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【第一部:王位継承者】第四章
旅の意味
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その夜、ゼムズの助けを借りて得た宿屋で、三人は身を休めることになった。あえて寝室は一つだけの安い部屋を選び、エルシャとフェランは毛布だけ借りて居間に寝ることにした。本来なら満身創痍の体を柔らかいベッドの上でゆっくり休ませたかったが、正体不明の輩に何度も襲われた以上、そういうわけにもいかない。
ナイシェが眠りについたのを確認してから、二人は静かに毛布に包まった。
「……エルシャ」
月明かりがわずかに窓から差しこむだけの、静まり返った部屋の中で、フェランがふと口を開いた。
「ん?」
「エルシャは……」
そこまでいって、フェランは黙りこんだ。
エルシャが話そうとしないならば、今はまだ話すときではないからだ。
そう思い、なんでもない、といおうとしたとき、エルシャが先に言葉を発した。
「いいたいことはわかってるよ。……おまえにも、話さなきゃな」
エルシャは毛布を首元まで引っ張り上げると、足元に視線を落としたまま続けた。
「隠すつもりはなかったんだが、神から直接賜った御言葉だから、俺も安易にいっていいものかためらってしまってね。……いや、俺自身、どう対処していいのかわからないくらいなんだ……」
常に冷静で迷うことなく決断を下してきたエルシャが困惑をあらわにするのを見たのは、これが初めてだった。
「やはり……宮殿を出たのと、神からの御言葉は、関係があったのですね……。だから、ゼムズがサラマ・アンギュースと聞いて、あんなに簡単に信用したのですね」
エルシャは返事の代わりに大きくため息をついた。
「なぜ俺なのか……こんな、平気で剣を振り回している神官なんて」
「神が……エルシャに、何か託されたということですか……。サラマ・アンギュースに関わる何かを」
エルシャは足元を見つめたまま考えるように黙っていたが、やがて目を上げ、振り返らずにいった。
「勝手に振り回して、怪我までさせて……すまない」
フェランは包帯に巻かれた右腕に視線を落とすと、すぐに顔をあげて笑った。
「エルシャが気にすることではありません。あなたと出会ったときから、僕は決めていたんですから――ずっと、あなたについていこうと」
エルシャもしばらくしてからふっと笑った。
「……そうだな、俺もおまえを見つけたときから、ずっとそばに置いておこうと心に決めていたよ。……もっとも、おまえが男だったことは計算外だったけどな」
複雑な表情を浮かべて何かいおうとするフェランを遮って、エルシャは続けた。
「でも、おまえとの関係には、満足している。感謝しているよ」
今度はフェランの目をまっすぐ見つめたエルシャの言葉に、フェランはごまかすように毛布を掛け直した。
エルシャは、神から託された大きな重荷を背負っている。今はまだその内容を話すことはできないようだが、一人で負うには重過ぎる荷だ。誰かの支えを必要としているのならば、それは自分の役目に違いない。
「……あなたにならば、喜んでついていきますよ」
フェランはそういうと、毛布を手繰り寄せて目を閉じた。
ナイシェが眠りについたのを確認してから、二人は静かに毛布に包まった。
「……エルシャ」
月明かりがわずかに窓から差しこむだけの、静まり返った部屋の中で、フェランがふと口を開いた。
「ん?」
「エルシャは……」
そこまでいって、フェランは黙りこんだ。
エルシャが話そうとしないならば、今はまだ話すときではないからだ。
そう思い、なんでもない、といおうとしたとき、エルシャが先に言葉を発した。
「いいたいことはわかってるよ。……おまえにも、話さなきゃな」
エルシャは毛布を首元まで引っ張り上げると、足元に視線を落としたまま続けた。
「隠すつもりはなかったんだが、神から直接賜った御言葉だから、俺も安易にいっていいものかためらってしまってね。……いや、俺自身、どう対処していいのかわからないくらいなんだ……」
常に冷静で迷うことなく決断を下してきたエルシャが困惑をあらわにするのを見たのは、これが初めてだった。
「やはり……宮殿を出たのと、神からの御言葉は、関係があったのですね……。だから、ゼムズがサラマ・アンギュースと聞いて、あんなに簡単に信用したのですね」
エルシャは返事の代わりに大きくため息をついた。
「なぜ俺なのか……こんな、平気で剣を振り回している神官なんて」
「神が……エルシャに、何か託されたということですか……。サラマ・アンギュースに関わる何かを」
エルシャは足元を見つめたまま考えるように黙っていたが、やがて目を上げ、振り返らずにいった。
「勝手に振り回して、怪我までさせて……すまない」
フェランは包帯に巻かれた右腕に視線を落とすと、すぐに顔をあげて笑った。
「エルシャが気にすることではありません。あなたと出会ったときから、僕は決めていたんですから――ずっと、あなたについていこうと」
エルシャもしばらくしてからふっと笑った。
「……そうだな、俺もおまえを見つけたときから、ずっとそばに置いておこうと心に決めていたよ。……もっとも、おまえが男だったことは計算外だったけどな」
複雑な表情を浮かべて何かいおうとするフェランを遮って、エルシャは続けた。
「でも、おまえとの関係には、満足している。感謝しているよ」
今度はフェランの目をまっすぐ見つめたエルシャの言葉に、フェランはごまかすように毛布を掛け直した。
エルシャは、神から託された大きな重荷を背負っている。今はまだその内容を話すことはできないようだが、一人で負うには重過ぎる荷だ。誰かの支えを必要としているのならば、それは自分の役目に違いない。
「……あなたにならば、喜んでついていきますよ」
フェランはそういうと、毛布を手繰り寄せて目を閉じた。
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