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第一章
7 毎日
しおりを挟むコンコンとドアをノックする夏目さんの後ろからコーヒーを持って入る。
「し、失礼します……お待たせ、し、ました……」
手の震えでカップがカチャカチャと音を奏でてるけど、とりあえずなんとか九条さんの前に置く事ができた。
「ん、じゃあいただくか……」
ーゴクッー
静寂の中……
永遠とも思える時間をひたすらじっと過ごす。
「うん、うまい」
「っ……あ、ありがとうございます。うわっ、あ、すいません……色々びっくりして腰が……」
淹れたコーヒーをうまいと言われ、ホッと肩を撫で下ろしたのと同時に、緊張が少し和らいだ俺は腰が抜けて立ってられへんくなって、床にヘタリと座りこんだ。
「だ、大丈夫?想?」
多部ちゃんが屈んで心配そうに聞いてくれるんやけど、俺はとにかく頭が真っ白になっていたので返事も儘ならず、下から皆を見上げていた。
「ははは、腰抜けたの?あ~そのままでいいよ」
必死に何とか立ち上がろうとしている俺の姿にクスクスと笑いながら、九条さんは残りのコーヒーを口へ運んでいた。
「想、店をどうしても守りたいんだったよな?」
「は、はい!店はホンマに大切なんです!店以外やったら何を持ってってもいいです……何でもしますから……一生懸命働きますから!おねがいします……」
「何でもね……」
そう呟き、急にジッと時が止まったようにしばらく動かなくなった九条さんの姿に、恐怖からか背中に一筋の汗が伝う。
怖っ!!あかん、また泣いてしまいそうや。
……
「なんでもするんだよな?」
「は、はいっ」
「じゃあまずは……とりあえず俺が想の借金を肩代わりしてやるよ」
「……えっ?」
「は……?」
「うそ……でしょ……?」
俺がびっくりするんはともかく、俺以上に驚いてる多部ちゃんも夏目さんも、イケメン台無しの顔でぽっかりと口を開けたままフリーズしていた。
てかさ、全く思ってもない提案に衝撃を隠せないんやけど……何でやろ?なんかあるん!?
「ただし、条件がある」
「条件ですか?」
「毎日、俺にコーヒーを淹れること。そうだな……まあ、一杯五十万で買ってやる」
「えっ……?」
いやいやいや、一杯五十万……?高すぎやろ?店で出すコーヒーの何倍の値段やねん!高すぎるって!!一体、何が目的やねん!?
「いやいや、流石に高すぎます……」
「……?」
「高くはないだろ?……後は、九条さんじゃなくて連夜って呼べ。敬語もやめろ」
金銭感覚どないなってんねん!!ってか全然俺の話を聞いてくれず、訳のわからん要求までされてるんやけど、無理に決まってるからな?
「いやいやいや、おかし過ぎますって……なんのメリットもないですよ?」
「……」
えっ?なんか俺がおかしいことでも言ってるんかな?ジッと俺を九条さんは見つめてくるんやけど……
助けて欲しいし、この状況を説明してっ!!って隣に立っている多部ちゃんと夏目さんを見ても、二人とも完全にまだフリーズしてた。
「想、連夜って呼んでみろ?敬語もいらない」
「や、それはおかしいですって!」
「……」
全く九条さんの意図している話がわからへん!なんやこのカオスな状況は……わけわからんくなった俺は、また涙が溢れてくるのを感じた。
「……想?ほら、早く」
どうしたらいいんや……でも、なんとなくやけど呼ぶまで許してはもらえないような、無言の圧力が伝わってくるので、とりあえず意を決して呼んでみることにした。
「れ、れ、連夜…さん、わ、わ、わかりました」
「ん~まあ今はその呼び方でいいけど、敬語はやめろよ?」
「……っ、わ……わかった」
その瞬間、ふわりと笑顔になった九条さん……いや、連夜さんの顔を見て心拍数がドクンと跳ね上がったのがわかる。男でもドキッとする笑顔に顔が熱くなるのを感じながら、改めて真正面からじっくり凝視したけど……なんやこのイケメン!!//
「よし、詳しい契約書は多部ちゃんに作ってもらうけど……とりあえず今日からこの家に住んでね?」
えっ?住むん?一緒に?今から?
マジで?マジで言うてるん?たしかに、借金もあるし……けど!拒否権はないんかな?
あ、無さそうな雰囲気やわ。
「……っは、はい」
「違う」
「う、うん、わかった」
「ははは、それじゃあ今日は解散。多部ちゃん?はまだ固まってるし……夏目さん、想に部屋案内してやって」
「はいはい、わかったよ」
さっきまでフリーズしてた夏目さんに支えてもらいながら、頭が?ハテナマークでいっぱいの俺は応接室を後にした。
と、とにかく毎日コーヒー入れたらええんか?よくわからへん……
ーーーーーー
「ここを使うといいよ。しかし、連夜に凄く気に入られてしまったね?今まであんなに何かに執着する連夜は初めて見たよ……ふふふ、これからよろしくね?」
「は、はい……」
「想、我が主人に敬語じゃないのに、俺に敬語使うのはおかしいでしょ?」
「う、うん……」
「ふふ、ありがとう。じゃあ今日はゆっくりおやすみなさい」
「うん……」
夏目さんに別れを告げ、広すぎるベッドに横になった途端、俺は今日の多すぎる情報と精神的疲労から意識を飛ばした。
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