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【第五部:聖なる村】第二章
奇跡の村
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目が覚めたとき、すでに太陽は真上まで昇っていた。まぶしい陽の光に目を細めながら外へ出ると、空は雲ひとつない快晴だった。木でできた小さな家が点在していたが、どの家もちょっとした庭を備えており、そこには色とりどりの花が可愛らしく咲いている。よく見ると、開け放たれた窓際にも小さな鉢や花瓶が置かれており、同じように鮮やかな花が飾られていた。少し遠くへ目をやると、畑のような広い土地があり、腰くらいまでの緑の葉が並んでいたり、背の低い植物が野菜のような赤い実をつけていた。隣接して、同じくらいの広さの花畑が見える。赤い花、黄色い花、青い花。これだけ色鮮やかに咲き誇る花々を、見たことがなかった。これらの風景は、まるで何かのおとぎ話に迷い込んでしまったかのように、とても平和に満ちていて、現実離れしているように見えた。あるいは本当に夢を見ているのかとすら思えたが、その素晴らしい風景を切り取るかのように高く築かれた壁と、その外側に見える森は、この村が山の奥深くにひっそりと佇む造られた集落なのだということを示していた。
「エルシャ! おはよう!」
どこからか元気な女性の声が聞こえ目をやると、ナイシェとフェランがラミの手を握って駆け寄ってきた。
「ここ、すごく素敵なのよ。向こうにはきれいな小川が流れているの。すごく透きとおった水でね、今まで三人で遊んでいたのよ」
ナイシェが嬉々としてそう話す。ラミの手には、花畑で摘んできたのか、白い小さな花が三輪握られていた。
「かわいい花でしょ! これね、ナイシェとフェランの分なの。もうひとつはあたしのだけど、特別にエルシャにあげるわ!」
ラミがそういって花を一輪エルシャへ差し出す。エルシャは微笑みながら受け取った。
「ありがとう、ラミ。ここが気に入ったみたいだな」
「うん! まるで魔法みたい! 朝起きたらこんなところにいるなんて」
ラミはゼムズの背中で眠っていたから知るはずもないが、同じくらい屈託なく話すフェランとナイシェを見ていると、エルシャは昨夜見たものは幻だったのかと思うほどだった。昨夜、確かに、自分たちの目の前にはところどころに岩のむき出しになった山肌が佇んでいたのだ。ごく普通の山の景色だったし、気でできた高い塀や、ましてや民家の影など、まるでなかった。それが、コクトーの一言で山肌が切り取られ、その奥に小さな村が出現したのだ。この謎を、どうやって解けというのだ?
茫然としているエルシャの肩を、後ろから叩く者がいた。
「おはよう。よく眠れたようだな」
コクトーが笑っていた。
「おまえの疑問を解いてやるよ。君たちを連れてきた訳も話すから、来てくれ」
コクトーにつられて昨夜一晩を過ごした家へ戻ると、ディオネとゼムズがそわそわしながら室内を歩き回っていた。
「さて、何から話そうか……。そうだな、まずはこの村の話からだな」
コクトーが話し出した。
「この村は、サラマ・レーナという。神の民やその家族が、はるか昔からひっそりと隠れて暮らしている、そんな小さな村だ……」
冒頭から予想を超えた話で、一同は開いた口が塞がらなかった。エルシャは、昔学んだ未完のナリューン語の辞書を何とか思い返そうとした。
「『神の僕』……」
思い出せないエルシャの代わりに、フェランが呟く。
「そう。文字どおり、神の僕たちが創った村なんだ。まあ、いろんな事情があって、今は二十人ほどしか住んでいないがな……。この村が造られたのは、今から何百年も前と聞いている。俺たちの祖先が、サラマ・アンギュースを忌み嫌う人々やつけ狙う輩から逃れるために創ったんだ。人々の目を避け、静かに暮らすために、山の奥深く、けして誰にも見つけられないように」
コクトーはそういって笑った。
「初めて来た君たちが驚くのも無理はない。ここは、当時の神の民たちが力を合わせて創った、奇跡の村だからね」
「エルシャ! おはよう!」
どこからか元気な女性の声が聞こえ目をやると、ナイシェとフェランがラミの手を握って駆け寄ってきた。
「ここ、すごく素敵なのよ。向こうにはきれいな小川が流れているの。すごく透きとおった水でね、今まで三人で遊んでいたのよ」
ナイシェが嬉々としてそう話す。ラミの手には、花畑で摘んできたのか、白い小さな花が三輪握られていた。
「かわいい花でしょ! これね、ナイシェとフェランの分なの。もうひとつはあたしのだけど、特別にエルシャにあげるわ!」
ラミがそういって花を一輪エルシャへ差し出す。エルシャは微笑みながら受け取った。
「ありがとう、ラミ。ここが気に入ったみたいだな」
「うん! まるで魔法みたい! 朝起きたらこんなところにいるなんて」
ラミはゼムズの背中で眠っていたから知るはずもないが、同じくらい屈託なく話すフェランとナイシェを見ていると、エルシャは昨夜見たものは幻だったのかと思うほどだった。昨夜、確かに、自分たちの目の前にはところどころに岩のむき出しになった山肌が佇んでいたのだ。ごく普通の山の景色だったし、気でできた高い塀や、ましてや民家の影など、まるでなかった。それが、コクトーの一言で山肌が切り取られ、その奥に小さな村が出現したのだ。この謎を、どうやって解けというのだ?
茫然としているエルシャの肩を、後ろから叩く者がいた。
「おはよう。よく眠れたようだな」
コクトーが笑っていた。
「おまえの疑問を解いてやるよ。君たちを連れてきた訳も話すから、来てくれ」
コクトーにつられて昨夜一晩を過ごした家へ戻ると、ディオネとゼムズがそわそわしながら室内を歩き回っていた。
「さて、何から話そうか……。そうだな、まずはこの村の話からだな」
コクトーが話し出した。
「この村は、サラマ・レーナという。神の民やその家族が、はるか昔からひっそりと隠れて暮らしている、そんな小さな村だ……」
冒頭から予想を超えた話で、一同は開いた口が塞がらなかった。エルシャは、昔学んだ未完のナリューン語の辞書を何とか思い返そうとした。
「『神の僕』……」
思い出せないエルシャの代わりに、フェランが呟く。
「そう。文字どおり、神の僕たちが創った村なんだ。まあ、いろんな事情があって、今は二十人ほどしか住んでいないがな……。この村が造られたのは、今から何百年も前と聞いている。俺たちの祖先が、サラマ・アンギュースを忌み嫌う人々やつけ狙う輩から逃れるために創ったんだ。人々の目を避け、静かに暮らすために、山の奥深く、けして誰にも見つけられないように」
コクトーはそういって笑った。
「初めて来た君たちが驚くのも無理はない。ここは、当時の神の民たちが力を合わせて創った、奇跡の村だからね」
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