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第7章
蘇比②
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駆け寄る洸太郎を男のひとりが取り押さえる。
「坊や、大丈夫だ、落ち着け」
「やだ! やだやだ、誰か!」
洸太郎が泣きながら暴れる。そのとき、駅のほうから女の叫び声が聞こえた。
「警察だ! 警察を呼んだぞー! 黒服の男たちが、誘拐しようとしてる! もう警察が来るぞー!」
黒服たちが一斉に手を留めて顔を上げた。ショートカットの小柄な女が走ってくる。
「急げ! 早く格納して撤収だ!」
押さえつけられた洸太郎の目の前で、ブロワーが発射され、蘇比は一瞬にしてオレンジ色の液体へと変わった。
「蘇比!」
洸太郎を無視して素早くボトルへ格納する。
「VC蘇比確保! これより撤収!」
洸太郎を押さえていた男もぱっと手を離し、無駄のない動きでバンのほうへと走る。
「一般市民に通報された、急ぐぞ!」
駆けてくる女をかわそうとして、黒服のひとりがはっと目を見張った。
「……あの女だ! VC桔梗のパートナーだ!」
気づくより早く、朱里が男に体当たりする。反動でオレンジのボトルが転がった。必死にボトルを掴み取ると、朱里は胸に抱えてふらふらと立ち上がった。
「蘇比! 今洸太郎くんに届けてあげるから!」
聞こえているのかもわからないまま声をかける。
「きさまっ、待ちやがれ!」
男がすぐさま立ち上がり、腰から警棒を抜いた。その目は怒りに燃えており、ぎくりとする朱里の耳に、穏やかな女の声が響いた。
『まったく、女相手にすることとは到底思えないわね……』
するすると朱里の背後から紫の煙が立ち昇ると、渦を巻くように男の視界を遮り、それが瞬時に液体へと変化して太い水柱となり、男の口に入り込んだ。
「うぐぅ⁉」
男が警棒を取り落としてしりもちをつく。紫の水柱はそのまま両の鼻孔から勢いよく飛び出してきた。
『ああ、汚い汚い……』
男が顔面を押さえながら腰の小銃に手を伸ばす。その手を、何者かに勢いよく踏みつけられた。見上げると、切れ長の目の男が、鋭いまなざしで彼を見下ろしていた。黒服の顔が青くなる。
「こ……紺碧だ! VC紺碧っ、それから桔梗も――ぐああっ」
いい終わる前に、紺碧が男の手首を踏みにじる。小銃が開いた手から零れ落ちた。
「ふん。これがエナジーサッカーか」
忌々しそうに銃を拾う。
『紺碧、ゆっくりしていられないわよ。あと二人、それにロータリーの男二人ももうすぐ復活しそう』
「面倒だな……二度と動けないようにしてやろうか」
『サッカーさえなければ人間なんて敵にもならないわ。それ、回収して。あと、ブロワーも』
「ブロワー? ……ああ、これか」
男の懐をまさぐり、小さな四角形の機械を取り出す。小窓には1と書かれている。
『あら、最後の一回分。せっかく奪ったのに』
桔梗は液体からすぐさま人間態に戻ると、紺碧からブロワーを受け取った。
「これを使ったら強制的に液化させられて動けなくなるんじゃないのか?」
桔梗はにっこりと笑った。
「さあ、どうかしら? まあ見てなさい」
見ると、朱里が蘇比のボトルを洸太郎へ届けるところだった。しかし、そこに残りの二人の男が飛びかかる。ひとりは警棒を、ひとりはスタンガンを持っていた。
「……あまり怒らせないでほしいわね……」
桔梗の目が細まり、足が地を蹴った。
「朱里! 手を!」
朱里がかろうじて片手を伸ばし、桔梗に触れる。
「桔梗! 例のやつ!」
朱里が叫ぶが、桔梗の体は発光しない。
「そう都合よくエネルギーは貰えないみたいね」
そのとき、スタンガンが朱里を直撃し朱里が呻きながら倒れた。手元からボトルが転がる。
「蘇比を確保しろ!」
ぴくぴくと声もなく震える朱里には見向きもせず、男たちがボトルに群がる。
「やめて! 蘇比を返して!」
追いすがる洸太郎を突き飛ばし、再び桔梗へと小銃を構える。桔梗の目に、炎のような怒りが宿った。
