【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
149 / 150
第三章 原初の破壊編

#145 エピローグの序章

しおりを挟む

 ――地球。
 全てが元に戻った、色を取り戻した鮮やかな世界。
 青い空と、命の芽吹く大地。

「――あれ、何かしら? ねえ、奈緒! ギザ! みんな、見てよ!」

 突如、眩しさに視界を覆いながら美海が空を指す。
 先程まで晴れて澄み渡っていた空は、白い光に覆われていた。

 そして、その白い光は、雨となって地上へと降り注ぐ。

「綺麗……」

 その天からの光の雨に、皆はしばしの間見とれていた。
 そして、美海の頬をつうっと雫が伝う。

「……え? どうして……?」

 どうしてだろうか。それが分かってしまった。通じてしまった。
 光の雨を通して、愛する者の心が、伝わってしまった。

「来人……、らい、と……」

 ああ、自分を犠牲に世界を救ったのだ。
 そう理解した美海は、もう涙を塞き止めてはいられなかった。

 大粒の雫が頬を伝い、手で拭っても、拭っても、それは溢れ出てくる。
 傍にいた奈緒は、そっと美海の背を撫でてやる事しか出来なかった。
 
 
 ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――

 
「――ん、うぅん……? ここ、は……?」

 木漏れ日の注ぐ、湖の畔。
 秋斗は目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。

 右手で、頭を掻く。
 ふさりとした感触を感じ、違和感を覚えた。

「あれ……?」

 すると、秋斗に声がかかる。

「起きたか、秋斗」
「テイテイ君!」

 そこには木の幹に体重を預け、腕を組んだまま立っているテイテイの姿が有った。
 目元は伏せられていて、前髪に隠れていて見る事は出来ない。

「秋斗、おかえり」
「え? えっと……」
「ほら、見て見ろよ」

 テイテイに促されて、湖の波紋一つ立っていない水面を見る。
 そこに、映されていたのは、人間の姿をした秋斗だった。少し痩せた黒髪の男が映っていたのだ。
 あの三本角の鬼ではない、肌も、黒い髪も、何もかもが人間のそれだ。
 
「僕、戻った、の……? でも、なんで――」

 その時だった。
 突如、天から光の雨が降り注ぐ。
 触れても温かくも冷たくも無く、濡れる事も無いその不思議な光の雨。湖の水面に落ちても、波紋一つ立つ事は無い、まるで幻の様な現象。
 
 しかし、その雨粒一つ一つから、二人は確かに彼の想いを感じる事が出来た。

「そっか、来人……。あいつ、かっこつけやがって……」
「……」

 水面に、雫が落ちる。
 それは光の雨では無いだろう――。

 
 ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――

 
 ――天界。

 王の間の前に立つ、アダンとアナ。
 アダンの姿は液状化したそれではない。中世的な顔立ちの人型になっていた。

 そして、周囲には多くの神々。
 その中にはウルスやカンガス、ソルだって居る。死んだ者たちも、皆確かにここに居た。

 そして、天界の大通り。
 多くの神々に遠巻きに見られながら、世良に肩を貸してもらいながら、アークは歩いていた。
 その姿はもはやかつての迫力は無く、黒を殆ど失って灰色だ。
 しかし、その目の色だけは以前よりも確かな意志を宿して、真っすぐと前を見据えていた。

 やがて、世良とアークはアダンたちの前に辿り着く。

 どちらも、口を開かない。
 周囲の神々は静かに事態を見守っている。

 そして、しばらくの沈黙の後、それに耐えきれなくなったのか、

「はあ……。もうっ!」
「おわぁっ……!」

 世良はアークの身体を突き飛ばして、無理やりアダンとアナの方へと押しやった。
 もう余力の殆ど残っていないアークはよろめいて、抵抗も出来ずにそのまま前に出て、アダンと目が合う。

「ええっと……」

 視線を外す。そこにはアナが居た。また目が合う。

「俺、俺は……」

 言いよどむアーク。
 しかし、言葉よりも先に溢れ出てくる物があった。

「アーク……!」

 アークは、泣いていた。
 子供みたいに泣きじゃくり、天界の白いタイル張りの地面を濡らす。

「ごめん……! ごめん、なさい……! 滅茶苦茶やって、酷い事して、許してもらえるなんて、思ってないけど、でも、でも……!!」

 取り留めのない言葉を、感情のままに吐き出していく。
 そんなアークに釣られてか、アダンも、そしていつも気丈に大人びて振る舞っていたアナも、

「僕の方こそ、ごめん、ごめんよっ……!」
「私も、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 三人は少年少女の様に、子供の様に、周りも気にせず、体裁も捨てて、わんわんと泣きじゃくりながら、互いに抱擁を交わす。
 
