奴隷落ち予定の令嬢は公爵家に飼われました

茗裡

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第一章

10 育成科編入

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私は玄関までディオン様をお送りしてそこで分かれた。


私が今日から通う育成科とは棟が違う為繋がってはいるものの下駄箱がある場所も違う。


育成科の棟に着き靴を履き替え先に職員室へと向かった。


擦れ違う生徒達から向けられる突き刺さるような視線。


「ねぇ…あれ」
「育成科の制服ってことは本当に?」
「わたくしもディオン様の侍女としてでしたら是非ともお仕えしたいですわ」
「平民になったのにディオン様付きの侍女だなんて」
「どんな手を使ったのでしょうね」
「弱みでも握って脅したのではありません?」
「まあ、なんて、悪どい」
「あの方ならやりかねませんわね」


主に女生徒達からの羨望、嫉妬、侮蔑といった視線が集中する。


私はディオン様ではなく、グラニエ家に仕える身。


そんなにディオン様の侍女になりたいなら代わってあげるわよ!


なんて、面と向かって言えるはずもなく俯いた。


職員室に着いた私は担任となる教師と共に新しい教室へと向かった。


「ルナリア嬢は普通科からの編入ですので皆さん分からないことは協力して下さいね」
「本日からお世話になります。ルナリアと申します。よろしくお願いします」


先生の紹介の後に続いて頭を下げる。


教室にいる生徒達の顔を見るも、殆どの生徒。


特に女生徒達は無表情で、とても受け入れられているようには感じない。


だけど、アネット様に拾われた時に誓ったんだ。


一流の侍女になると。


クロエさんのようにアネット様の片腕になれるように頑張るのだと。


こんな事でへこたれて等いられない。


「じゃあ、ルナリア嬢は一番奥のアニエス嬢とエメ嬢の間の席に着いて頂戴」
「はい」


先生の指示で左から二番目の一番奥の席に向かった。


「あの、これからよろしくお願いします」


私が通った通路の横の席となるアニエス嬢に挨拶をしたが、無視された。


教室に来るまでの間。

育成科の棟でも生徒達から奇異の目で見られた。

その眼差しは、普通科でも受けた羨望や嫉妬、侮蔑といったものだったからこうなることはある程度予測はしていた。


しかし、無視されるのはどれだけ気にしてない振りをしていても少しは傷付きはする。


私は椅子を引いて、反対側の生徒に目を向けた。


「あの…よろしくお願いします」


アニエス嬢に無視された事もあって、先程よりは声が小さくなってしまった。

だけど、人として隣の席になる人には無視されようが挨拶をするのが筋だ。


反対側の席に座っていた少女は一瞬目を丸くした後活発的な笑みを浮かべた。


「こちらこそ。私はエメ。これから宜しくお願いします。ルナリア様」


オレンジのような赤毛のショートカットに綺麗なエメラルドグリーンの瞳をした女の子。


まさか、返事が返ってくるとは思わなかったから驚いた。


私は嬉しくなって、涙目で何度も頷いたら少し笑われた。


育成科の授業は普通科とは全く違った。


座学もある事はあるのだが、貴族の要人の名前を覚えたり、作法や心得等についての講座が多かった。


授業も半分程終わり、昼休み。


「ルナリア様。改めてよろしくお願いします。今から昼食ですが、食堂はご存知ですか?」
「エメ様。一度案内はして頂いたのですが、お恥ずかしながらまだ道順に自信がなく……」


