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第1章
物質の三態②
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「緑だよ。君のまとう空気。オーラっていうの? とっても綺麗な緑」
「そうなんだ?」
そういえば、人間は誰しもがオーラカラーを持っている、とか、テレビで胡散臭い占い師みたいな人がいっていたなあ。俺は、それが鮮やかな緑というわけか。
そんなことを思っていると、紅が再び哲平の手を取った。
「ほら、こうしてると、じっくりゆっくり、君のエネルギーが流れ込んでくる。緑の空気がゆらゆら揺らめいて、あたしを包むんだよ。そしたら少し、元気になる。もう気体になる力が残ってなかったあたしを、もう一度変化させてくれた、さっきの力だよ」
じっと繋がった両手を見つめて息を凝らす。……何も、変化は感じない。エネルギーの流れだとか、空気が揺らめくとか、そういうのは紅にしかわからない特殊なもののようだ。それに――
「……さっきみたいに、光らないの?」
「さっきはね、一度に大量のエネルギーをもらったから、ああなっただけ。今はもうお腹もすいてないから、そんなに光らないよ」
つまり、急速充電すると光って、フル充電に近いとそんな変化は起こらない、ということか。
頭の中で、紅の奇怪な説明を自分なりに翻訳する。
「あのさ、紅ちゃん」
「紅でいいよ」
「……紅。君はさ、人間じゃ、ないんだよね?」
何とかこのあり得ない事態を飲み込もうとしていた哲平だが、落ち着いてきたところで、核心に触れてみる。紅は唇に指を当てて宙を見た。
「うーん、違うんじゃない? 人間は、気体や液体にはなれないんでしょ? 不便よね」
「あのさ、おうちはどこなの? そこには、君の家族とかさ、君みたいな人が、ほかにもいるのかな?」
「人間がいたよ。あたしみたいなのがいたかどうかは、わからない。いつも、宇宙服みたいなのを着た人間が、あたしの世話をしたり、訓練をしたりしてた」
「訓練?」
「うん。気体になったり液体になったりする練習。ちょっとね、コツがいるから」
人間。
この、世の中のほとんどの人間が絶対信じないような存在を、知っている人間がいる。知っているどころか、気化や液化の方法を教えていただって? そんなことが公になっていれば、たちまちニュースだ。紅は、その人間と、ひっそり隠れて生きていたのだろうか。
「じゃあ今ごろ、その人は必死に君のことを探してると思うよ? 一緒に戻ろう」
しかし紅は唇を尖らせてうつむいた。
「でも、わからないの。あのおうちを出たのは今日が初めてだから、道にも迷っちゃったし、おうちは燃えていて慌てて逃げてきたし。だから、哲平くんしか頼れる人がいないんだよ」
紅が、握った手に力を込めて、すがるような目で哲平を見つめた。
……まいったな。
無意識に、ため息が漏れる。
普通の女子高生なんかでは、全然なかった。それどころか、とんでもない生き物だ。関わっちゃいけないような、そういう類のやつかもしれない。でも、少なくとも人間の姿をしているときは、めちゃくちゃ可愛い。それに、表情もコロコロ変わって愛らしいし、こんな目で見られたら、放っておけなくなる。
『本日の運勢、残念ながら最下位なのは、山羊座のあなた! 思わぬハプニングに振り回される一日となるでしょう。でも大丈夫、そんなあなたの運勢を盛り上げる今日のラッキーカラーは、赤! 赤いものを身に着けて出かけるようにしましょう』
……うん、間違いない。大学に行く途中でこんな拾い物をしてしまった俺は、間違いなく、今日の運勢最悪だ。赤いものを身に着けてきたのに、全然効いてない。……いや、待てよ。
目の前の少女を、まじまじと見つめる。紅と名乗ったが、胸元のリボンやスカートにはアクセントのように鮮やかな赤が入っていて、気体になったときには、それは綺麗な赤い靄だった。
「……赤、か……」
果たしてこの赤は、本当に俺のラッキーカラーなのか、それとも運勢最下位の結果がこれなのか?
