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【第六部:終わりと始まり】第七章
懐かしの再会
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自分でもおかしいと思うくらい走って、黄昏宮の入り口に着いた。衛兵が二人、敬礼をして道を開ける。
「ジュノレ様より伺っております。お通りください」
フェランは上がった息を整えながら、客室の扉を叩いた。返事がない。少しためらってから、フェランはそっと扉を押し開けた。
きれいに整頓された、女性の客室だった。大きな居室の奥に開け放たれたガラス戸があり、その向こう側に、緑の芝生の上で戯れる栗色の髪の少年と女性を見つけた。
部屋へ足を踏み入れると、女性が振り向いた。それまで少年に向けられていたやさしいまなざしが、フェランを捉えると驚いたように大きく開き、それから満面の笑みに変わった。
「フェラン!」
そう呼ぶと、笑顔のままフェランのもとへ駆けてきた。
別れてからずっと、ナイシェのことを思い出そうとするたびに浮かぶのは、花のように明るく可憐なこの笑顔だった。
「フェラン! ずっと会いたかったの。私、許してもらえるなら、やっぱりあなたと一緒に――」
ナイシェの言葉を聞くよりも先に、勝手に体が動いた。フェランの腕がナイシェの体を包み込み、強く抱きしめた。驚いたナイシェが言葉を飲み込む。フェランは自分の胸にうずまったナイシェに向かっていった。
「……おかえりなさい、ナイシェ」
「……フェラン?」
ナイシェがくぐもった声をあげる。フェランは腕を緩めると、改めてナイシェの顔を見た。うっすらと頬が紅潮し、大きな目で自分を見ている。そんな少女に向かって、フェランは微笑んだ。
「ずっと、あなたに会いたかった――会ってようやく、気づきました。エルシャも僕も、みんな――あなたが、必要なんです」
ナイシェの瞳に涙が滲んだ。
「私も――離れ離れになるまで、気づかなかったの。私にも、みんなが必要。間に合って、よかった」
フェランは優しくナイシェの頭を撫でた。目の前で泣くナイシェを見ても、もう以前のような、ナイシェを思うたびに疼いた胸の痛みは起きなくなっていた。
いつの間にか、庭にいた少年が近寄ってきてフェランの服の裾を引っ張っていた。
「あなた、誰?」
帽子のように覆いかぶさった髪の隙間から自分を見ているのだろうか、表情の読めない少年がフェランを見上げている。体格からすると、ラミと同じくらいだろうか。ナイシェが気づいて説明を始めた。
「こちらはエルシャのお友達のフェランで――」
そのとき、前触れもなく再び扉が開き、ラミとゼムズが勢いよく入ってきた。
「ナイシェ! 会いたかったよ!」
「おうフェラン、抜け駆けするんじゃねえよ」
ラミが押し倒さんばかりにナイシェに抱きつき、ゼムズは相変わらず声も体も大きい。やや遅れてうしろからエルシャが追いつき、呆れ顔でいった。
「おいおい、もう少し静かに頼むよ」
懐かしく、居心地のいい四人との再会だった。
「ナイシェがいない間大変だったのよ。エルシャもゼムズも全然食事の準備を手伝ってくれないし、フェランと二人で頑張ってたんだから」
ラミがナイシェにくっついたままさも不満そうに口を尖らせる。
「おいおい、その分遊びにはたくさん付き合ってやったろうが」
ゼムズがすかさず反論する。
「そうね、じゃあゼムズは許してあげる。エルシャなんてね、パン一枚も焼けないし、フェランも途中から女の子になってどっかに行っちゃうし」
「女の子になって……?」
「ああ、その件は、またあとで……」
フェランが慌ててラミの口を塞ぐ。そのとき、三度客室の扉が開いた。
「なんかいつもより騒がしいけど、何事?」
何気なく部屋に戻ってきたディオネは、その場にいる四人の姿を見て完全に固まった。
「ディオネ! 久しぶり! 元気なのね!」
