溺愛コーヒーの淹れ方

茶山さく

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第一章

4 驚愕

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 恐ろしいほどのオーラをまき散らす目の前の男性は今までに出会ったことが無いぐらいの美形やった。少し俺より年下に見えるのは勘違いやろうか? 日本人離れした容姿をしていて、誰をも魅了しそうな整った顔つきだけど、纏わりつく只者ではない黒いオーラが、この近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
 俺は圧倒されながら、何とか立っているねんけど……
 チラッと社長の隣に立っている多部ちゃんを見ると、心配そうにこっちを見てるように思った。

「最後は君だね。朝日向想さん」
「は、はい」
 着物の男性が、資料をパラパラとめくりながら美しい声で俺の名前を呼ぶ。声だけではなく、しぐさの一つ一つが無駄なくとても綺麗な男性だった。
「借主が逃亡、保証人の朝日向さんには五億の借金を返済して頂く必要があります。自分のお店をお持ちなので、立地的にも二億ほどで売れるので……後は三億になりますかね?」

 「えっ……」
(店を売るん?)
 思ってもなかった提案に驚いたのと同時に、ポロリと涙が溢れる。
(嫌や、嫌や! それだけは……)
「お、おねがいします、店だけは売りたくないです! 何でもします……一生懸命働きます!……やから」
 あかん……涙が止まらへんわ。
「……と言われましても」
「そ、そこを何とか! 何とかなりませんか?」
 俺はとめどなく溢れる涙を必死に服の袖で拭きながら、着物の男性に懇願をしていた。

「ねぇ、お前、いや……想には何ができる? 人と違うかできるの?」
 今までのやり取りをじっと見つめていた、社長に腰が砕けそうな程の甘い低い声で言われる。確かに、俺には何ができるんやろか……
「っ……何もできないです。けど! お、美味しいコーヒー淹れれます……」
「……」
だってホンマやもん、俺にはコーヒー淹れることしかできひんもん。
「はははっ! いいねぇ~? コーヒーか……」
 目の前にいる多部ちゃんと……確か夏目さんと呼ばれていた着物の男性、それに黒スーツの男達全員が笑い出した男性に驚愕したように見えた。

「で、どうされますか?」
 多部ちゃんが社長に問いかける。
「そうだな、まあ、その容姿なら……男色家のじじいには高く売れるだろうな?」
「……でしたら、手配を」
(まあ仕方ないか……店を守れるんやったら俺の身体ぐらい安いもんや)
「あ、あの……しゃ、社長さん……店は……」
「九条だ。九条連夜くじょうれんや
「く、九条さん! 店は! 店だけは守りたいんです! やから……」
「ああ、残してやるよ?」
「あ、ありがとうございます!」
 店は守れたでマスター……よかった、ほんまに。
 これから何が待ってるかは全く想像できへんけど、借金全部返したらまたいつか店に戻れるかな……
「じゃあ想行きましょうか? (大丈夫だよ、俺がこの後肩代わりしてあげるから……想、もう泣かないで)」
 多部ちゃんの後ろに付いていき、ドアの前に来た時やった。

「あ、そうだ、想コーヒー淹れてみてよ?」
「えっ?」
「はっ?」
「えっ……?」
 同時に夏目さんと多部ちゃんが驚いた声を上げたんやけど、俺の頭の中もハテナマークで一杯やった。

「はははっ! ねぇ想、とりあえず今から淹れてきて?」
「は、はい……」
 静まりかえった空間で、ただただ目の前の男は楽しそうに笑っていた。


 ――――――――――――――


 夏目side
 
 今日もただ変わらない債務者の定例呼び出しがあると思っていただけだった。だけど、今日はどうやら大雨? いや嵐? になるんじゃないだろうか……それぐらいの出来事が目の前で行われている。

「あ、あの、キッチン使わせてもろてありがとうございました……」
「いや、全然構わないですよ」
「ふぅ……」
 さっきまで部屋で泣いていた顔とは全く違い、とても愛おしそうにコーヒーを注ぐ。
 ただコーヒーを淹れているだけなのに、自然とその姿に目を惹かれた。……これはきっと多部も知ってるな? 
 ふふっ……疑惑が確信に変わった時に、朝日向想から声をかけられた。

「あ、あの、で、できました……えっと……」
「夏目と言います、夏目亮なつめりょう。朝日向想さん」
「ありがとうございます。えっと、では夏目さん……出来ました。あ、あと俺も想で大丈夫です、敬語も」
 キッチンにコーヒーのいい香りが立ち込め鼻腔を刺激する。
「では想、出来上がったの?」
「は、はい……」
「そんなに緊張しなくて大丈夫。きっと美味しいよ」
「夏目さん…ありがとうございます」
 
 ふわりと笑う笑顔にドキっとしたのは内緒だよ?
 まあ、想を気に入った社長なら悪いようにはしないだろうね……もし何かあっても多部が色々企んでそうだし。

「じゃあ行こうか、想」
 
 俺達のボスが待っている応接室へ……


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