溺愛コーヒーの淹れ方

茶山さく

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第一章

5 うさぎ?

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 九条side




 はあ……
 いつものようにくだらない債務者の選別作業。
 毎回毎回反吐が出る。
 借りる奴らは大抵がクズ。嘘や綺麗事を並べて金を借り、返せなくなったら泣きついてくる。同情なんてさらさらする気もなければ、こいつ等が野垂れ死のうが、どう生きようかなんてどうでもいい。

 ただ、今日いつもと一つ違う事といえば……最近、足繁あししげく多部ちゃんが通っているコーヒー店の男が来る事だった。
 多部ちゃんとの約束では、次の日に連れて来て貰う予定だったけど……

 『気が変わった』

 何故この時そんなことを考えたのかは分からなかったが、多部ちゃんに電話をかけ今から連れて来るようにと指示をした。

 この日呼び出さなければ、二度とこの男と会う事は無かっただろう……と気付いたのは、ずいぶん経ってからだった。


 ーーーーーー

 いつもの応接室で行われる定例会。
 ここに入った瞬間から探しているのは、多部ちゃんが連れてきた男だった。

 多分……あれか?

 他の債務者達と一緒に絨毯に座りうつむいているので表情は全く見えないが、順番が来たら否応なしに見ることになるだろうと、選別作業に取り掛かった。

 最初は五十歳ぐらいの男だった。子供の治療費にと貸した金を女性に貢いでいたようだ。まあ、こんな事は日常茶飯事だったので、返せる方法を提案した。

 臓器は、まあまあ高いし……こいつのパーツを売れば子供の治療費ぐらいは稼げるかもしれない。
 ああ、俺ってなんて優しいんだろうか。
 なぜか泣いて許しを請う男性に疑問を抱きながら、次の債務者を呼び出した。

 この女はAVで稼いでもらい返済してもらおうと思っていたけどやめた。
 俺に色目使ってくるとか……大層な自信に嫌気がさす。確か篠山って言う変態が若くて綺麗な女を欲しがっていたし、丁度いい。売れて二億ってとこかな?

 ……こいつは男色家のじじいに
 ……これはパーツだな。
 ……
 ……




 最後は……多部ちゃんに連れて来てもらった奴か。

「最後は君だね。朝日向想あさひなそうくん」
「は、はい」
 夏目さんが声をかけ、足元がおぼつかない様子でこちらへ来たのは、朝日向想という男だった。

 説明を聞きながら、手元にある資料に今日初めて目を通す。借金は多分騙されて出来たものだとは思うが、そんな些細な事はどうでもいい。

 二十九歳には見えない、少し幼さの残る顔。アーモンド形の目と綺麗な鼻筋、薄い唇。スラリとした体系で長い手足……華奢に見えるけど身長は175cmはあるのか。

 そしてなぜか、目が離せないくらいの独特なオーラがある……

 
「おねがいします、店だけは売りたくないです!何でもします……一生懸命働きます!やから!!」


 ードクンッー


 正直、俺の目の前で涙を流す奴なんて腐る程見てきたし、それで心が動くことなんて今まで一度たりとも無かった。

 けど……

 何だこれは?

 男だよな?


 ……可愛い過ぎないか?
 
 目を真っ赤にさせてプルプル震えているその姿は、まるでうさぎのようだった……



 俺は無性に声がもっと聞きたくなって、この男に話しかけていた。

「ねぇ、お前、いや……想には何ができる?人と違う何かできるの?」
「っ……何もできないです。けど!!お、美味しいコーヒー淹れれます……」

 思ってもいなかった返答に、思わず笑ってしまった。

 コーヒーねぇ~



 そういえばさっき店を売らないで!何でもするって懇願してたけどさあ……何でもって意味わかってる?
 ちょっとイラッとするのは何故だろう。

 気付けば男色家のじじいに売ろうかなんて嫌な事を言って想の表情を見つめるけれど、想は店の事ばかりを気にしていた。

 そして何故か社長と呼ばれるのが嫌で、自身の名前を伝え「九条さん」と呼ばれると、ゾクっと体の奥から何かが込み上げてきたのがわかった。

 店を残すと言うとあからさまにホッとした表情をする……泣いたり、驚いたり、感謝したり……
感情が豊か過ぎて、想の表情をもっともっと見たくなる。

「あ、そうだ、想コーヒー淹れてみてよ?」
 俺の発言に多部ちゃんと夏目さん、それにこの部屋にいる部下たちが驚いたのがわかる。

 俺自身も何故こんな事を言ったのか驚いていたけど……

 「とりあえず今から淹れてきて?」と言うと、ますます多部ちゃんと夏目さんがびっくりした顔をしていた。

 はははっ……

 
 ねぇ、泣きやんでよ?
 今度は笑った顔も見てみたい。

 俺は夏目さんに連れられ、応接室から出ていったうさぎの後ろ姿をじっと見つめた……


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