真っ先にラミが駆け寄る。小さな体を抱き止めながら、ディオネは事態を把握しようと残る三人を見回した。全員が、笑顔でディオネを見つめている。
「え、何? あんたたち、戻ってきたの!?」
「ついさっき、宮殿に着いたんだ。二人がいると聞いて、こちらのほうが驚いたよ。いろいろあったようだね。話を聞かせてもらいに来た」
ディオネは満面の笑みを湛えるナイシェのほうを見た。
「求めれば与えられる……って、まさかこんなに早く会えるなんて思わなかった」
「ふふ、でも姉さんのいうとおりになったわ。私たち、ちゃんと再会できた。姉さんを信じてよかったわ」
「ね、向こうだって伊達にシレノスが二人もいるわけじゃないのよ」
ディオネの言葉に、フェランとゼムズが顔を見合わせた。
「僕たちは、何かを予見したからアルマニア宮殿に戻ったわけではないんです。実はこちらも、サラマ・アンギュースに関して進展がありまして……」
フェランがそこまでいってからあたりを見回した。室内に部外者はいないが、つい用心してしまう。
「ねえ、シレノスって何? 予見の民のこと? 二人もいるの?」
唐突にティーダがナイシェに話しかけ、全員の視線が一気にティーダに集中した。騒がしかった室内が一瞬静まり返る。
「そうだわ! まずみんなにティーダのことを紹介しないと」
いうと同時に、客間と続きになっているジュノレの私室のほうから、扉を叩く音がした。
「懐かしの再会を邪魔してすまないね」
ジュノレが顔を出した。
「全員揃ったみたいだね。そちらの部屋では手狭だろう。飲み物を用意したから、私の部屋を使うといい。私は用事でしばらく出るが、遠慮なくここで、積もる話をするといいよ」
ジュノレの部屋へ入ると、マリアが温かい紅茶と軽食を並べているところだった。
「夕方には戻る。私にできることがあれば、何でもいってくれ。ティーダは、私かマリアが戻るまで、部屋から出ないようにね」
ジュノレがマリアを連れて退室したあと、七人は紅茶やジュースを各々手に取りながら心を落ち着けた。久々の再会を喜んでばかりもいられない。誰が何から話すのか――それは、エルシャたち四人がずっとティーダの存在を気にしていることからも明らかだった。
「ジュノレ様より伺っております。お通りください」
フェランは上がった息を整えながら、客室の扉を叩いた。返事がない。少しためらってから、フェランはそっと扉を押し開けた。
きれいに整頓された、女性の客室だった。大きな居室の奥に開け放たれたガラス戸があり、その向こう側に、緑の芝生の上で戯れる栗色の髪の少年と女性を見つけた。
部屋へ足を踏み入れると、女性が振り向いた。それまで少年に向けられていたやさしいまなざしが、フェランを捉えると驚いたように大きく開き、それから満面の笑みに変わった。
「フェラン!」
そう呼ぶと、笑顔のままフェランのもとへ駆けてきた。
別れてからずっと、ナイシェのことを思い出そうとするたびに浮かぶのは、花のように明るく可憐なこの笑顔だった。
「フェラン! ずっと会いたかったの。私、許してもらえるなら、やっぱりあなたと一緒に――」
ナイシェの言葉を聞くよりも先に、勝手に体が動いた。フェランの腕がナイシェの体を包み込み、強く抱きしめた。驚いたナイシェが言葉を飲み込む。フェランは自分の胸にうずまったナイシェに向かっていった。
「……おかえりなさい、ナイシェ」
「……フェラン?」
ナイシェがくぐもった声をあげる。フェランは腕を緩めると、改めてナイシェの顔を見た。うっすらと頬が紅潮し、大きな目で自分を見ている。そんな少女に向かって、フェランは微笑んだ。
「ずっと、あなたに会いたかった――会ってようやく、気づきました。エルシャも僕も、みんな――あなたが、必要なんです」
ナイシェの瞳に涙が滲んだ。
「私も――離れ離れになるまで、気づかなかったの。私にも、みんなが必要。間に合って、よかった」
フェランは優しくナイシェの頭を撫でた。目の前で泣くナイシェを見ても、もう以前のような、ナイシェを思うたびに疼いた胸の痛みは起きなくなっていた。
