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第10章
精神感応のコツ
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人気のないこの駅に降り立つのは、もう何回目になるだろう。いつものように、朱里と華、哲平の三人ですでに見慣れた道を歩く。
「ねえ、ひとりで大丈夫だってば。またあたしたちが一緒にいたら、目立っちゃうじゃない」
朱里は不満そうだが、華も哲平も譲らない。
「また墨やFC社の奴らが現れたら、朱里ひとりじゃ太刀打ちできないだろ。桔梗が戻る前なら尚更だ」
「だから、ひとりのほうが、敵が来たときも逃げやすいっていってんのよ」
「FCの奴らはともかく、墨はそれじゃあ撒けない。人間以外の力がないと、無理だよ。少なくとも俺と華は、こないだそう思い知った」
華もうなずく。
「そうよ、朱里さん。桔梗が合流すればともかく、する前は危なくて仕方がないわ。いざとなったら、紺碧の力も紅の力も頼りになるんだから」
「そうそう、攻撃力でいったら、紅なんて最高だぞ」
「でも、そんなに簡単に精神感応なんて起こせるの?」
「それは……」
半信半疑な朱里の問いに、哲平は華と顔を見合わせる。妙な間の後、ふたりはうっすらと顔を赤らめて視線を外した。
「……え? ちょっと、何? 何かコツでもあるの? だったらあたしにも教えてよ、あたし桔梗からダメ出しくらうくらい光らないんだけど」
「コツっていっても……朱里には、無理なんじゃないかなあ……」
もそもそと哲平がいう。
あの公園で瀕死の紅と再会してから数日が経つが、実際のところ、哲平は紅と触れ合って光らないようにするほうが、最近は難しくなっていた。この数日は、精神感応を自在にコントロールできるよう訓練ばかりしていたといっても過言ではない。まばゆい光とともに自覚した自分の気持ちは、もうごまかしようがない。相手が人間ではないということも、今では関係なくなっていた。
『うふふ、哲平くん。あとであたしから朱里ちゃんに教えてあげるよ、精神感応のコツ』
背後から何やら楽しそうな紅の声がする。
「いや、紅は黙ってて、本当に。俺が朱里の餌食になるだけだから」
相手を想う気持ち。その深さに、男女の違いは関係ないとは思う。だが、同性同士より異性同士のほうが、その気持ちはわかりやすいし、確認しやすい。ただそれだけのことなんだと、自分に言い聞かせる。ちらりと華を見やると、華も顔をしかめながら何やら紺碧と会話しているようだった。
「……違うわよ、そうじゃなくて。……わかってないわね、あなたが光るときはいつも、私があなたの助けを欲しているときでしょ。それだけでしょ。……違うってば!」
何となく会話の内容がわかるようで、哲平も恥ずかしくなる。
紺碧は、男らしい。いつも大人びて冷静な華を、いとも簡単に手のひらで転がしているように見える。ふたりの関係は哲平たちよりクールな感じもするが、家でふたりきりになるとどうなのかは、わからない。……やはり、女性同士の朱里と桔梗には真似できない領域なのかもしれない。
考えが妙な方向に行きそうで、慌てて自分を戒める。朱里と桔梗だけではない。洸太郎と蘇比に至っては、同性であるばかりか子供と大人だ。それでもしっかり信頼関係が築けているのだ。やはり、性別など関係ない。
「……とにかく、桔梗の攻撃は頼りになるからさ、朱里、もっと頑張れよ」
「うるさいわね、哲平の分際で」
ぶちぶちと文句をいいながらも、次第に慎一の家へと近づく。この日はまだ慎一には会わず、とりあえず山吹の立ち合いで桔梗だけ連れて帰る約束だった。あと数百メートルというところで、朱里が足を止める。皆を制するように口元に手を当てた。
「あれ……FCの車じゃない?」
住宅街に似つかわしくない黒塗りのバンが、不自然な遅さで小道を進んでいる。確かに、哲平が連れ込まれたときと似た形をしている。外壁に隠れるようにしてやり過ごしざま、運転席を見た。インカムをした男が乗っていた。
「やっぱりそうだよ! どうしているの、あたしたちを探してる⁉」
「そんなバカな。ここは浅川主任の家の近くだからじゃないか? 主任を探しているのかもしれない」
「どちらにしろ、私たち三人が揃って主任の家に行くのはまずそうね」
華がおもむろにスマホを取り出す。
「もしもし、山吹さん? 今、FCらしき連中とすれ違った。この辺は危ないかも。……ええ、ええ。……わかったわ、そちらも気をつけて」
