溺愛コーヒーの淹れ方

茶山さく

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第一章

23 痛み※暴力表現あり

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「佐倉? こいつが朝日向想か?」
「……は、はい」
 その男が入った瞬間凍り付くような緊張が走り、さっきまでの佐倉君の雰囲気が一変する。
「ふんっ、連夜も見る目がないなぁ~ハッハッハ! まさかアイツがこんな普通の男にうつつを抜かすとは! 九条グループも落ちたものよ」
「……」
 なんやこいつ……初対面やけど、一瞬でめっちゃ嫌いになったわ。
「まあ、連夜を失脚させるには丁度いいけどな」
「……勘違いしてるやろうけど、俺にそんな価値ないで?」
「勝手に喋るんじゃねぇ!」

 ―― パンッ! ――

「った……」
(痛った……こいつ! 思いっきり叩いてきよった)
 偉そうな男の隣に居た屈強な男に頬を叩かれ、思わず顔をしかめる。
「お前っ! 想には手をあげないって言ってたじゃんか!」
 そう言うと佐倉君が目の前の屈強な男性に掴みかかりに行き、そいつを殴る。だけど相手も負けてないようで、佐倉君の身体を軽々と持ち上げ床に投げつけた……。
「っ……」
「佐倉君!」
 佐倉君の綺麗な唇からは血が出てる……
「おい! やめろよ!」
「やめろや!」
 気付けば、佐倉君の身体を庇うため塩顔イケメンと俺は屈強な男の前に立ってた……
「……彰太……想……」
 正直俺を連れてきたんは佐倉君やし、この状況も怖いし……痛いも嫌や! けど、なんか佐倉君を守りたいと思ったねん。

「約束の話が違いますよね? ボスの言ってた通りに連夜のお気に入りをここへ連れてきたら、俺と佐倉は解放するって……」
「……はははは! それを信じてたのか? そうだよな~お前らはそれが望みだったもんな! はははは! 五体満足で解放されるって? こんなに俺達の事知ってるのに?」
「っ……」
「連夜さえ失脚すれば、お前らに用なんてないんだよ! 今まで騙されてくれて、ありがとう。きっとこれが最後の別れになるな」
「……えっ?」
「噓だ……ねぇ! 俺達を騙してたの? 解放してくれるんじゃないの?」
「するわけないだろ? 連夜が俺達に手を出せないように、今まで人質として夏目の面倒を見ていたけど、それももう用無しだからな」
「っ……ふざけんな! 俺は、俺は……」
「はははは! 今まで役に立ったよ? ありがとう! あ、佐倉も頑張ったね~? お前の店はあの世で再建しろよ? 向こうで大好きな家族やネコにも会えるから」
 話がなんとなくしか見えへんけど、騙して俺を誘拐させて……仲間やのに、見捨てるってことか?
「……えっ? 噓だ! ……なあ、噓って言えよ!」
「嘘なわけないだろ? 佐倉、お前がそこの男と出会い、仲良くなってくれたのは俺の期待以上だった。だから、本当の事を教えてやったんだぞ! お前の家族も忌々しいネコ達も葬ったのは俺だ」
「っ! ……殺す! お前ら全員殺してやる!」
「はははは! 出来るものならなっ、やれ!」
「はい!」
 佐倉君はスーツの男に飛びかかろうとしたけれど、屈強な男達に止められ何度も殴られる……。
「やめろよ!」
「やめろ!」
 一方的な暴力を止めうと、間に入った俺達も身体中殴られたり、蹴られたりしてた。
(あかん、このまま死ぬんや……)

 そんな事を考えながら、ただただ降り注ぐ暴力に耐えてた。


「……そろそろやめろ」
「はい!」
「あまり傷ものにするとこの後売れないからな? 俺には魅力が分からないが、なんせあの連夜を虜にした男なら高額で売れるだろうしな……はははは」
 言い返す力も無いぐらいにボロボロにされてたんやけど……
「さて……この二人に用は無い。片づけろ!」
「はい!」
 そういうと俺以上にボロボロになった佐倉君と、イケメンを連れてこうとする。

(……アカン! 連れてかれたら、もう二度と会えへん気がする……)
「……っちょ、待って! おい、待てや!」
「……なんだ?」
「れ、連夜さんに愛されてる俺が今ここで舌噛んで、死んだら連夜さんは怒ってどうなるやろな……? お、俺が連夜さんに頼んだほうが失脚だってすぐ出来るやろ」
「何が言いたい?」
「……俺が協力するから、二人を連れていかんといて欲しい……じゃなきゃ今から舌噛む!」
(頼む! これしかこの二人を守る方法が考えつかへんねん……騙されてくれ……)
「ふっ、確かに死なれたら今は困るな……じゃあ、存分に協力してもらおうか。おい」
「はい」
 屈強な男は佐倉君達を乱暴に俺の横に投げつけた。
「っ……」
「ゲホッ……」
「はははは! さて、とりあえず連夜に連絡をするか! ああこれでようやく、ようやく……全てが手に入る」
 ボロボロの俺達三人を部屋に残し、鍵をかけると笑いながら男達は出ていった。
(助かった……でもこれからどないしよ……助けもこんよな。ああ、きっともう会えへんやろな……こんなんやったら素直になればよかった)
 
 
 我慢してた涙がとめどなく流れた。


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