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【第四部:神の記憶】序章

太古の夢

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 天が裂け、その間からとめどなく溢れ出す暗黒の色をした雲が、すべてを覆った。存在するあらゆるものを吸収し、無へと還元するような、底のない闇色。黒雲が一瞬のうちに大地を包み込み、そこにあるすべてのものを即座に消滅させる。あとに残されたのは、荒れ果てた土と灰。
 突然、全世界を揺るがす雷鳴が轟いた。銀色の光が暗闇を貫き地面に突き刺さる。地に亀裂が生じ、それらが連なった。やがて大地は轟音とともにぱっくりとその口を開けた。その深さは限りがなく、地獄まで続いているかのようだ。

 消えろ。何もかも、滅びるがいい。すべてが滅びたあと、この世界に君臨するのはこの私だ。

 漆黒の大雲がその声を響かせる。

 おまえの治世は終わった。これより、新しい時代が開けるのだ。
 そのとき、目もくらむようなまばゆい閃光が天を駆け抜けた。光は一点に集まり、みるみるうちに大きくなっていく。力強く世界を照らし出そうとする、金色の光の珠。大雲がそれを包み込もうとする。しかし、金の光はその輝きを失わなかった。やがて雲は自らの力のもとに凝縮し始めた。その色はさらに深くなり、その力はさらに強大になっていく。

 これより、すべては私が統べる。すべては私のもの――!

 金と黒の力が、ぶつかり合った。凄まじい音がして一瞬何もかも見えなくなり、次に起こったのは――





 全身に冷や汗をかいて跳ね起きたとき、横にいたのは小さな少女だった。

「ママ、大丈夫? またうなされてたよ」

 彼女は少女の小さい手をそっと握りしめた。その手は小刻みに震えている。

「大丈夫だよ。大丈夫だから戻ってお休み」

 少女が去ったあと、彼女は大きく息を吐いて頭を抱えた。

 頭痛がする。

 彼女は思った。

 この苦しみに、私はいつまで耐えられるだろうか。
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