電話を切ると、華はもと来た道を指さした。
「待ち合わせ場所変更よ。自宅とは反対方向にある公園の林の裏。山吹さんが、桔梗を連れてきてくれるわ」
「ねえ、ひとりで大丈夫だってば。またあたしたちが一緒にいたら、目立っちゃうじゃない」
朱里は不満そうだが、華も哲平も譲らない。
「また墨やFC社の奴らが現れたら、朱里ひとりじゃ太刀打ちできないだろ。桔梗が戻る前なら尚更だ」
「だから、ひとりのほうが、敵が来たときも逃げやすいっていってんのよ」
「FCの奴らはともかく、墨はそれじゃあ撒けない。人間以外の力がないと、無理だよ。少なくとも俺と華は、こないだそう思い知った」
華もうなずく。
「そうよ、朱里さん。桔梗が合流すればともかく、する前は危なくて仕方がないわ。いざとなったら、紺碧の力も紅の力も頼りになるんだから」
「そうそう、攻撃力でいったら、紅なんて最高だぞ」
「でも、そんなに簡単に精神感応なんて起こせるの?」
「それは……」
半信半疑な朱里の問いに、哲平は華と顔を見合わせる。妙な間の後、ふたりはうっすらと顔を赤らめて視線を外した。
「……え? ちょっと、何? 何かコツでもあるの? だったらあたしにも教えてよ、あたし桔梗からダメ出しくらうくらい光らないんだけど」
「コツっていっても……朱里には、無理なんじゃないかなあ……」
もそもそと哲平がいう。
あの公園で瀕死の紅と再会してから数日が経つが、実際のところ、哲平は紅と触れ合って光らないようにするほうが、最近は難しくなっていた。この数日は、精神感応を自在にコントロールできるよう訓練ばかりしていたといっても過言ではない。まばゆい光とともに自覚した自分の気持ちは、もうごまかしようがない。相手が人間ではないということも、今では関係なくなっていた。
『うふふ、哲平くん。あとであたしから朱里ちゃんに教えてあげるよ、精神感応のコツ』
背後から何やら楽しそうな紅の声がする。
「いや、紅は黙ってて、本当に。俺が朱里の餌食になるだけだから」
相手を想う気持ち。その深さに、男女の違いは関係ないとは思う。だが、同性同士より異性同士のほうが、その気持ちはわかりやすいし、確認しやすい。ただそれだけのことなんだと、自分に言い聞かせる。ちらりと華を見やると、華も顔をしかめながら何やら紺碧と会話しているようだった。
「……違うわよ、そうじゃなくて。……わかってないわね、あなたが光るときはいつも、私があなたの助けを欲しているときでしょ。それだけでしょ。……違うってば!」
何となく会話の内容がわかるようで、哲平も恥ずかしくなる。
紺碧は、男らしい。いつも大人びて冷静な華を、いとも簡単に手のひらで転がしているように見える。ふたりの関係は哲平たちよりクールな感じもするが、家でふたりきりになるとどうなのかは、わからない。……やはり、女性同士の朱里と桔梗には真似できない領域なのかもしれない。
考えが妙な方向に行きそうで、慌てて自分を戒める。朱里と桔梗だけではない。洸太郎と蘇比に至っては、同性であるばかりか子供と大人だ。それでもしっかり信頼関係が築けているのだ。やはり、性別など関係ない。
「……とにかく、桔梗の攻撃は頼りになるからさ、朱里、もっと頑張れよ」
「うるさいわね、哲平の分際で」
ぶちぶちと文句をいいながらも、次第に慎一の家へと近づく。この日はまだ慎一には会わず、とりあえず山吹の立ち合いで桔梗だけ連れて帰る約束だった。あと数百メートルというところで、朱里が足を止める。皆を制するように口元に手を当てた。
「あれ……FCの車じゃない?」
住宅街に似つかわしくない黒塗りのバンが、不自然な遅さで小道を進んでいる。確かに、哲平が連れ込まれたときと似た形をしている。外壁に隠れるようにしてやり過ごしざま、運転席を見た。インカムをした男が乗っていた。
「やっぱりそうだよ! どうしているの、あたしたちを探してる⁉」
「そんなバカな。ここは浅川主任の家の近くだからじゃないか? 主任を探しているのかもしれない」
「どちらにしろ、私たち三人が揃って主任の家に行くのはまずそうね」
華がおもむろにスマホを取り出す。
「もしもし、山吹さん? 今、FCらしき連中とすれ違った。この辺は危ないかも。……ええ、ええ。……わかったわ、そちらも気をつけて」
電話を切ると、華はもと来た道を指さした。
「待ち合わせ場所変更よ。自宅とは反対方向にある公園の林の裏。山吹さんが、桔梗を連れてきてくれるわ」
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