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【第四部:神の記憶】第五章

再会

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 タストスの夜は静かだった。遅くまで開いている店の灯りがちらほら見え、通りには数人の人影。テサロのような不気味な静けさとも、アルマニアのような若者たちの賑わいとも違う、心地よい静寂だ。一行はしばらく歩いたあと、いくつかの通りの交わる広場と、その中央にある小さな噴水を見つけた。右手前方には、塗装が剥げてほとんど字の読めない宿屋の看板があり、左手にはすでに締まっている定食屋らしき店。それは、フェランの頭の中の後継とまったく一致していた。

「ここです。ここからその右の道へ入ったところのはずです」

 みなフェランに従う。
 テサロでの一件のあと、ハーレルは結局宿へ戻っては来なかった。彼を捕らえて何とか話をするまであと一歩のところまで来たのに、それは叶わず、再びハルを見失ってしまったのだが、フェランが記憶を取り戻したとき、彼は新たな予見とともに目覚めたのだった。それは、小さな噴水のある広場の近くでハルと出会うというものだった。その広場がどこにあるのかフェランにはまったくわからなかったが、情景を細かく説明すると、ナイシェがいい当てたのだ。

「それはタストスのカリーナ広場だわ。若い女性と小さな天使の石像があるところね。昔、ニーニャ一座の巡業で行ったことがあるの」

 ナイシェのいうとおり、一行は難なく予見の地にたどり着くことができた。大事なのは、その後いかにしてハルと接触するかだった。フェランはただ将来起こる出来事を予見するだけで、それがいつ起こるのかはわからないのだ。しかし、そんな心配は無用だった。フェランのいうとおりに道を曲がった途端に目に入ったのは、その先の細い道から大通りに出ようとして角を曲がったばかりのハルの姿だった。ハルは出くわした人物を見て心底驚いたようだった。一瞬足を止めると、すぐに背を向けて大声を出した。

「助けてくれ! やつらだ!」

 ハルは再び細い道へ走り込んで姿を消した。エルシャたちもすぐそのあとを追ったが、角を曲がったところで思わず足を止めた。ハルは、独りではなかった。目の前には、長身のエルシャよりさらに頭一個分ほども背の高い大男が、月明かりによく輝く剣を振りかざして立ちはだかり、ハルはその後ろに隠れるように小さくなっていた。エルシャは反射的に腰の剣を引き抜きかけたが、薄暗い路地でぼんやりと浮き上がった男の顔を見て、その手を止めた。

「エルシャじゃねえか!」

 先に言葉を発したのは大男のほうだった。幾分しわがれた低い声。それはしばらく会っていなかったイルマの友人、ゼムズだった。

「ゼムズ! おまえ、こんなところにいたのか!」

 ゼムズは大声で耳慣れた笑い方をした。

「傷は治ったし、おまえらがなかなか迎えに来てくれねえものだから、我慢できなくなって出てきたってわけよ。こうして用心棒をしながらよ」

 そういってゼムズは後ろを振り返った。そこには、すっかり混乱した様子のハルが棒のように立ち尽くしている。口を開けたり閉じたりしながらやっと発した声は裏返っていた。

「おまえ、こいつらの仲間だったのか! 騙したな!」
「確かに仲間だが、騙しちゃいねえ。俺はおまえの命を狙うやつから守る約束をしただけだ。こいつらは、まあどういう事情かは知らねえが、まずおまえを殺そうとはしちゃいないと思うぜ」

 しかしハルは信用しなかった。何か大声を出しながら走り出そうとした彼の腕を、ゼムズが素早く掴んだ。

「おっと兄ちゃん、俺はまだ二日分の金をもらってないぜ」
「金なら持っていけ! 僕を放せ!」

 ゼムズはしばらく考えてからいった。

「いや、金はいらねえや。その代わり、ちょっと黙ってこいつらの話に耳を貸してやれ。それでチャラにしてやる」

 そして同意を求めるようにエルシャのほうを見た。エルシャがうなずく。

「話を聞くだけでいいんだ。そのあとは何もしない」

 しかしハルは、ただひたすら大声を出してもがくだけだ。ゼムズは次第に苛立ちがつのり、とうとう我慢できなくなって暴れるハルの腕をねじりあげた。ハルが一瞬高い悲鳴をあげる。

「おい兄ちゃんよ! 俺は乱暴なんぞしたくないんだがね、おまえがそううるさいと力づくでも黙らせたくなるんだよ」

 ハルは一瞬にして青ざめ、すぐに黙り込んだ。ゼムズが満足そうにうなずく。

「よし。俺たちはこれから宿に戻る。みんなでだ。それからこいつらの要件を聞く。それまでおとなしくしていれば、おまえはまったくもって安全だ。わかったな?」

 ハルは口を真横に結んで何度もうなずいた。
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