脳のキャパを超えた事態に、哲平はこれ以上考えるのをやめた。もう、大学になど行っている場合ではない。そんな気にもならない。
「……わかった。とりあえず、俺んちにおいで。君のおうち、一緒に探そう」
「そうなんだ?」
そういえば、人間は誰しもがオーラカラーを持っている、とか、テレビで胡散臭い占い師みたいな人がいっていたなあ。俺は、それが鮮やかな緑というわけか。
そんなことを思っていると、紅が再び哲平の手を取った。
「ほら、こうしてると、じっくりゆっくり、君のエネルギーが流れ込んでくる。緑の空気がゆらゆら揺らめいて、あたしを包むんだよ。そしたら少し、元気になる。もう気体になる力が残ってなかったあたしを、もう一度変化させてくれた、さっきの力だよ」
じっと繋がった両手を見つめて息を凝らす。……何も、変化は感じない。エネルギーの流れだとか、空気が揺らめくとか、そういうのは紅にしかわからない特殊なもののようだ。それに――
「……さっきみたいに、光らないの?」
「さっきはね、一度に大量のエネルギーをもらったから、ああなっただけ。今はもうお腹もすいてないから、そんなに光らないよ」
つまり、急速充電すると光って、フル充電に近いとそんな変化は起こらない、ということか。
頭の中で、紅の奇怪な説明を自分なりに翻訳する。
「あのさ、紅ちゃん」
「紅でいいよ」
「……紅。君はさ、人間じゃ、ないんだよね?」
何とかこのあり得ない事態を飲み込もうとしていた哲平だが、落ち着いてきたところで、核心に触れてみる。紅は唇に指を当てて宙を見た。
「うーん、違うんじゃない? 人間は、気体や液体にはなれないんでしょ? 不便よね」
「あのさ、おうちはどこなの? そこには、君の家族とかさ、君みたいな人が、ほかにもいるのかな?」
「人間がいたよ。あたしみたいなのがいたかどうかは、わからない。いつも、宇宙服みたいなのを着た人間が、あたしの世話をしたり、訓練をしたりしてた」
「訓練?」
「うん。気体になったり液体になったりする練習。ちょっとね、コツがいるから」
人間。
この、世の中のほとんどの人間が絶対信じないような存在を、知っている人間がいる。知っているどころか、気化や液化の方法を教えていただって? そんなことが公になっていれば、たちまちニュースだ。紅は、その人間と、ひっそり隠れて生きていたのだろうか。
「じゃあ今ごろ、その人は必死に君のことを探してると思うよ? 一緒に戻ろう」
しかし紅は唇を尖らせてうつむいた。
「でも、わからないの。あのおうちを出たのは今日が初めてだから、道にも迷っちゃったし、おうちは燃えていて慌てて逃げてきたし。だから、哲平くんしか頼れる人がいないんだよ」
紅が、握った手に力を込めて、すがるような目で哲平を見つめた。
……まいったな。
無意識に、ため息が漏れる。
普通の女子高生なんかでは、全然なかった。それどころか、とんでもない生き物だ。関わっちゃいけないような、そういう類のやつかもしれない。でも、少なくとも人間の姿をしているときは、めちゃくちゃ可愛い。それに、表情もコロコロ変わって愛らしいし、こんな目で見られたら、放っておけなくなる。
『本日の運勢、残念ながら最下位なのは、山羊座のあなた! 思わぬハプニングに振り回される一日となるでしょう。でも大丈夫、そんなあなたの運勢を盛り上げる今日のラッキーカラーは、赤! 赤いものを身に着けて出かけるようにしましょう』
……うん、間違いない。大学に行く途中でこんな拾い物をしてしまった俺は、間違いなく、今日の運勢最悪だ。赤いものを身に着けてきたのに、全然効いてない。……いや、待てよ。
目の前の少女を、まじまじと見つめる。紅と名乗ったが、胸元のリボンやスカートにはアクセントのように鮮やかな赤が入っていて、気体になったときには、それは綺麗な赤い靄だった。
「……赤、か……」
果たしてこの赤は、本当に俺のラッキーカラーなのか、それとも運勢最下位の結果がこれなのか?
脳のキャパを超えた事態に、哲平はこれ以上考えるのをやめた。もう、大学になど行っている場合ではない。そんな気にもならない。
「……わかった。とりあえず、俺んちにおいで。君のおうち、一緒に探そう」
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