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【第三部:とらわれの舞姫】第七章

人殺しの民

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「みんな、朝だよ! 起きて起きて!」

 エルスライの町が様々な店と客でにぎわい始めたころ、ナイシェたちは威勢のいい少女の声で目を覚ました。
 十五歳の少女サリは、エルシャたちとともに過ごすようになってから三日と経つころにはすっかりいつもの元気を取り戻していた。早起きのナイシェやフェランをしのぐ勢いで起床し、みなが起きるころにはすでに朝食までテーブルに並んでいる。

「今日はどこに行くの? あたしにも手伝わせてよ、人探しなんでしょ? 特徴とか教えてくれたら、あたしだって力になれるよ」

 朝食を囲みながら、サリがエルシャの様子をうかがう。

「ん……そうだな、サリなら……」

 エルシャはしばらく考え込んだあと、歯切れ悪くそういった。
 サリにはまだ、サラマ・アンギュースやショーの妹を探していることは、話していなかった。出会ったときにはサリ自身が精神的に余裕がない時期だったし、そもそも軽はずみに口にできる内容でもない。それでも、彼女が今の生活から離れるためとはいえ自分たちとともに旅をすることを選んだのだから、いつかは話さないといけない。
 考えた末に、エルシャは口を開いた。

「……サラマ・アンギュースを、知っているか?」

 サリは怪訝な顔をした。

「もちろん知ってるよ。神から特殊な能力を授かったっていう、あれでしょ?」

 サリの表情を見て、エルシャの顔が曇る。

「そう。俺たちが探しているのは、彼らなんだ」

 サリは、今度はあからさまに不快感を示した。

「なんでまた、あんな人殺したちを?」
「人殺しだなんて――」

 思わずナイシェが声を荒げる。サリは驚いてナイシェを見つめた。ナイシェはあわてて口を閉じると、用心深く再び口を開いた。

「人殺しなんて、誤解よ。彼らは命を張って、神の力を代々守ろうとしているんだから」
「ナイシェは彼らの肩を持つの? あたし、ちゃんと知ってるんだから。サラマ・アンギュースは、かけらを継ぐために親を殺すんでしょ?」

 するとディオネが口を挟んだ。

「それは違うよ。どこにも、好き好んで親を殺す子供なんていやしない。彼らにとっては、神の力は自分の命よりも尊いものなんだ。だから親は、自分が死んだらかけらを取り出すように子供にいう。必要なら、自分が死ぬ前であっても、かけらを取り出すように、子供にいうんだよ。そして子供は、親から授かったかけらを今度は自分が命がけで守る。だから……人殺しとは、意味が違うんだよ」

 サリはわからないとでもいうように首を振った。

「人の命より大切なものなんてあるの? 第一、彼らを探し出してどうしようっていうの?」
「彼らを探し出すようにとおっしゃったのは、神ご自身なんだ」

 エルシャの言葉に、サリが目を丸くした。それを見て、ナイシェが耳打ちする。

「エルシャは神官だっていったでしょ? 神様が、サラマ・アンギュースを探すように、エルシャに直接伝えたそうなの。……その理由は、まだよくわからないんだけど……」
「……それってつまり、ナイシェたちはサラマ・アンギュースの味方ってこと? そんなのおかしいよ。アルマニアの人間なら、誰だってサラマ・アンギュースは家族殺しの悪魔だって知ってる。ナイシェたちは、騙されてるんだよ。本当は神様じゃなくて、悪魔にそそのかされてるんじゃないの?」

 射るような目つきでそういうと、サリは席を立ってそのまま自分の部屋へと姿を消した。

「サリ……!」

 追いかけようとしたが、ナイシェの足は動かなかった。追いかけて、次はもっとひどい言葉を投げかけられるかもしれない。そう思うと怖かった。ディオネがそっと妹の肩を抱く。

「……時間をかければ、わかってもらえるよ。大丈夫」

 背後で、エルシャのため息が聞こえた。

「……少し、早すぎたのかもしれないな」

 そういうエルシャは眉をひそめ、腕を組んでいる。

 悪魔にそそのかされてるなどといわれ、第一級神官のエルシャは自分以上に傷ついたに違いない。

 ナイシェはそう思った。ナイシェ自身は、神の民であっても、それを自覚したのはつい最近だし、それまで神という存在すら意識したことはなかった。しかしエルシャは、小さいころから神官の道を歩み、神を信仰し、無条件に信頼してこの神託に身を投じたのだ。

「……私、話してくるわ」

 ナイシェはサリの部屋へ向かった。
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