【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
142 / 150
第三章 原初の破壊編

#138 完全再臨

しおりを挟む
「――“君の妹を引き剥がせるかもしれない”」

 そんなゼノの言葉を頼りに、来人たちは動く。

「――行くぞ、ガーネ! 『憑依混沌カオスフォーム』」

 背には翼の様に四本の金色の剣。両の手には氷の刃と王の証の剣。
 来人とガーネの魂の器が重なり、一つの力と成った、氷の竜を纏った様な姿。
 
 来人の視界に表示されるメガ・レンズにはシンクロ率■■■%と文字化けした数値が表示されている。
 もはや、今の来人の状態を計測する事は出来なかった。

 その氷刃の一振りを、アークは漆黒の刃で受け止める。
 一瞬の鍔迫り合い。

「お仲間が来た途端、早速お得意のヤツかよ!」

 愉し気にアークの口角が吊り上がる。
 しかし、勿論相手は来人だけではない。
 アークは背後に気配を感じ、すぐさま身体を反らす。

 数歩後退すれば、先程までアークの居た空間を、二本の槍の切先が通り過ぎて行った。
 
「おっと。後ろに目でも付いてるのか?」

 両の手に二振りの槍を手にしたライジンだ。背にはゼノを背負っている。
 次代の王と、かつての最強。親子揃って存分に力を振るい、休むことの無い連撃でアークを追い詰めて行く。

「ちっ。ちょこまかと、鬱陶しい!」

 アークが両の手を前に突き出し、漆黒の閃光。
 その極太のレーザーは来人へと真っすぐと放たれる。

「――ジューゴ!」

 次いで、来人はガーネとの融合を解きジューゴを纏う。『憑依混沌カオスフォーム』だ。

 手に持つ王の証の剣を正面へ。翼として背から伸びていた鎖の腕、その手に持つ四本の金色の剣の切先も、同じく正面向けた剣の切先を合わせ合う様にして、翼で自身を覆う形となる。
 そして、その剣一本一本を骨子として、『金剛石ダイヤモンド』の盾が傘の様に出来上がる。

「僕は王様の盾! 『金剛石ダイヤモンド』――お前の『破壊』だって、一滴も通さないのです!」
 
 『金剛石ダイヤモンド』で形作られた半球状の傘が漆黒の閃光を正面から受け止め、横に流す。
 来人の王の波動と合わさる事によって、それはアナの『維持』にも匹敵する。その防御性能は圧倒的だ。

「よくやった、来人!」

 ライジンはその隙に、アークへと斬りかかる。
 アークもすぐさま漆黒の刃を産み出し応戦するが、二槍を振るいアークの刃を弾き飛ばす。
 弾かれ宙を舞う漆黒の刃はそのまま空に消えて行き、それを握っていたアークの腕もその衝撃で浮く。

 これで隙だらけだ、取った――そう思った。が、しかし。

「甘えんだよ」

 アークの背から、突如新たな二本の腕が伸びた。
 肉を突き破りぬるりと生み出されたその腕で、ライジンの二槍を掴む。

「何ッ――!?」
「旦那様! そこ、邪魔ですわ!」
 
 その時だった。
 七色の光と共に、ライジンとアークの間を割る様にして、『虹』の斬撃が降り注ぐ。
 それによって、ライジンは槍を手放し退避。
 アークの手に捕まれていた槍は、『破壊』されてボロボロと崩れ落ちた。

「おい、イリス! 俺にも当たりそうだったぞ!」
「もう贅肉は落ちたのでしょう? なら、それくらい黙って避けてくださいませ」
「ったく……でも、助かったぜ」
「今更わたくしの魅力に気づいても遅いですわ。――さあ、坊ちゃま!」
 
 イリスが手を伸ばせば、身体が七色の光に包まれて行く。
 その光は真っすぐと来人の元へ。
 
 『憑依混沌カオスフォーム』――来人は獣の四肢と荒々しい金色の長髪を纏い、七色のオーラを放つ。
 
虹の鋭爪レインボー・クロー!!」
 
 虹の爪撃がアークを襲う。
 アークは四本の腕を交差させて、それを受け止める。

「何だ、大した事ねえな!」
 
 しかし、受け止めたという事は、『虹』のスキルを諸に食らったという事だ。
 瞬間、アークは背後から一太刀を浴びせられる。

「なッ――速い!?」

 ――いや、違う。アーク自身が遅くなっているのだ。

「――お前はお爺ちゃんを恐れていたネ。自分を封印しえる、そのスキルを」

 そこに居たのはガーネだ。氷刃の一太刀が、腕の一本を切り落とす。
 イリスの『虹』のスキルに来人の王の波動が通う事によって、アークにも弱体化の力が働いた。
 結果、ガーネの接近に反応する事すら出来なかったのだ。

