溺愛コーヒーの淹れ方

茶山さく

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第一章

28 大キライ

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 佐倉くんとしょう君と一緒にドアが開けられた瞬間に体当たりして逃げよ! ってさっき決めたんやけど不安でいっぱいや……
(もし捕まったら? 俺達どうなるん?)
 チャンスは1度きりしかないし、失敗は許されへん。
「……」
「想……大丈夫」
「ああ、きっとうまくいく」
 佐倉くんとしょう君に励まされ、何とか心を落ち着かせる。
 
 どれくらいそうしてたかはわからへんけど……確実に足音と話し声がこちらに近付いてくる。
 自分の心臓が聞いたことないぐらいの音で鳴り響き、耳に纏わりつく……
 震える身体をギュッと抱きしめ、静かにその時を待つ。

 ― コツコツコツ…… ―

 ― カチャッ ―

 ― ガチャリ ―

 ドアが開けられ、誰かが入ってくる。

(今やっ!)

 俺達は身体を低くしてドンッと体当たりすると、相手を突き飛ばした。
 その一瞬、相手が怯んだ隙をかいくぐって、佐倉くんとしょう君も前に走り出す!
(いけた!)
 と思ったんやけど……必死に走り出そうとした時に腕を掴まれ、後ろの男に羽交い締めにされた。

「っ…離してや! 痛っ!」
 ギュッと力を込められ、抵抗しようにも動けへん!
「っ……佐倉くん、しょう君! 俺に構わず逃げて!」
 前に見える佐倉くんとしょう君に向かって必死で叫んだんやけど……
(アカン! アホか! なんで二人共戻ってくるねん!)
「佐倉くん……しょう君! アカンて! グスッ……っお、れの事なんて放っといてええから……逃げて!」
 涙が止まらへんけど一生懸命の大声で伝える……
 俺を掴まえてる手はビクとも動かんし、俺は逃げられへん……ごめん。
 でも、二人が無事やったらいい。
「っ……離せや! お、おれを傷付けたら……連夜さんがきっと怒るからなっ」
(こんなんハッタリや、でもちょっとでも怯んでくれたら……)

「そうだね」
(えっ? 何で連夜さんの声が?)
「想を傷付けたら、俺なにするかわからないよ?」
「っ……うそや……」
「遅くなってごめんね? もう大丈夫だから」
 ……後ろを振り向くとそこには笑ってる連夜さんがいた。

 俺は連夜さんに抱きしめられながら、しょう君達を見ると、多分泣いてるしょう君が夏目さんに抱きついていた。
(俺らが体当たりしたんはこの二人やったんや。よかった……ほんまに皆無事で)

「れ、連夜さん何でここにいるってわかったん?」
「想の事なら何でもわかるからかな」
「? 答えになってないで?」
「ま、企業秘密だね」
「……よーわからんけど……助けに来てくれてありがとう」
「……可愛い」

 ― チュッ ―

「な、なにすんねん!」
「え? して欲しそうだったから?」
「っ……んなわけないやろ!」
 しょう君が信じられへん目で、何か言いたそうに夏目さんと連夜さんを交互に見てるけど……あーもう! 気にせんとこ!

「連夜さん、ちょっと離して……」
「やだ」
「家やったらなんぼでもしていいから……」
「……」
「あ、い、いまのは無し!」
 スッとすぐに手を緩めて解放してくれたけど……完全に墓穴掘った? 
(アホか俺は!)
「とにかく想も彰太も無事でよかった……」
 笑いながら見守ってくれてた夏目さんに言われかなり恥ずかしくなる。
「ありがとう……あ、多部ちゃんは? ってか連夜さんの叔父さん達は?」
「多部は事後処理中だよ」
「……はははは、こえ~」
(大丈夫なんかな? 多部ちゃん……)
「想……勘違いしてるだろうけど、多部ちゃんはマジで鬼畜だからな」
「そうだな……」
「ああ……」
 何か遠い目をしながら連夜さんも、しょう君も、夏目さんも言ってるんやけど想像つかへんかった。

「佐倉くんも無事でよかった~」
 しょう君の近くにいた佐倉くんにギュッと抱きついて伝えると、佐倉くんが震えてる。
(やっぱ怖かったんやろな……)
「そ、想……俺から離れて? お願い」
「なんでやの~もう!」
「想の後ろからの殺気で殺られるから……」
「? 連夜さん?」
「金髪……想を騙した覚悟は出来てるな?」
 連夜さんが怒ってるのがわかる。
「……はい、謝っても済む問題じゃないけど、申し訳ございませんでした!」
「お前の処遇は……後で考えるけど、満足に暮らせると思うなよ?」
「っ……もちろん」
 佐倉くんになんかするつもりなん?
「……って、ちょ、ちょっと待って!」
「どうした?」
「連夜さん、佐倉くんに悪い事しようと思ってるん? 佐倉くんもしょう君も俺の事必死で守ってくれたんやで?」
「だけど想を騙して……」
「そんなん関係ない! 嫌やで! もし佐倉くんに何かする気なんやったら……俺……連夜さんの事……」


 ――――――――
 
 連夜side

「大キライになるから!」
「っ……」
 
 そして俺は金髪、もとい佐倉に手は出せず……行くあても無いと言うので、何故か少し嬉しそうな多部ちゃんの家に住み込みで俺の部下として働く事になった。

「あははははは! 最高だよ! それで佐倉くんはここで働いてるんだ?」
 遊びに来た櫂に事情を話すと大笑いしていた。
「……それに彰太にも夏目さんにも頼まれたしな? まあ、多部ちゃんが実際の所は一番必死に情状酌量を頼んできたからね?」
「多部ちゃんかあ……意外とああいうタイプが好きなんだね~むっつりだ」
「多部も連夜と一緒で独占欲の塊だから、佐倉はこれから大変だと思うよ?」
「確かにな~!」
 夏目さんと彰太が笑いながら話しているけど、俺も多部ちゃんのイメージには同調する。
「そういう彰太君も夏目さんに独占欲出してほしいんじゃないの?」
「はっ?ば、ばぁか! そんな訳無いだろ?」
「えっ……いらないの?」
「……いる」
「ほらね? もう彰太君ははツンデレなんだから」
 櫂はケラケラと笑いながら、その後も彰太をからかっていたが、急に仕事が入ったからと言って足早に帰っていった。
(最近俺が叔父の残して逝った・・・残務処理が忙しいから、櫂なりの労いに来たのかもな?
 まあ邪魔者は片付けたし、これからは少し落ち着いたらいいけど)

 あのあと、叔父の会社も裏の事業も……あそこにいた叔父の部下ごと消えたのはここにいるメンバーと多部ちゃん以外は知らない。

 だって想を殴ったんだよ?
 当然の報いだ。

(さて、これが終わったら俺も久々に想の店に行くか)

 緩む口元を抑えながら、俺は仕事へ戻った。


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