 一体、何年越しだったのだろうか。
 その積み重なった想いは、重しは、どれ程のものだったのだろうか。

 それから、三人の子供が泣き止むまで、皆は静かに見守っていた――。
 

 ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――


 それから、しばらく経った。
 季節は移ろい、日々の生活も、いつもの景色も変わって行く。

 アークは世良と共に、天界で暮らしていた。
 これまでやった事の償いとして、『破壊』の力を失ってもその肉体は役に立てると、率先して天界の改修工事に協力していた。
 そんなアークの様子を見て、他の天界の民たちも少しずつ受け入れて行った事だろう。
 
 そして、世良は人間として新たな命を得て、この世界に降り立ったのだ。
 アークの手綱は、今世良が握っているも同然だ。
 “おねえちゃん”として、アークの世話を焼いている。

 それから、天界の改修工事だ。
 アダンとアナは、王と補佐の座を放棄し、血統による王政は廃止となった。
 それに伴っての、大々的なリフォームを行っている最中だ。

 王政が廃止され、どうやって、誰が神々を纏めるのか。
 代わりに彼ら天界の神々の代表となったのは、なんとティルだった。
 どこか憑き物が落ちたティルは、皆に慕われる優秀な指導者として皆を導いて行った。
 曰く、“こんな形でこの座に着くのは、なんとも癪だがね”と。

 
 陸は藍と共に、地球で暮らしている。
 アークという三本目の柱が戻った事により、世界のバランスが戻ったのだろうか、それとも来人が秋斗を人間に戻した関係だろうか。
 世界から“鬼”と呼ばれる存在が綺麗さっぱり無くなったのだ。
 藍も今は普通の人間だ。
 そんなわけで、鬼退治業が廃業となった陸は代わりに地球で起こるオカルト的事件の解決に当たる探偵業を始めたとか何とか。

 ギザは相変わらず社長業を続けて、メガコーポレーションはさらに大きく、事業も拡げていき、世界的企業として地位を確立していった。
 
 ユウリはどうしているだろうか。時折ふらりと現れて、ふらりとまた去って行く。彼女は自由な旅人だ。

 鬼という存在も消え、戦う理由も無くなったガイア族たちは各々好き好きに暮らしてる。
 元の主人の元で共に暮らしている者も居れば、故郷に帰った者、そして地球で動物として紛れて生きている者も居る。
 ガーネとメガ、ジューゴは故郷へと帰って行ったし、ダンデはずっと甲斐甲斐しく主人のサポートをしている。モシャはふらふらと陸の元へ戻ったり故郷へ帰ったり何処かへ旅したりと放浪しているし、ゼノは相変わらずゴールデンの元で働いていた。

 そして、イリスは美海のもとで“お手伝いさん”をやっていた。

「よーしよし、もうすぐご飯ですわよ~」
「きゃいきゃい!」

 美海には小さな一人娘が居た。来人の忘れ形見というやつだ。
 イリスはそんな美海の為に、お手伝いをしている。
 来神、来人、そして来人の娘と三代にわたってメイドとして生きて来たイリスにとって、家事全般は当然、赤子一人あやす程度造作も無い。
 もはやガイア族の獣としてではなく、こちらの方がイリスにとっては性に合っていたのだ。
 
「イリスさん、いつもありがとうございます」
「これくらい、お安い御用ですわ。それよりも、そろそろ出かける時間でございましょう?」
「はい。すみませんけど、後お願いします!」
「ええ、いってらっしゃいませ」

 美海は娘をイリスに任せて、家を出る。
 というのも、今日はギザに呼ばれて、メガコーポレーション本社に行かなければならなかったのだ。
 どうやら重要な話があるらしく、電話口から聞こえてくるギザの声色もどこか高揚している様だった。
 多忙なギザは分刻みのスケジュールで、今日この日、この時間しか予定が取れなかったのだ。急ぎ、向かう必要があった。

「一体、なんなのかしらね……?」
 
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...