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【第五部:聖なる村】第二章
ツァラとフェラン
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振り返ると、黒髪の女性が両腕に大きなジャガイモの入った籠を抱え、片足で扉を蹴り開けながら近づいてくる。ルーナは慌てて娘をたしなめた。
「ちょっとツァラ! はしたないわね、恥ずかしい。ほら、今朝話したフェランよ。あなたの従弟よ!」
お互いに目が合うと、二人ともびっくりして声を上げた。
「あらやだ! フェランてあんただったの? じゃあ、あんたたちが探してたのって……コクトーだったのね!」
「ま、まさか、あのときの占い師が……僕の従姉、ですか⁉」
二人の様子を見てルーナは嬉しそうに手を叩いた。
「二人とももう知り合いなの? 世界は狭いわね。フェラン、この子は私の娘でツァラっていうの。町で占い師をしているのよ、全然儲からないけどね」
「母さん、一言余計でしょ」
ツァラは重い籠をどかりとテーブルの上に置くと、息をついて額の汗をぬぐった。
「あのときは失礼なことをいって悪かったわね。まあでも本当のことだから。あたしのおばあちゃんがシレノスだったからかしら、あたしも多少は予見の力があるみたいでね」
フェランはツァラの言葉を反芻した。
ツァラは従姉だから、ツァラの祖母は僕の祖母だ。ならば……。
ためらいがちに、フェランの右手首を見せた。
「そのおばあさまのかけらは、今、ここにあります……。僕の母が、亡くなる直前に僕に埋めたんです」
ツァラはフェランの色白な手首の内側にある傷跡を見つめた。
「あんた……本物の、予見の民になったのね……」
フェランは、ルーナとツァラに、十三年前のイルマ襲撃事件の話を聞かせた。母のセイラは無残に殺されたこと、自分は何とか生き延びてエルシャに拾われたこと、そしてしばらく記憶を失っていたこと。話しながら、フェランは自分自身忘れていたことをまた少し思い出していた。
コクトーが歌っていたあの歌は、昔母が、よく口ずさんでいた歌だった。そのときはアルム語ではない知らない言葉だと思っていたが、いつも耳にしていたので意味もわからずいつのまにか覚えていた。あれは、母が自分の故郷で覚えた歌だったのだ。
フェランは、今までずっと引っかかっていた胸の奥のほうの棘がやっと抜け落ちた気がした。記憶をなくしたまま過ごしていた不安定な十三年間。そして、記憶を取り戻したあとも何か全体に霧がかかったようなもどかしさと、あまりにも過ごす時間が短かった両親のこと。すべてが洗い流され、自分がいるはずだった場所に戻ってきたかのような懐かしさ。
コクトーは、村の住人は今では二十人もいないといっていた。この村をなくしてはいけないと、フェランは思った。
「ちょっとツァラ! はしたないわね、恥ずかしい。ほら、今朝話したフェランよ。あなたの従弟よ!」
お互いに目が合うと、二人ともびっくりして声を上げた。
「あらやだ! フェランてあんただったの? じゃあ、あんたたちが探してたのって……コクトーだったのね!」
「ま、まさか、あのときの占い師が……僕の従姉、ですか⁉」
二人の様子を見てルーナは嬉しそうに手を叩いた。
「二人とももう知り合いなの? 世界は狭いわね。フェラン、この子は私の娘でツァラっていうの。町で占い師をしているのよ、全然儲からないけどね」
「母さん、一言余計でしょ」
ツァラは重い籠をどかりとテーブルの上に置くと、息をついて額の汗をぬぐった。
「あのときは失礼なことをいって悪かったわね。まあでも本当のことだから。あたしのおばあちゃんがシレノスだったからかしら、あたしも多少は予見の力があるみたいでね」
フェランはツァラの言葉を反芻した。
ツァラは従姉だから、ツァラの祖母は僕の祖母だ。ならば……。
ためらいがちに、フェランの右手首を見せた。
「そのおばあさまのかけらは、今、ここにあります……。僕の母が、亡くなる直前に僕に埋めたんです」
ツァラはフェランの色白な手首の内側にある傷跡を見つめた。
「あんた……本物の、予見の民になったのね……」
フェランは、ルーナとツァラに、十三年前のイルマ襲撃事件の話を聞かせた。母のセイラは無残に殺されたこと、自分は何とか生き延びてエルシャに拾われたこと、そしてしばらく記憶を失っていたこと。話しながら、フェランは自分自身忘れていたことをまた少し思い出していた。
コクトーが歌っていたあの歌は、昔母が、よく口ずさんでいた歌だった。そのときはアルム語ではない知らない言葉だと思っていたが、いつも耳にしていたので意味もわからずいつのまにか覚えていた。あれは、母が自分の故郷で覚えた歌だったのだ。
フェランは、今までずっと引っかかっていた胸の奥のほうの棘がやっと抜け落ちた気がした。記憶をなくしたまま過ごしていた不安定な十三年間。そして、記憶を取り戻したあとも何か全体に霧がかかったようなもどかしさと、あまりにも過ごす時間が短かった両親のこと。すべてが洗い流され、自分がいるはずだった場所に戻ってきたかのような懐かしさ。
コクトーは、村の住人は今では二十人もいないといっていた。この村をなくしてはいけないと、フェランは思った。
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