隣の席のエメ嬢が声をかけてくれた事に驚きつつも、育成科棟全部の場所の把握は未だ出来ておらず眉尻を下げて答える語尾が小さくなる。


「なら!よろしければ一緒に行きませんか?」
「よ、よろしいのですか?」
「食堂まで少し距離があるので早く行かないと食いっぱぐれてしまいますから!」


エメ嬢は戸惑う私の手を取って笑顔で言う。


その明るい笑顔にこちらまで釣られて笑顔で頷いた。


食堂に行くまでの間、彼女と色んな話をした。


何故、私に声をかけてくれたのか問いかけたのだが、彼女自身も私の噂は知っていたらしい。


「でも、だからって無視するのは違うと思うんです!」


エメ嬢は正義感溢れる強い光を目に宿していた。


「それに、何だか噂で聞いていた方と違うなって思ったんです。だって、傲慢で意地悪な人は私のような下っ端に敬語で挨拶したり頭を下げることってないと思うんですよ」


エメ嬢の実家は貴族社会では下位の男爵令嬢だ。


その為、男爵家というだけで下に見る者は少なくないのだろう。


だけど、今の私は男爵家よりも下の平民であり、前世の記憶を思い出した今人に優劣付けて見ることなど出来ない。

人を蔑むことがあるとすれば、それは私がアメリーに行ったように人を苦しめる存在。

つまり、私のような人間だけだ。


「爵位が高かろうと低かろうと関係御座いませんわ。恥ずべきことはその権力の上に胡座をかいて人を人とも見ない扱いをすることです。対人関係とはどんな相手でも敬意を持って接することこそ大事なことだとわたくしは思います」


そこまで言ってハッと我に返る。


何語っちゃってんの私~~っ


恥ずかしすぎる。


「って、平民になったわたくしが言っても説得力の欠片もありませんわよね」


空笑いを浮かべて誤魔化す。


すると、エメ嬢から両手を取られがっしりと握られた。


「す、素晴らしいです。私、感動しました!やっぱり、ルナリア様は噂とは違うと思います!私、自分の目で見て接してみて人を判断するようにしてるんです。ルナリア様が噂のように酷いことをする人だとは私思えません!」
「そ、そんな。買いかぶりよ」
「いいえ!普通、侯爵家から平民に落とされたからってそんな考えが出来るとは思えませんもの!!」


エメ嬢は私の手を握ったままグイグイと近寄って顔を寄せる。

「あ、ありがとう…?」

エメ嬢の勢いに圧されてしまった。


「あ、それと私の事はエメって呼んで下さい!」
「なら、わたくしもルナリアと呼んで下さいませ」
「あ、あの!良かったら友達になってくれませんか?嫌だったら断っていいので…」


その申し出に瞠目する。


彼女は至って真面目なようで語尾に行くに連れ声が小さくなり、もじもじとしている。


「いえ!いえ!嫌だなんてそんな事御座いませんわ!寧ろ、わたくしがお友達でもよろしいのでしょうか?」


私は嬉しくなって我を忘れ先程の彼女のようにエメの両手を握り返していた。


「良かったぁ。じゃあ、友達だから敬語も無し。それと、ルナリアだから友達になりたいって思ったんだよ」


エメは太陽のような眩しい笑顔で言った。


私は無意識に双眸から涙を流していた。


「ど、どうしたの!?私何かルナリアの気に触ること言っちゃった?」

私が急に泣いてしまった事にオロオロとするエメ。

私は首を左右に大きく振った。


「ちがっ…違うの。嬉しくて。まさか、こんな私に友達が出来るなんて思わなかったから」
「ねえ、ルナリアって花言葉知ってる?」

突如尋ねられた問いに首を傾げる。

「はかない美しさ、幻想、収穫、魅惑、正直。これがルナリアの花言葉。私ね、ルナリアを初めて見た時、美しくて綺麗だけど儚くて何だか危うい人だなって思ったの」

エメは私の目を真っ直ぐと見て言う。

「だけどね、実際にルナリアと話してみたら芯を持った人だった。それに、対人関係について話してる時のルナリアは取り繕っているようにも嘘ついているようにも見えなかったの。だから、友達になりたいなぁって思ったんだ」


そう言ってニコリと笑った。

「あり…がと…っ」

私は泣き声で御礼を言うことしか出来なかった。


「もおー。泣かないでよルナリア~」

そう言いつつも、エメは私を抱き締めて背中を優しく叩いて宥めてくれた。
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