【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
146 / 150
第三章 原初の破壊編

#142 おかえり

しおりを挟む
 数多の終焉の世界を渡り歩き、最後の地――二人は“始まりの島”へと辿り着いた。
 渡す限り、混じりけの無い海底まで透かせそうな海が広がり、白い砂浜の小さな島がぽつんと在るだけの、静謐で神秘的な空間。

 白い砂を踏みしめ、来人とアークは対峙する。

「……ちっ。またここかよ。この景色はもう、見飽きたぜ」
「始まりの島――創造の前には破壊が、新たな始まりの前には終わりが在る。最後に相応しいじゃないか」
「言ってろ」

 刃を交わり、衝撃で水面が揺れる。
 直後――、

「――『鎖の檻ジェイル』ッ!!」

 足元の砂の粒の一つ一つの隙間から、無数の『鎖』が現れ、アークを縛り付ける。

「ぐっ、くそッ! こんな、こんなもの――!!」

 アークは『破壊』の波動をぶちまけながら、鎖に抗う。
 しかし、どれだけ力を込めて引き千切ろうとしても、爪を立てようと、牙を立てようと、刃で断とうと斬りつけても、その鎖にか傷一つ付けられない。
 瞬く間に白銀色の鎖にからめとられて、アークは白い砂浜の上に拘束された。

「また、またこれかよ……!! また前みたいに、俺を封印する気か!? だけど無駄だぜ、もう全部終わったんだ! 俺を封印しようが、殺そうが、もう、何もねえんだからな!!」

 アークは喉を引き裂かんばかりに声を上げる。
 来人はその目の前に、静かに立っていた。

「――なあ、アーク」
「……ぁん?」
「お前はどうしたかったんだ。これが、お前の望んだ事だったのか」
「……当たりめェだろ。俺は全部壊して、何もかも滅茶苦茶にして、アダンとアナの創ってきたこの世界を、終らせたかったんだ」
「じゃあ、お前は――」

 来人は真っすぐと、アークの顔を見る。

「――どうして、泣いているんだ」
「……は?」

 アークは、泣いてた。
 鋭い瞳の端からはつうっと雫が零れ落ち、白い砂浜を濡らしていた。

「ちがっ、違う! 俺は、俺は――」
「ああ。終わりにしよう。もういい、もういいんだ。ここには、僕ら二人だけしか居ないんだ――」
 
 来人は、神々の紋章の剣の切先を、アークへと突き立てる。

「ぐッ、あッ……ああああああッッ!!!」

 アークは激痛に悶える。

「お前が見せてくれた、教えてくれた事だ。――名を、定義する」
 
 金色の刃を通じて、漆黒の波動がじわじわと来人へと流れ込んでくる。
 剣が“アークの波動を吸い上げている”のだ。

「お前はアークではない。お前は天野来神が息子の為にと引き取ってきた、白銀色の綺麗な髪をした、小さな女の子」
 
 名は体を成す。名に対する信仰がその存在を定義する。それが神格。
 来人は自分の想像でしかなかった、幻想イマジナリーでしかなかった妹という存在を再定義する。

「僕の妹だ。僕が塞ぎ込んでいた時に傍にいてくれた、優しい女の子だ。僕の真似をして唐揚げと甘い物が好きで、最近はちょっと生意気に育ってきたけど、そんなところも憎めない」

 そして、二本目。
 右と左、両の手で逆手に持った剣を通じて、アークの“黒”を吸い上げて行く。
 やがて剣の柄を通して、その“黒”は来人の身体を侵食する。
 手を、腕を、肩を、胸を、頬を、黒い発疹が覆っていく。

「やめ、やめろォ……」

 来人の真っ白なキャンバスの上に、アークの真っ黒な絵の具が乱雑に叩き付けられていく。
 瞬く間にその無垢な白は染め上げられて行き、他の色を寄せ付けない『破壊』でべた塗りされて行く。
 
 しかし、来人の魂の器というキャンバスは無限に広がっていた。
 右を見ても、左を見ても、果てしない“白”が広がっている。
 どれだけアークの真っ黒な波動が流れ込んでも、その全てを埋め尽くすなんて到底出来ない。

