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第4章

社長と主任①

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「それで、そいつは女だったんだな? 髪をふたつに結んだ、若い女」
「はい。ですからVC紅で間違いないかと」
「あとの三人は?」
「三人のうち二人は、偶然巻き込まれた一般市民だったようです。もう一人は、人相を確認する前に逃げられまして……ただ、VC紅とともに姿を消したので、こちらもVCの可能性があります」
「ふむ……」

 しわひとつないスーツを着こなした中年の男が、顎に手をあててため息をつく。後ろに撫でつけられた黒髪に乱れはなく、手入れの行き届いた革靴まで、隙のないいで立ちだ。その男の背後で、中肉の体にはやや大きすぎるスーツを着た男が、中年男の機嫌を窺うように立っていた。

「しかし、高原社長。我々のデータによると、VCはエネルギーの補充がなければ固体で一週間、気体になると一日程度しか、もちません。研究所は壊滅でエネルギー補充機は稼働していませんし、もうあれから四日経っております。移動には気体の時間もあったでしょうから、そろそろ活動停止に追い込まれていても不思議ではないかと。そうなれば、回収作業も容易になります」
「だが、活動停止したVCを先に一般市民に見つけられては、厄介なことになる」
「はい、それを避けるためにも、山辺に指揮を執らせ、全力でVC確保に尽力しております」

 高原は、しばらく思案顔で顎をさすると、おもむろに書斎の椅子へ腰を下ろした。

「……で? あいつは、見つかったのか」

 男は表情を曇らせた。

「いえ……」
「死体になっている可能性は」
「もちろんそれも考慮しておりますが、いかんせんまだ研究所の周りは人目が多く、大々的な捜索はまだ……」
「……エナジーブロワーがひとつ、紛失しているのだろう?」

 高原の目が鋭く男を見つめる。男は冷や汗をかき始めた。

「はい、昨日判明したのですが、研究所内を捜索しても、あと一機、見当たらず……」
「あいつが持ち去ったのではないか? だとしたら大問題だ。エネルギー補充機がなくても、あれがあればしばらくはもつのだろう?」
「そうなりますね……」

 男がハンカチを取り出し、額を拭い出した。

「今となってはすべて、君の責任だ、木崎主任。マスコミの対応、VCの回収、エナジーブロワーとあいつの捜索。これ以上しくじることは、許されないぞ」

 怒気をはらんだ高原の口調に、男は背筋を正して応えた。

「はい、可及的速やかに、事態を収拾いたします」
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