悪役令嬢はおっさんフェチ

茗裡

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8. 弔い

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「え? 何やそれ。もしかして、彼氏にやられたん?」
「大した事ないんです。彼、カッとなると周りが見えなくなっちゃって。腕掴まれて、たまたまテーブルの角にぶつけて。でもその後ちゃんと謝ってくれて、私の事手当してくれたんです」
「はぁ?」

 莉奈は捲っていた服を元に戻した。

「他の男の事、ニコニコしながら話すなって怒られて。彼氏、今年に入ってから、大学やバイトで忙しくてストレス溜まってるみたいで。私も気を付けてはいるんですけど、どうやったら彼氏の機嫌を損ねずに付き合って行けるのかなーって思って、ちょっと悩んじゃって」
「そういう怪我って、これが初めてなん?」

 莉奈は笑ったまま何も言わなかったから、察した。
 たまたまぶつけたって言ってるけど、これってDVってやつ?
 暴力振る側は、だいたいあとから優しくなってもうしないと言うから、振るわれた方はそれを信じて何度されても許してしまうとネットに書いてあった。
 俺は目を細めて莉奈を見る。

「……その彼氏、莉奈のスマホチェックとかしとるんやないやろうな?」
「してますよ! なんで分かるんですか?」

 俺は無言でアイスコーヒーを啜ってからはっきりと告げた。

「あんなぁ莉奈。そんな彼氏もう別れた方がええで?」

 莉奈はそれを聞いた途端、目を見開いて反論した。

「えっ! な、なんでですか。私凄く好きなんですよ、彼氏の事! たまにキレちゃうのは嫌だなって思う時もありますけど、それ以外は本当に優しくていい人なんですよ! どうやって気を付けていったらいいかのアドバイスをくださいよ」
「気を付けるも何も、いくら恋人でも人のスマホチェックなんかせーへんで? それにそんな怪我、今回が初めてやないんやろ? そんなんおかしいで。気に入らん事あるからって暴力振るう男なんて、ろくな男じゃあらへんよ……」
「ゆきちゃんを悪く言わないでください!」

 莉奈がテーブルを叩くと、その場にいた莉奈以外の人は全員息を呑んだ。
 莉奈はハッとして、恥ずかしそうに背中を丸めてストローに口を付けていた。
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