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第8章

語られた真実③

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「なあ桔梗、冷静なおまえなら、それくらい気づいていただろ? ひたすらデータを取って俺たちに命令ばかりしてくる人間の中で、主任と呼ばれてた男だけは、違った。俺たちにだって心があるということをわかっていたのは、主任だけだ。フューチャークリーチャー社の中に話のわかる人間がいるとしたら、それは主任だけだ。俺は、あそこにいるときから、ずっとそう思っていた」
「でも、その主任が、現場のすべての指揮を執っていたのよ? 詭弁だわ。私たちを手懐けるための方便よ」

 しばらくの沈黙の後、慎一が低く呻いた。

「……蘇比、桔梗。君たちのいっていることは……すべて、正しい。君たちには心がある。当り前だよね、人間と同じ、知的な生物なんだから。なのに僕たちは、君たちを研究対象としか見ておらず、文字どおり、君たちを完全に制御することを目指していた。実験の内容がエスカレートしていくに従って、僕はそのことに、疑問を持つようになった。……いや、本当は最初から、わかっていたんだ。こんなことは間違っている。わかってはいたのに、気づかないふりをしていた。……君たちの能力。君たちのポテンシャル。人間にそっくりなのに、人間とまったく違う力を持つ君たちを、もっと深く知りたい。すべて知り尽くしたい。科学者として、その好奇心には勝てなかった……。いや、それすらも言い訳か……。とにかく僕は、ずっと過ちだと気づいていながら目を瞑って、ここまでやってきた。でもね……。桔梗や蘇比、そして……墨。君たちVCが、感情を押し殺した目で僕を見るたびに……無機質な瓶に液体として閉じ込められるたびに、僕は、蓋をしてきた自分の過ちから、目を逸らせなくなっていった。FC社に雇われて、最初は自分の科学者としての探求心を満たすことができる場所だと思って働いていたけれど、次第に僕でも制御できない方向にすべてが向かってしまい、それで僕は……君たちを解放するために、あの事故を起こしたんだ」

 最後の告白に、哲平は息を呑んだ。

「え……あの、研究所の、事故? あれは、浅川さんが、やったの? 爆破したってこと?」

 慎一はうなずいた。

「怪我人が出ないように、いつもより早く出勤して、VCたちのエナジーフィールドを解除して、そして……あんな研究が二度とできないように、爆破した。あそこにいたVCは、全部で十三人。全員脱出はできたはずだけど、何人が無事生き延びているのかは、僕も知らない。……墨に、やられた仲間もいるらしいしね」

 朱里が指を折りながら数え始めた。

「十三人……。あたしたちが知ってるのは、桔梗、紅、紺碧、蘇比、萌葱、それに墨と、山吹。研究所から逃げ出したのは、あと六人ってことね? あと、研究所の人間に捕まらずに生きているVCは、世の中にどれくらいいるの? 日本以外の国にも存在するのかしら」
「捕まらずに……? いや、研究所の外には、いないはずだよ。VCは十三人。それ以上でも以下でもない」

 慎一がいった。

「VCは、僕が造り出した生物だから」
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