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ロマ 〜果ての魔女〜
しおりを挟む太陽の王の躍進。夜の王の没落。
全てを支配した王の荒野の城。夜の消えた世界で夢を見なくなった民は永遠の眠りにつく。
世界の果ての小屋。昼と夜が交差する空。
果ての魔女ロマは静かに目を開いた。瞳を隠す黒い帽子。黒いローブに赤い唇。渇いた地平線の彼方に微笑むロマ。歩き始めた魔女の後ろに流れていく世界。
城の上で光の神の祝福を受ける王は天を睨んだ。狭い星など、もはや王の眼中にはない。宇宙の支配を目論む太陽の王。
王の背後に立つロマ。光の神の沈黙。影のない魔女の微笑み。
「夜の王は生きているよ」
空気を振動させないロマの声。
驚いた太陽の王は振り返った。祝福の間に佇む黒いローブの女。黒い帽子の下で微笑む赤い唇。怒った王は灼熱の炎で魔女の体を焼き尽くした。
「夜の王は生きているよ」
そこに居て何処にも存在しない魔女。炎の中を移動するロマは大理石のテーブルを指さした。
「ほら、ここ」
白いテーブルの影。ロマが笑うと影も笑う。笑い声に呼応する笑い声。世界中の影が一斉に笑い始める。
「夜の王は生きているよ」
太陽の王の憤怒の炎。城を焼き尽くした王は外に飛び出した。
業火に包まれる山。熱風に干上がる海。小石の影で笑う夜の王に怒る太陽の王。
やがて、世界を焼き尽くした太陽の王は安堵した。
「夜の王は死んだぞ」
後ろを振り返る太陽の王。背後に立つ黒い魔女に太陽を落とすと、王は天に向かって高笑いする。
「夜の王は生きているよ」
驚いた王は辺りを見渡した。だが、夜をもたらすような物は存在しない。
「そこに居るじゃないか」
ロマの赤い唇が動く。魔女の生存に声を失った太陽の王は、ゆっくりと下を向いた。自分の影。高らかに笑う夜の王。
太陽の王の恐怖と怒り。最後の咆哮を上げた王は自らの体を焼き尽くした。太陽の王の消滅と共に消える夜の王。
果ての魔女ロマは静かに微笑んだ。何もない世界で一歩踏み出す黒い魔女。魔女の後ろに流れていく世界。
そっと目を開いた花は黒い魔女の後ろ姿を見た。岩の上で抱き合っていた虎の親子は辺りを見渡す。魔女の跡を追う青い波。果ての魔女の噂話を始める山の木々。
目を覚ました太陽の王と夜の王。呆然と顔を見合わせた二人はまた喧嘩を始めた。二人の頬をそっと撫でる長い指。黒いローブの影に固まった二人は慌てて手を握り合う。
帽子を外す黒い魔女。世界の果てから世界を見つめるロマの微笑み。
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先ほど通知で投稿を知り、即拝読しました。
文字を見ているのですが、映画などの1シーンを観ているような。そんな感覚で、こちらの物語をのぞかせていただきました。
世界観、そして文章。この2つの調和によって、一気に、引き込まれました。
黒い帽子の女性。とある一枚の写真からこの小説のイメージが生まれました。果ての魔女の物語。ロマはショートストーリーとして完結させてもらいましたが、また別の機会に、長編小説としてのロマを書くときが来るかもしれません。
ご感想ありがとうございました!