悪役令嬢はおっさんフェチ

茗裡

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1. 想起

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私が前世を思い出して初めに思った事は『絶望』だった。


「これって、アレだよね。親友に貸してもらった乙女ゲームに激似なんだけど…」

何故。何故乙女ゲームなのか。
しかも、ヴェラ・バルリエって悪役令嬢の名前じゃなかったっけ?
私悪役令嬢に転生したの?

「何で…何で一度しかやったことのない乙ゲーに転生しちゃってんの?私…」

私は目の前にある布団を握り締める。
前世で何故死んでしまったのかは分からないけど、転生したのはまだいい。
だけど、その転生先が問題だ。
夢見た異世界。夢見た転生生活。
それなのに…それなのに…転生先が乙女ゲームだなんてっっ​───────!!


「おや、目を覚ましていたんですね」


ブツブツと独り言を呟いていると目の前のカーテンが開けられ一人の男性が現れた。
茶色の髪に長い髪を一束に纏め切れ長の目が特徴的な彼は、確か──

「パジャマ・モエモエ先せ──」
「バンジャマン・エモニエです」


言い終わる前に彼から訂正が入る。

そうでした。
先生の目がとてつもなく怖いです。ごめんなさい。


「失礼致しましたわ」


先生の目が怖くて目を逸らしながら謝罪する。すると、彼から小さく息を吐く音が聞こえた。

「御自分の名前は言えますか?」
「はい。ヴェラ・バルリエです」

返事をして自分の名前を名乗ると先生はひとつ頷き再び私に質問した。


「では、何故貴方が今此処にいるのか思い出せますか?」


何故…?

「いや、本当に!!何故でしょうね?私も不思議何ですよ!!何でこんな所にいるの!ってか、生まれ変わるならどうせならバガボ〇ドとかキング〇厶とか戦国時代とか中華乱世にしてくれって感じなんですよね!!!!」


一息に目覚めて直ぐに思った事を口に出し、言い終わった後にはたと正気に戻る。

しまった……


「おほほほほほ。アテクシじゃなかった…わたくしったら何を言ってるのかしら。寝てる間に何処か打ってしまったようですのでこれで失礼致しますわね。」


そう言って、目覚めた時から上に乗っていたベッドから降りようとしたのだが先生から慌てて止められる。


「待って下さい。まだ話は終わってませんよ」
「……ちっ」


おっと、いけない。
思わず、条件反射で、咄嗟に舌打ちしてしまった。なんて心の中で言い訳してみる。
だけど、まあ先生にまでは聞こえていないだろうと思い先生の方をチラリと見ると。
思いっ切り訝しげな表情してました。


「何だかいつものヴェラ嬢では無いような…というか、別人。いや、でも御自分の名前は分かっていたが本当に打ちどころが悪くて──…」


先生は顎に手を添えて私の顔をじっと見つめブツブツと思案している。
ですよねー。うん、公爵令嬢が先生の名前を間違えたりいきなり訳わかんないこと語り出したり舌打ちなんかしたらそうなりますよね。本当にすみません。

「あの…エモニエ先生…?」

このままでは先に進まないと思い勇気を出して先生に声をかける。
すると、彼はハッと正気に戻り一つ咳払いをした。

「失礼致しました。先程の事は──」

先生はそこで一度言葉を切って私を見る。
私はその視線から逃れるように目線を彷徨わせあさっての方向を見る。

「貴方も聞かれたくないようなので追求はしないでおきましょう」

嘆息と共に吐き出された言葉に安堵するも束の間。

「ですが、公爵令嬢ともあろうお方が舌打ちとは頂けませんね」
「ももも、申し訳ございませんでした」


やっぱり舌打ちは聞こえてなかったかなと思っていたけど、バッチリと聞こえていたようです。私は慌てて勢いよく頭を下げると「くっ、」と笑い声のような息が漏れる声に顔を上げるも……気の所為でした。
先生お願いなので真顔は辞めてください。


「ヴェラ嬢、再度聞きますが何故貴方が今保健室にいるのか、保健室に運ばれる前の事は覚えていますか?」


今度は丁寧に説明含めて質問してくれた。
それにしても、やっぱり此処は保健室だったのか。
前世の記憶を思い出してすぐは前世で頭がいっぱいだったけど今は徐々にヴェラ・バルリエとしの記憶も戻って来ている。
確か私はこのゲームのヒロインであるナディア・デュソリエ嬢に人気のない二階の非常階段に呼び出されて、何か訳の分からない事を言われて……?
そう!いきなりナディア嬢が階段から飛び降りようとしてたから咄嗟に手を掴んだんだけど、重力に引っ張られて私も落ちそうになったからナディア嬢だけ二階に思い切り引き上げて私が階段から落ちたんだった。
今思い出せばナディア嬢が言っていた「ヒロイン」だなんだって話は今なら分かる。彼女も転生者だったのか。

「覚えています。私、二階の非常階段から落ちたんですのよね?」
「ええ、そうです。話によればヴェラ嬢がナディア嬢を非常階段に呼び出し、呼び出しに応じたナディア嬢が二階の非常階段に向かったのを確認して物陰から貴方が飛び出して来たそうですね。両手を突き出して飛び出して来た貴方はナディア嬢を階段に突き落とそうとするも間一髪でナディア嬢が避け、突き落とす事に失敗した貴方はそのまま階段から落ちてしまったとか」

そう言葉を紡ぐ先生の瞳は何処までも冷たい。この目は軽蔑の眼差しだ。
いや、まあ先生に嫌われようがヒロインが既に攻略してようがどうでもいいんだけどさ…。何その話。
いやいやいや、両手突き出して走って来るってどんな馬鹿だよ。そりゃあ、避けられるわっ。
今から貴方を突き落としますよーって意思表示しながら向かって来てんじゃん。

え、なに?もしかして、そんなアホな話を信じちゃってるの?
何かもう訂正するのも面倒臭いしこのままでいいや、うん。好きでもない人に誤解されようが痛くも痒くもないし。

そう、好きな人………


「あ、~~~っ」


私はある事を思い出して叫び声を上げそうになる口を両手で抑え慌てて声を殺す。


「どうされましたか?何か他に思い出したことでも?」


多分先生が勘ぐってる他の思い出した事ではないけど、確かに思い出した。


​──────私、この国の第一王子の婚約者やってるんでした。


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