 そして、切り落とされた腕は宙で静止する。――まるで、時が止まったかの様に。

 「“時空剣じくうけん”――時間も、空間も、ネが凍らせるネ」
 
 それはバーガの秘儀。失われたはずの技。しかし、それを孫は継承していた。
 
 その時の停止はアークの腕の傷口からも浸透し、じわじわと身体の自由が利かなくなってくる。
 やがて、アークの半身が動かなくなる。

「ちッ、させるかよ!」

 まだ動く腕を動かし、手刀で半身を無理やり切り落とす。
 ガーネの“時空剣じくうけん”の支配から解放されたアークは、すぐさま半身の負傷という事象を『破壊』して再構築。
 しかし、その大きな隙は致命的だ。更なる追撃。

 アークの周囲に、“金のリング”が散らばる。
 来人が拳を握れば、そのリングの隙間から無数の『鎖』が生み出され、アークの身体を絡め捕る。

 そしてガーネが、ジューゴが、イリスが、光となって来人の元へと集う。

「――『憑依混沌・完全体カオスフォーム・フルアームド』!!!」
 
 来人の声に呼応して、『鎖』は『虹』の七色を内側で反射し輝く『金剛石ダイヤモンド』へと材質を変化させて行く。
 そして鎖に拘束されたアークの身体に『氷』の時間凍結が浸透し、じわりじわりと凍り付いて行く。

 『金剛石ダイヤモンド』になった『鎖』は破壊されない。
 『虹』の弱体化によって、どんどん動きが緩慢になって行く。
 『氷』の技“時空剣じくうけん”によって、それも完全に停止する。

 あの破壊の神を、完全に封殺した。好機だ。

「――今だ、ゼノ! ぶちかませ!!」

 ライジンは叫びと共に、背負っていたゼノをアークに向かってぶん投げる。
 ゼノは鎖で雁字搦めに拘束されるアークに飛びつき、首筋に噛み付いた。

「ぐッ、ぐああああッッ……!!」

 その白い歯を通して、ゼノの『遺伝子』のスキルがアークの身体を侵食する。
 入った。確実に。
 
 アークは痙攣し、血反吐を吐く。身体の輪郭がブレ始める。

「やった……!」

 アークの身体中に走る白銀の線――世良の魂の一片がより侵食を強めて、その褐色の肌を走る。

(――え? いや、待て。どうして侵食が強まっている……?)

 おかしい。
 予定通りなら、ゼノの『遺伝子』の力によって、世良とアークの魂を改変して、二つに分離するはずだ。
 なのに、どうして侵食が強まり、一つになろうとしているんだ。

 そう来人が気づいた時には、既に遅かった。
 瞬く間に、アークとゼノが漆黒の波動で出来た球体に呑み込まれて、消え去った。

「――なッ! 逆流して――」
 
 ゼノの狼狽。
 そして、次の瞬間。
 その球体は集束し、そこにはアークだけが立っていた。
 ブレていた輪郭も固まり、アークは波紋一つない水面の様に、静かにそこに立っていたのだ。
 拘束していた鎖も、ゼノも、どこにも無い。――全てが『破壊』された。

 やがて、アークが口を開く。
 
「――感謝するぜ。最後のピースが揃った」

 皆、すぐに状況を理解した。失敗したのだと。
 元々アークは『遺伝子』の欠片を呑み込んでいた。しかしそれでは世良との融合を完全な物にするには足りなかった。
 つまり、その最後のピースとはゼノの持つ『遺伝子』そのものだった。それが逆流して、アークが悉くを呑み込んでしまった。
 結果、世良とアークの融合、その同調は予定よりも急速に早まり――完成した。
 
「まさか、ホンモノがそのまま生きてるとはな。運がいい。まあ、わざわざそっちから来なくても、時間さえ有れば良かった。さからこそこの世界に籠ってたんだが――、しかし同調の完全が早まったのは行幸だ」

 足の先から額まで白銀の線を広げ、燃えるような真っ赤な頭髪にもその白銀は混じり合っている。
 完全に世良と一体化し、完全再臨したアークの姿が、そこには在った。

「フフ……ハハ、ハハハ……アハハハハハ!!!!」
 
 アークの高笑いに呼応する様に、止めどなく力が溢れ出す。
 それはまるで海で起こる災い――津波の様に、光すらも吸収する真っ黒な波動の奔流が悉くを覆いつくす。

「まずい……。みんな、逃げて!!!」

 そう叫んだ時には、既に遅かった。
 周囲で戦っていた天界とガイア界の戦士たちも、アークから流れ出る破壊の奔流に呑まれて死んでいく。
 真っ黒な波動の波が、世界を包み込み、『破壊』して行く。
 世界終焉の瞬間とは、まさにこんな光景なのだろう。

 原初の三柱、破壊の神――アーク、ここに再臨。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...