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雨の祭り
しおりを挟む夜山は風のない雨の中にある。
青葉から垂れる雨粒の音頭。フキの広い葉の下で源氏蛍に明かりが灯る。アマガエルが一斉に鳴くと、カタツムリの触覚が踊った。
夜に開かれる雨の祭り。木々は楽しそうに水滴を飛ばして、眠っている森の住民を起こしていく。
池で目を瞑る睡蓮の白い花。眠たそうに丸い葉を揺すると波の輪が水を走る。水面に落ちる雨粒は波紋に乗って狭い池を泳いだ。雨の祭りを嫌うハルゼミ。羽を閉じて木陰でジッと耳を塞ぐ。木は呆れながらも春の蝉に傘を与え続けた。
月を隠す雲は夜の祭りを盛り上げる。山に降り頻る強い雨。そこかしこから溢れる山水。暗闇の紫陽花の妖美な紫に雨水が伝う。葉の裏で黒い蝶が羽を広げた。雨を弾く鱗粉が僅かに流れ、水玉の隙間を縫って雲の向こうを目指す。トノサマガエルの背で欠伸をするマイマイカブリ。祭りの夜は動かないアメンボ。蜘蛛の巣を揺らす雨に帰りの遅れた蟻が飛ばされる。まだ咲かないムクゲの花が笑い声を上げた。
雨の祭りは夜通し続く。次第に明るむ暗い空。雨粒の垂れるフキの影。名残惜しそうに鳴くカエルの声は遠い。睡蓮は顔を上げ、ハルゼミは鳴く準備を始めた。
梅雨の終わりを告げる祭り。
雨の祭りの後の空は、いつも晴れた。
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