「……紺碧。失敗したら、あとは頼むわよ」
そういい残し、エナジーブロワーを自らに向けた。
「坊や、大丈夫だ、落ち着け」
「やだ! やだやだ、誰か!」
洸太郎が泣きながら暴れる。そのとき、駅のほうから女の叫び声が聞こえた。
「警察だ! 警察を呼んだぞー! 黒服の男たちが、誘拐しようとしてる! もう警察が来るぞー!」
黒服たちが一斉に手を留めて顔を上げた。ショートカットの小柄な女が走ってくる。
「急げ! 早く格納して撤収だ!」
押さえつけられた洸太郎の目の前で、ブロワーが発射され、蘇比は一瞬にしてオレンジ色の液体へと変わった。
「蘇比!」
洸太郎を無視して素早くボトルへ格納する。
「VC蘇比確保! これより撤収!」
洸太郎を押さえていた男もぱっと手を離し、無駄のない動きでバンのほうへと走る。
「一般市民に通報された、急ぐぞ!」
駆けてくる女をかわそうとして、黒服のひとりがはっと目を見張った。
「……あの女だ! VC桔梗のパートナーだ!」
気づくより早く、朱里が男に体当たりする。反動でオレンジのボトルが転がった。必死にボトルを掴み取ると、朱里は胸に抱えてふらふらと立ち上がった。
「蘇比! 今洸太郎くんに届けてあげるから!」
聞こえているのかもわからないまま声をかける。
「きさまっ、待ちやがれ!」
男がすぐさま立ち上がり、腰から警棒を抜いた。その目は怒りに燃えており、ぎくりとする朱里の耳に、穏やかな女の声が響いた。
『まったく、女相手にすることとは到底思えないわね……』
するすると朱里の背後から紫の煙が立ち昇ると、渦を巻くように男の視界を遮り、それが瞬時に液体へと変化して太い水柱となり、男の口に入り込んだ。
「うぐぅ⁉」
男が警棒を取り落としてしりもちをつく。紫の水柱はそのまま両の鼻孔から勢いよく飛び出してきた。
『ああ、汚い汚い……』
男が顔面を押さえながら腰の小銃に手を伸ばす。その手を、何者かに勢いよく踏みつけられた。見上げると、切れ長の目の男が、鋭いまなざしで彼を見下ろしていた。黒服の顔が青くなる。
「こ……紺碧だ! VC紺碧っ、それから桔梗も――ぐああっ」
いい終わる前に、紺碧が男の手首を踏みにじる。小銃が開いた手から零れ落ちた。
「ふん。これがエナジーサッカーか」
忌々しそうに銃を拾う。
『紺碧、ゆっくりしていられないわよ。あと二人、それにロータリーの男二人ももうすぐ復活しそう』
「面倒だな……二度と動けないようにしてやろうか」
『サッカーさえなければ人間なんて敵にもならないわ。それ、回収して。あと、ブロワーも』
「ブロワー? ……ああ、これか」
男の懐をまさぐり、小さな四角形の機械を取り出す。小窓には1と書かれている。
『あら、最後の一回分。せっかく奪ったのに』
桔梗は液体からすぐさま人間態に戻ると、紺碧からブロワーを受け取った。
「これを使ったら強制的に液化させられて動けなくなるんじゃないのか?」
桔梗はにっこりと笑った。
「さあ、どうかしら? まあ見てなさい」
見ると、朱里が蘇比のボトルを洸太郎へ届けるところだった。しかし、そこに残りの二人の男が飛びかかる。ひとりは警棒を、ひとりはスタンガンを持っていた。
「……あまり怒らせないでほしいわね……」
桔梗の目が細まり、足が地を蹴った。
「朱里! 手を!」
朱里がかろうじて片手を伸ばし、桔梗に触れる。
「桔梗! 例のやつ!」
朱里が叫ぶが、桔梗の体は発光しない。
「そう都合よくエネルギーは貰えないみたいね」
そのとき、スタンガンが朱里を直撃し朱里が呻きながら倒れた。手元からボトルが転がる。
「蘇比を確保しろ!」
ぴくぴくと声もなく震える朱里には見向きもせず、男たちがボトルに群がる。
「やめて! 蘇比を返して!」
追いすがる洸太郎を突き飛ばし、再び桔梗へと小銃を構える。桔梗の目に、炎のような怒りが宿った。
「……紺碧。失敗したら、あとは頼むわよ」
そういい残し、エナジーブロワーを自らに向けた。
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