【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
147 / 150
第三章 原初の破壊編

#143 またね

しおりを挟む
 
 ――かつて、生まれたばかりのの原初の三柱、三人の兄弟は喧嘩をした。それは些細な事がきっかけだった。

 アダンは『創造』の色を司る神だった。アナは『維持』の色を司る神だった。そして、アークは『破壊』の色を司る神だった。
 三つの柱が支え合って、世界の均衡を成していた。

 最初は三人しか居なかった。
 しかし、時の流れと共に彼ら“神”という種族は数を増やしていき、“天界”という社会を形成していった。
 アダンは王となって権力を持ち、アナはその補佐として皆を導いて行った。
 そんな時だった。

 勿論アークも兄弟たちに助力しようとした。
 しかし、アークの触れた物は、皆壊れて行った。
 美しい花も、綺麗な石も。そして、それは皆の積み上げてき建物や、更には他の命までも――。

 もはや、自分が何を壊してしまったのかすらも覚えていない。
 それが誰かだったのか、何かだったのか――、もしかすると、アダンやアナの大切な物だったかもしれない。

 気づけば、アークは糾弾されていた。
 三人だった頃だったなら、時間が解決してくれた事だろうし、素直に謝って仲を戻す事も出来たかもしれない。
 しかし、今この世界には三人だけではなかった。
 
 他の神々が居て、アダンもアナも彼らを導く立場だった。
 そんな集団意識が、同調圧力が、アークの逃げ道を塞いでいた。
 
 あいつは全てを壊してしまう、あいつは危険だ、あいつを排斥しよう――。
 そんな負の感情の波が、アークを襲った。
 誰も肩を持ってはくれなかった。

 何より不幸だったのが、アダンも、アナも、アークも、まだ生まれ落ちたばかりの子供だったという事だ。
 誰かの上に立つにも、大きな力を持つにも、何もかもが早すぎたのだ。
 彼らが最初の生命であり、そして彼らは手本とすべき先達が居なかった。もっと失敗して、もっとやり直して、学ぶ時間が必要だった。しかし、そんな猶予は与えられなかったのだ。
 
 アークは悲しんだ。アークは怒った。アークは絶望した。
 そして、感情に任せて『破壊』の力を振るった。何もかもを、滅茶苦茶にした。

 アークはアダンと、そしてその相棒のバーガと戦った。
 七日に及ぶ激闘の末に、バーガは命を落とし、そしてアダンは肉体を失った。

 そんな代償を払った末、アークは封印されたのだった――。


「ね、アーク。アダンと、アナと、兄弟たちと仲直り、しよ?」
「――仲直り、ね。でもよ、俺は全部壊しちまった。もう、無理だ……」

 世良とアークのそんな会話を聞いていた来人は、ふらりと立ち上がり、アークの元へと寄る。

「らいにい?」
 
 来人は静かに頷き、アークに刺さる神々の紋章の剣をアクセサリー状に戻す事で引き抜く。
 ふらりと倒れるアークを、世良が抱き留める。
 
「おいおい、どうする気だよ、王様さんよ……」
「どうするって、これまでとやる事は変わらないよ」

 さも当然の様にそう言う来人を嘲る様に、アークは一笑する。

「ハッ! 変わらない? そんな訳ねェだろ!! もう、全部終わったんだよ、壊しちまったんだよ……」

 言葉尻は小さく、萎んで行く。
 
 しかし、来人は諦めてはいない。
 二つの神々の紋章へと波動を注ぎ込み、想像する。イメージを練り上げる。

「想像し、創造する。それが神の力だ。そして、王と成った僕にとって、この世界は聖域だ。なら、何だって出来る。不可能だって可能になる――」

 ここは全ての世界の中心、始まりの島。
 この場所でなら、そして神々の王の力を以ってすれば――、

「――僕は、世界を“再び創造”する」

 来人は確信していた。今の自分になら、それが可能だ、と。

「おい、お前! そんな事して、お前自身が耐えられる訳がない! アダンだって、そんな事出来やしなかった!」
「らいにい!」

 来人は、世良へと微笑みかける。
 その表情は信じられない程に穏やかだ。

「世良、そのどうしようもない弟を、頼んだよ。あと……、美海ちゃんや、みんなには謝っておいて――」
「らいにい! だめ、だめ!! そんな事――」
 
 今の来人はアダンをも越えた。想像と創造の極致に在る。その力の全てを余すことなく解き放つ。
 来人を中心として、真っ白な波動の光が広がって行く。その光はガイア界を、天界を、地球を、全ての壊れてしまった世界を優しく包み込み、覆って行く。

 灰色だった世界に色が戻って行く。
 全ては無に帰す。アークの“黒”によって『破壊』された世界は、王の“白”によって再び『創造』されていく。
 空も、海も、大地も、人々も、元在った様にそこに在る。
 全ての歴史が修正されて行く。ほんの少しだけ、改変されながらも。

 それに伴って、アークと世良の身体の傷も癒えていった。
 しかし――、

「うっ……がはっ……」

 対して、“世界の再創造”なんて偉業を成した来人は、身体が白化し、ひび割れて行く。
 世界に色を与えた代償として、自身の色を失った。
 そして、そんな異形を成した上で、まだ来人の内には大きな波動が渦巻いていた。

「らい、にい……。らいにい……!!」
「お前、そこまでして……」

 来人は身体の内側から溢れ出そうとする奔流を押しとどめつつ、ふらつく身体を支えて、笑いかける。

「別に、アークの為じゃないよ。可愛い妹と、恋人と、親友と、家族と、仲間たちと――、そんな僕の大切な人々と、その人々が生きる世界が、大好きだから。
 さあ、行って。もうじき僕の内側から王の波動が溢れ出てくる。それがまた、この始まりの島の海になるんだ。
 ここに居たら、世良たちも巻き込まれてしまうよ。アーク、お前は世良の言う通り仲直りでもしてきなよ」

 そう言って、来人は神々の紋章を剣へと変えて、空を切る。
 すると、世良とアークの背後に“ゲート”が産まれた。ゲートは二人を吸い込み、始まりの島から追い出そうとする。

「待って、らいにい! らいにいも一緒に、帰らないと――」

 アークは来人の元へと走りだそうとする世良の身体を抑える。

「おい、世良! 違えだろ! お前は、生きてやらねえと!!」
「うっ、うぅ……」

 世良はアークの腕に抱かれるまま、力を抜く。
 二人はそのまま、ゲートの中へ。

「……あばよ」

 去り際に、アークは視線を逸らしつつ一言だけを残す。
 来人はとびきりの笑顔で、それに応える。
 
「――またね」

 
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

処理中です...