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第4章
黒いコートの男②
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真夜中の雨の公園になど、誰も目をくれない。天気予報を裏切る雨に、人通りはいつも以上にまばらだ。茶色のベンチに横たわる緑色のワンピースも、雨と暗闇に染められて今は深い苔のようにその座面を覆っている。
誰もその存在に気づかない緑の女に、ひとりの女性が近づいた。白い傘が暗闇に浮かび上がる。傘の女はしばらく微動だにしない緑の女を眺めると、スカートのポケットから何かを取り出した。小さな拍子木のような形をしたそれは、手元に小さなボタンとカウンターのような小窓がついている。そこには9と書かれていた。
女は、ベンチに横たわる緑の女へそれを向けた。ボタンを押すと、破裂音と同時に先端から何かが噴き出し、女の体が光ったかと思うと一瞬にして消え去った。あとには、女が着ていたのと同じ緑色の液体が広がり、やがて雨に流され土に染みこむ。ほどなくして、ベンチはもとの誰もいない茶色に戻った。
女はカウンターを見た。数字は8になっていた。
「おい」
突然、肩を掴まれる。振り返ると、黒いフードをかぶった男が立っていた。
「……おまえ、何者だ」
男が低い声で誰何する。女は無表情に男を上から下まで眺めた。
「……別に、何者でも」
小さな機械をしまうと、女は肩にかかる男の手を気にするでもなく踵を返した。
「邪魔はしませんし、誰にもいいませんよ」
そのまま暗闇へと去っていく。白い傘だけが浮き上がり、それもやがて闇に紛れるまで、男は女の後ろ姿をじっと見つめていた。
誰もその存在に気づかない緑の女に、ひとりの女性が近づいた。白い傘が暗闇に浮かび上がる。傘の女はしばらく微動だにしない緑の女を眺めると、スカートのポケットから何かを取り出した。小さな拍子木のような形をしたそれは、手元に小さなボタンとカウンターのような小窓がついている。そこには9と書かれていた。
女は、ベンチに横たわる緑の女へそれを向けた。ボタンを押すと、破裂音と同時に先端から何かが噴き出し、女の体が光ったかと思うと一瞬にして消え去った。あとには、女が着ていたのと同じ緑色の液体が広がり、やがて雨に流され土に染みこむ。ほどなくして、ベンチはもとの誰もいない茶色に戻った。
女はカウンターを見た。数字は8になっていた。
「おい」
突然、肩を掴まれる。振り返ると、黒いフードをかぶった男が立っていた。
「……おまえ、何者だ」
男が低い声で誰何する。女は無表情に男を上から下まで眺めた。
「……別に、何者でも」
小さな機械をしまうと、女は肩にかかる男の手を気にするでもなく踵を返した。
「邪魔はしませんし、誰にもいいませんよ」
そのまま暗闇へと去っていく。白い傘だけが浮き上がり、それもやがて闇に紛れるまで、男は女の後ろ姿をじっと見つめていた。
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