べを行ったもの達がいましてね」


犯人に対する取り調べは、その権限を有する者のみが行える。


その上、犯人は隔離され誰とも会うことは許されない。


外部からの接触、口封じ、口裏合わせを避ける為だ。


それを、押し切って犯人に会えるとなると極わずかな人物しかいない。



それは、王の側近或いは王族の者だけだ。


「パトリス殿下、貴方は勝手に犯人に対して尋問を行いルナリア嬢が犯人であると結論付けた。その為、貴方は無実である彼女に冤罪を被せあろう事にそれを逆手に取り公衆の面前で婚約破棄を行う暴挙に出た」
「し、しかし、ならば何故ルナリアは反論しなかった!違うならば違うと言えば良かっただろう!無実を主張しないルナリアにも非がある!」
「ルナリアは言いましたよ。やってないと。それを捲し立て、ルナリア一人を複数で追い詰めたのは誰ですか!ルナリアが犯人であると決定付け聞く耳を持たなかったのは貴方でしょう!」
「ディオン」
「すみません……取り乱しました……」


語尾が強くなるに連れ感情を表に出すディオン様をナゼール様が宥める。


ディオン様は悔しげに顔を歪ませ前髪を掻き揚げ掴みながら俯くと、椅子に腰を下ろした。



普段、冷静な彼の姿とは程遠い姿に驚く傍聴者と被告人達。


「私の息子からもルナリア嬢は犯人では無いのでは無いかと何度も進言があったかと思うのですが、それを聞き入れなかったのはパトリス殿下御本人だと話を伺っております。」
「犯人はルナリアが黒幕だと言ったんだ。違うというならばその証拠を出すべきだったろう!そうすれば、私だって信じたはずだ」
「本当にそうでしょうか。貴方はどうやらそこにいるご令嬢にご執心のようですからね。階段から落ちて怪我をしたという自作自演にも引っ掛かっているのです。それも、少し調べれば穴だらけの稚拙な自演だ。それを鵜呑みする阿呆共が、真実に目を向けるとは到底思えませんね」


ナゼール様は底冷えするような目を被告人達に向ける。



その眼差しは、流石ディオン様とアネット様のお父様だと思える程の威圧的なものだった。
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