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第一章
29 隠したい
しおりを挟む連夜さんに助けてもらってから数日たつけど、日に日に連夜さんに対する思いが強くなっている……
この気持ちはもうなんなんか分かってるで? 俺は連夜さんに惹かれてるんや。
とにかくあのイケメンの顔面がタイプなんはもちろんやけど……優しく笑ってきたり、エ、エッチの時の甘々な感じやったり……たまに見せてくる年下の感じやったり……
あ~もう! 好きな所をあげたらキリがない!
でも、俺は所詮連夜さんにしたら今は気に入ってるだけのおもちゃやし……借金が無くなればこの関係も終わるねん。
(こんな気持ち知りたくなかった……)
気持ちに蓋をしたけれど、毎日会うたびに、どんどん惹かれてまうねん。
隠そうにも隠せんくなる!
「はぁ……」
「想? どうしたの?」
「な、なんも、ないで? 気にせんといて佐倉くん」
「はぁ……」
「……また、ため息だにゃー? も、もしかして恋煩い?」
「えっ……ちゃうでっ! ちゃう、ちゃう……」
「ええ~? だって、想気付いてないけど、さっきからため息ばっかだもん!」
「マジで?」
「うん」
(うわぁ……知らず知らずのうちにため息ばっかついてたみたいや……どうやって誤魔化そう?)
「ふふふ~佐倉さんは想が誰を好きでも応援するよ?」
「はっ? なななに言ってんねん! もう! ちゃうて」
~ カラン♪ ~
(助かった!お客さん来たわ)
「あ、いらっしゃいませ~ほな佐倉くんまたな」
「も~もっと聞きたかったのに……仕方ない、想また後でにゃ」
佐倉くんはそう言うと、コーヒーのお代を置いて出ていった。
(好きな人バレてへんよな?)
「はぁ……」
本日何度目かのため息を付きながら、気分の上がらへんままコーヒーを入れ続けた。
――――――――
佐倉side
(想は誰が好きなんだろ~? まあ、普通にいけば連夜だよね? 連夜も絶対想の事好きだし! 両想いじゃん!)
で、でも……もしもだよ? 多部ちゃんのこと好きだったらどうしよう? 俺……想に誰が好きでも応援するって言ったけど……笑えるかな。
俺ね、人にあんなに優しくされたのは初めてだった。
彰太や想が殴られた時は絶望しかなかった。
自分さえよければいいのかって何度も何度も後悔した。想にごめんねっていっぱい言ったけど……佐倉くんは悪ない! って全然責めない。
それより一緒に逃げようと必死で……想も彰太も何ていい奴らなんだろうと思った。
だからさ、想と彰太に迎えが来た時は本当に嬉しかった! 二人には心から、幸せになって欲しいと思ったんだ……。
俺にはもう誰も迎えなんて来ないから……
あの時連夜の顔を見て、もうすぐ俺は猫ちゃん達と一緒にあっちへ逝けるってどこか安心したんだ……あ、もう寂しく無いなぁ~って。
だけど想も彰太も連夜に何もしないでって頼んでくれた。それに夏目さんも、多部ちゃんも……
どーして俺の事をそんなに守ってくれるのかはわからなかったし連夜は渋々だったけど、監視の意味も込めてって俺を雇い、多部ちゃんの家に住むようにと言った。
「えっ! 俺の家に佐倉が住むの? ……ん、まぁいいけど……」
「ご、ごめんね! ちゃんと住処が決まったらすぐ出て行くから!」
「……ちがうよ? そういう意味で言ったんじゃなくて……あぁ~! 大丈夫だから! 佐倉気にしないで!」
「ははは、じゃあ多部ちゃんよろしくね? 佐倉くんよかったね」
「?」
連夜にそんなことを言われたけれど、多部ちゃんは本当は嫌だったに違いない。だけど俺に気を使わせないように言葉を選んでくれて、住まわせてくれた。
だから、なるべく迷惑がかからないように、昼は一生懸命仕事に取り組んで、多部ちゃんが家に居る時は邪魔にならないように極力部屋から出ないようにしてるんだ~
でも、事あるごとに多部ちゃんは俺に話しかけてくるし……胸が痛いや。
(……一体この気持ちは何なんだろう?)
今まで人と深く関係を作った事なんて無い俺にはよくわからないけど、多部ちゃんを見るとドキドキする……。
と、とにかく今は気持ちを切り替えて頑張るしかないよね?
「あ、佐倉? 遅かったから迎えに来たよ?」
「っ……た、たべちゃん?」
想の店を出て、車に戻ろうとしたら後ろから声がした。
振り向くとそこには多部ちゃんがニコニコしながら立っていた。
(もう、優しくしないでよ……胸が苦しいよ……)
「あれ? 佐倉? おーい」
「……ん! もう過保護だぞー! 佐倉さんは大人だよ?」
「ふふふ、そうだね~俺が心配しただけだよ?」
平静を装って応えたけど……首をコテンっと倒しながら俺を心配したって伝えてくる多部ちゃんに見惚れて、この後はもう何も言えなくなり、何も聞こえなかった……。
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