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第一章
2 圧倒的な存在
しおりを挟む(怖い……)
連れてこられた応接室では誰もが泣いていたり、下を向いて座っていたけれど……その沈黙を破ったのは多部ちゃんだった。
「本日皆様にお集まり頂きましたのは、社長自ら今後の返済方法についてのお話をさせて頂きたい方々です」
多部ちゃんはそう言うと社長である人に何か話かけに行ったみたい。
さっきから拭っても拭っても出てくる涙で、ぼんやりしか見えへんねんけど……椅子に座っている人物は遠目でもわかる程の、圧倒的支配者のオーラをかもし出していた。
「お一人ずつこちらに呼び出しますので、速やかにこちらへ来てください」
よく通る声の方向を見れば、いつの間にか多部ちゃんの横に黒髪で着物を着た、凛とした佇まいの男性が立っていた。
(何が始まるんや?)
と思ったのも束の間に、立て続けに多部ちゃんがパラパラと資料を見ながら男性に話しかけた。
「では、時間がもったいないので始めていきますね。近藤さんで合ってますか?」
「はい……」
一人目の五十歳ぐらいの男性が呼び出されてたみたいやけど、その人はすぐに机の前で土下座をしていた。
「ゆ、許して下さい!」
「最近逃げ回っていたみたいですが、貸したものをきっちり返してもらえますか?」
「い、今すぐには……少し待って頂ければ! 必ず! だから……」
男性の必死の懇願が嫌でも耳に入ってくる。
「子供の……治療にお金が必要なんです!」
「そうですね」
「じ、じゃあ!」
「そうですね、子どもの治療費にと貸したお金ですが……ずいぶんと女性に貢がれていたみたいですね?」
「っ、いや、それは……」
(えっ……嘘なん? 子供の為ちゃうんか!? 嘘ついて女の人に貢いでるとか、どないやねん!)
俺は見ず知らずの男性に何だかモヤっとしながらも、耳を傾けていた。
「……クズですね。すぐに返済は出来ますか?」
「で、出来ません! す、すぐには無理だけど、必ず借りた以上のお金は用意します! だから……あと少しだけ待って貰えませんか?」
と、必死で頭を下げているおっちゃんが見える。
「あのさ、何か勘違いされてませんか? こっちも慈善事業でやってるんじゃないんだよなああ゛!?」
―― バンッ!! ――
多部ちゃんが思いっきり机を叩き、びっくりして思わず声が出そうになった。
た、多部ちゃんやんな? ……あれは誰や?
俺の出会っていた多部ちゃんの姿と違いすぎて、さっきから冷や汗が止まらない。
(あかん、怖すぎる……)
俺はギュッと自分の身体を抱きしめ、俯きながらこの恐怖の時間が早く終わることを願った……。
「社長いかが致しますか?」
「んー、こいつは……パーツでいいや」
「かしこまりました」
「ぱ、パーツ? パーツって……」
「近藤さん、最近は臓器も高くなって来ましたからね? 良かったですね、借金返せますよ!あ、でも借金額引いたら何か残るかな? ふふふ」
まさか、パーツにするってこと? 臓器を?
「そ、そんな……許してください! し、死にたくない!」
男性は涙ながらに、謝罪と死にたくない!!って何度も叫んでいたけど、黒スーツの男達に両脇を抱えられ、引きずられて連れていかれた……。
「じゃあ、次の方~」
静まり返った部屋の中、何事もなかったように次の人が呼び出されると、俺の隣に座ってた若くて綺麗な女性が立ち上がって前に進んでいく。
「え~あなたはホストに嵌り、多額の借入がウチから有りますね? 返せる予定はありますか?」
「っ……な、無いです」
「困りましたね」
「確かに、ホストには嵌ってました。借金も必ず返します……だ、だから……少し待って頂けないでしょうか」
「こちらが待つメリットはどこにありますか?」
多部ちゃんの隣にいる着物の男性が淡々とした声で尋ねていた。
「わ、私を好きにして頂いて構いません! 沢山ご奉仕させて頂きますし……自信もあります」
そっか、綺麗な女性にはその手があるんか……。
せやけど、なんか女性の方から社長に迫ってるように聞こえるのは勘違いなんかな?
「あなたみたいな、美しい男性は初めて見ました……あなたの為なら何でもします。私を好きに使っていただいて結構ですので……」
「ははは、何でもするの?」
「はい、夜の営みの方も満足させますわ」
「ふ~ん、いいねぇ……」
「でしたら……」
「ねぇ夏目? 何でもする女性欲しがってた奴いるよな?」
「はい、篠山様ですね、確か若い女性が好きでしたね。まあ、ただ……一度連れて行った女性の姿は二度と見ることは無いですが……ふふふっ」
「あ、そうだ! あの変態野郎ね~」
夏目と呼ばれた着物の男性と楽しそうにしながら、ゾッとするような内容を話してる。
「では、篠山様に連絡を取りますね」
「ああ。ってことだから、せいぜい俺の為に頑張れよ」
「え……ち、違う! 私はあなたに……嫌あ!」
泣き叫びながら抵抗する女性やったけど、篠山?という男との電話口の会話を聞いて諦めたのか、抵抗もせず黒スーツの男達に連れていかれた。
(俺は一体どうなるんやろか……でも……店だけは守りたい)
泣きながら連れていかれる人達の声に震えながら、そんなことを考えていたら俺の周りにはもう俺以外の人間はおらんかった。
「次が最後だね。想、こっちへ来て?」
自分の鼓動以外聞こえないほど静まり返った中、多部ちゃんに呼ばれ一歩ずつ男たちが待つところへ向かう……こうなったら腹を括るしかない。
俺は泣いている顔を必死で上げ、高級そうな椅子に座っている社長と呼ばれる男をじっと見つめた。
(えっ……な、なんなんやこの人)
そこには支配者のオーラを佇ませながら、息をするのも忘れるほどの美しい男性が座っていた。
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