 アークの身体から、だんだんと黒が退いて行く。
 髪色も燃えるような赤から、老いた老人の髪のように。
 そして、その身体を覆っていて白銀色の線も侵食を弱めて行き、そして――、

「――お前は、“天野世良あまのせらだ”!!」

 パキリと音を立てて、白銀色の線の這っていた場所に沿って、アークの皮膚に亀裂が走る。
 そして、亀裂を割って、白くて細い手がアークの内側から伸び出て来た。

「――世良、帰ってこい!!!!」

 来人は、剣を突きさしたまま、片手を伸ばし、その手を取る。

「やめ、やめろォォォ!!!」

 アークは必死に抵抗し、叫ぶ。
 しかし鎖に雁字搦めにされ、神々の紋章の剣に突き刺され、波動を吸い取られ、もはや抗う事は出来なかった。


 手を引けば、アークの胸から肩口にかけて大きく穴が開き、そこから白銀色の髪の女の子が、姿を現した。
 来人の幻想から産まれた妹であり、アークの力の半身――天野世良だ。

 この世界にはもう、来人とアークしか存在しない。
 そこに存在する想いは、信仰は、二人の物だけだ。
 なら、“アーク”という神格よりも“天野世良”という神格への想いの方が強ければ、存在が強ければ、その主従関係は逆転する。
 
 裂けて出来た亀裂の内側から未だ弱弱しく伸びる黒い粘液の様な線を手で払い、世良の身体を引い寄せる。
 その勢いで倒れて、二人は一緒にごろごろと白い砂浜を転がった。
 
「世良っ! 世良っ! 良かった、良かった――」
「らい、にい……。こんなになるまで、何やってるの……」

 来人の肌は黒い絵の具をぶちまけた様に、全身に黒い発疹が浮かび上がっていた。
 アークの波動を吸い自分の内へと取りこんだ事によって、侵食されている様に現れ出ているのだ。

「大丈夫、僕は大丈夫だ。ほら」

 そう言った来人の肌に現れていた発疹は、次第にじんわりとだが小さくなって行っていた。
 王として覚醒した来人は、この程度では『破壊』されない。

「――世良、おかえり」
「うん……。ただいま、らいにい」

 二人は抱きしめ合う。

「て、てめェら……」

 そこに、鎖の擦れる音と共に、弱弱しいアークの声。
 肌も退色し、髪色も退色し、ほとんどの力を失って、世良という半身を失い完全再臨も解け、もはや抵抗する力も残されてはいなかった。
 そんなアークへと、世良はゆっくりと歩み寄って行く。

「世良……?」

 来人が声をかければ、大丈夫だとでも言う様に小さく微笑みだけを返す。

「……あぁん?」

 鎖に繋がれたまま、首だけを動かしてアークが世良を睨みつける。
 もうその視線もどこか虚ろだ。
 
 きっとアークは恨み言の一つでも吐かれるか殴られでもするのだと思っていただろう。
 しかし、世良が取った行動は意外な物だった。
 
「――なッ!?」

 アークは驚きに目を見開く。
 なんと、世良はアークの身体をそっと抱きしめたのだ。
 優しく、子供をあやす様に。

「大丈夫、大丈夫だよ、アーク。寂しかったよね、悲しかったよね」

 そう言って、世良はアークの退色した髪を優しく撫でる。

「うるせえよ、お前が、俺の何を――」
「ううん。全部知ってる。僕はアークだから。ずっと昔の事も、ここに取り残された間の事も、今の事も、全部」
「……ちっ、最悪だ」
「ね、アーク。アダンと、アナと、兄弟たちと仲直り、しよ?」
「――仲直り、ね。でもよ、俺は全部壊しちまった。もう、無理だ……」

 かつて原初の三柱に何があったのか、来人もアダンから聞いていた。
 それを聞いたからと言って、アークがした事は変わらない、殺した人は帰って来ない。
 やった事は無かったことにならない。
 それでも――、
 
 確か、アダンはこう言っていた。
 
 “どうしようもなくくだらない、なんて事無い話だっただろう”――と。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

処理中です...