いつの間にか、庭にいた少年が近寄ってきてフェランの服の裾を引っ張っていた。
「あなた、誰?」
帽子のように覆いかぶさった髪の隙間から自分を見ているのだろうか、表情の読めない少年がフェランを見上げている。体格からすると、ラミと同じくらいだろうか。ナイシェが気づいて説明を始めた。
「こちらはエルシャのお友達のフェランで――」
そのとき、前触れもなく再び扉が開き、ラミとゼムズが勢いよく入ってきた。
「ナイシェ! 会いたかったよ!」
「おうフェラン、抜け駆けするんじゃねえよ」
ラミが押し倒さんばかりにナイシェに抱きつき、ゼムズは相変わらず声も体も大きい。やや遅れてうしろからエルシャが追いつき、呆れ顔でいった。
「おいおい、もう少し静かに頼むよ」
懐かしく、居心地のいい四人との再会だった。
「ナイシェがいない間大変だったのよ。エルシャもゼムズも全然食事の準備を手伝ってくれないし、フェランと二人で頑張ってたんだから」
ラミがナイシェにくっついたままさも不満そうに口を尖らせる。
「おいおい、その分遊びにはたくさん付き合ってやったろうが」
ゼムズがすかさず反論する。
「そうね、じゃあゼムズは許してあげる。エルシャなんてね、パン一枚も焼けないし、フェランも途中から女の子になってどっかに行っちゃうし」
「女の子になって……?」
「ああ、その件は、またあとで……」
フェランが慌ててラミの口を塞ぐ。そのとき、三度客室の扉が開いた。
「なんかいつもより騒がしいけど、何事?」
何気なく部屋に戻ってきたディオネは、その場にいる四人の姿を見て完全に固まった。
「ディオネ! 久しぶり! 元気なのね!」
真っ先にラミが駆け寄る。小さな体を抱き止めながら、ディオネは事態を把握しようと残る三人を見回した。全員が、笑顔でディオネを見つめている。
「え、何? あんたたち、戻ってきたの!?」
「ついさっき、宮殿に着いたんだ。二人がいると聞いて、こちらのほうが驚いたよ。いろいろあったようだね。話を聞かせてもらいに来た」
ディオネは満面の笑みを湛えるナイシェのほうを見た。
「求めれば与えられる……って、まさかこんなに早く会えるなんて思わなかった」
「ふふ、でも姉さんのいうとおりになったわ。私たち、ちゃんと再会できた。姉さんを信じてよかったわ」
「ね、向こうだって伊達にシレノスが二人もいるわけじゃないのよ」
ディオネの言葉に、フェランとゼムズが顔を見合わせた。
「僕たちは、何かを予見したからアルマニア宮殿に戻ったわけではないんです。実はこちらも、サラマ・アンギュースに関して進展がありまして……」
フェランがそこまでいってからあたりを見回した。室内に部外者はいないが、つい用心してしまう。
「ねえ、シレノスって何? 予見の民のこと? 二人もいるの?」
唐突にティーダがナイシェに話しかけ、全員の視線が一気にティーダに集中した。騒がしかった室内が一瞬静まり返る。
「そうだわ! まずみんなにティーダのことを紹介しないと」
いうと同時に、客間と続きになっているジュノレの私室のほうから、扉を叩く音がした。
「懐かしの再会を邪魔してすまないね」
ジュノレが顔を出した。
「全員揃ったみたいだね。そちらの部屋では手狭だろう。飲み物を用意したから、私の部屋を使うといい。私は用事でしばらく出るが、遠慮なくここで、積もる話をするといいよ」
ジュノレの部屋へ入ると、マリアが温かい紅茶と軽食を並べているところだった。
「夕方には戻る。私にできることがあれば、何でもいってくれ。ティーダは、私かマリアが戻るまで、部屋から出ないようにね」
ジュノレがマリアを連れて退室したあと、七人は紅茶やジュースを各々手に取りながら心を落ち着けた。久々の再会を喜んでばかりもいられない。誰が何から話すのか――それは、エルシャたち四人がずっとティーダの存在を気にしていることからも明らかだった。
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