溺愛コーヒーの淹れ方

茶山さく

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第一章

6  佇まい

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 多部side



 夏目さんと想が居なくなった部屋から俺以外を退出させ、椅子の上で楽しそうに想の資料を読んでいる連夜を見ていた。

「多部ちゃん、想の事隠してた?」
「……」
「ふーん……」
「想は、本当に良い子なんだよね……」

 本当に想は良い子だった。優しくて、面白くて、気遣いが凄い。皆を惹きつける魅力を持っているのに本人は全然それに気付いてないのも鈍感で可愛い。
 
 俺はこの世界に入って色々な債務者に会って来て、嘘ばかりの奴等に嫌気が差していた。でも、お仕事だし目の前で泣かれても何にも感じないし……

「多部は本当冷酷非情だよね~」って夏目さんに言われたことを思い出す。

 まあ、確かに債務者達がどうなろうと俺には関係ないからね。

 ふふふ。

 でもそんな俺でも、想を守ってあげなきゃって思ったんだよ?本当に、自分が1番自分に驚いてるよ……


「多部ちゃん?でもさ、主に隠し事はよくないよね?」
「っ……」
「……申し訳ご、ざいま、せん」

「死にたい?」

 空気が変わる。

 首元にナイフを突き付けられているような感覚……呼吸をするのも忘れるぐらいのヒンヤリとした空間に瞬時に様変わりする。
 冷や汗が背中をつたうのがわかる…

 若干数年で会長の後継者となり、九条の名を引継いだこの男の一言で全てが変わる。人を殺めることなんて何の躊躇いもない。何を考えているかなんて誰もがわからない、圧倒的支配者……これが我がボスの九条連夜なのだと改めて感じていた。

「なーんてね、怒ってないよ?ふふ。あ、多部ちゃんは想のコーヒー飲んだことあるんだよね?」
「……うん」
「そっかー楽しみだなぁ」



 一変して穏やかになった連夜を見てホッとしたけれど、一体この人は想に何をさせたいんだろうか?と俺の頭の中は?マークでいっぱいだった。





 ーーーーーー


 遡ること五年前……




「今日からこいつの下についてもらう。多部、夏目さんよろしくね?」
「九条連夜です。よろしくお願いします」

 そう会長から紹介されたのは、とても綺麗な顔をしているまだ二十歳過ぎの青年だった。
 しかし、まとっているオーラは只者ではなく、冷やかでこちらが緊張するほどのプレッシャーを撒き散らしている。

 それはもう……王者の佇まいだった。

「よろしくお願いします。九条さん」
「よろしくお願いします」

「あ~多部、夏目さん、こいつの方が年下だし新参者しんざんものだからさ……お前らは連夜って呼んでやって?(色々な面でこの先支えになってやって欲しいんだよ……)まあ、誰も居ないときにだけどな?連夜」

「はい、もちろんです。俺の方が年下なので、3人の時は敬語とかやめてもらえると有り難いです。仲良くなりたいので……多部さん、夏目さん。よろしくお願いします」
 そう伝える連夜の顔は少し優しくなった。

「わかりました…あ、じゃなくてわかった。じゃあ俺も多部ちゃんで大丈夫だから」
「俺のことも好きに呼んでいいよ?敬語もいらないし」
「はい、じゃあ、多部ちゃん、夏目さん改めてよろしく」

「ふはっ、よかったよ。連夜はさぁ、俺がずっと昔からお世話になっていた九条さんの忘れ形見なんだ……あ、今日は後から来るけど、腹違いの弟と一緒に引き取らせてもらった」
「本当にありがとうございます」
「いや、俺も輝久てるひさもお前らを引き取らせてもらって感謝してるよ?」
「ならよかったです」


 会長の辰巳たつみさんと後から来る輝久さんは学生時代から同性同士のパートナーだけど、日本有数の大会社の会長をしているが故、後継者の問題があると反対してたいた人も少なくない……でも、後継者が見つかったみたいでよかった、これでジジイ達は何も言えまいと心の底から祝福をしていた。顔には出さないけれど、きっと隣の夏目さんも同じことを考えているはず……


「連夜と今から来るかいには九条の名をそのまま引き継いでもらって、ゆくゆくは九条グループは連夜が、俺たちの会社は櫂に引き継いでもらう予定だ」

 なるほど……でもこんな裏稼業を引き継ぐとなると、多分この男は只者じゃないんだろうな……
 そんな事を考えていると、輝久さんが来たようだった。

「ごめんごめん、辰巳~お待たせ!」
「てる、遅いよ?」
「ごめんね~ちょっと用意に手間取っちゃってさ」

 久々に会った輝久さんは相変わらず少しポヤポヤしていたけれど、姿を見た瞬間辰巳さんの雰囲気が柔らかくなったのを感じる。ほんとに素敵な二人だよ……

 あれ、謝る輝久さんの後ろにいる、あの子が連夜の義理の弟くんかな?


 うわぁ、うわぁ……凄く可愛い。


「は、はじめまして櫂です」
「え、天使?」 
「っほんとに!」
 そこにいたのは、夏目さんの言葉に思わず同意するぐらいの美しい少年だった。
 まだ15歳という幼さが残る櫂くんはハーフ?のようだった。とても純粋そうで、そして可愛いらしくて……正直、連夜と違ってこんな裏社会には似合わないと思っていた……会長の方で跡を継がすといってもフロント企業だし俺達との裏の関わりも多くて危ない事もある。

 でもさ、辰巳さんと輝久さんはデレデレだし、この先自分たちの子供として連夜と櫂を引き取ったんだと思うと胸が熱くなる。それに、きっと何があっても絶対に二人は守って行くんだろうなと思い、少し安心した。

 そして同時に、俺達も連夜を支えながら守って行こうと強く思った。



 ーーーーーー


 あれから連夜は完璧な九条グループの社長になった。

 前に俺を夏目さんは冷酷非情と言ったけれど、俺達はこの数年間一緒に仕事をして、連夜以上の冷酷な男を見たことがないと感じていた。
 そして、誰も寄せ付けず……瞬く間に裏社会のトップへと登りつめた。

 
 もちろん連夜と夏目さんと俺は裏では仲は悪くないしむしろ言いたいことも言える仲だ。でも、連夜が本当に何を考えているのかは数年経った今でも分からなかった……





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