【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
140 / 150
第三章 原初の破壊編

#136 旅路の記憶

しおりを挟む
 ユウリは来人にティルから託された王の証を渡した後、来人の要請に従って、テイテイの元へと向かう。
 魔女の様に箒に跨り、空を飛ぶ。
 長い黒髪が風に靡き揺れる。髪の隙間からすらっと伸びたエルフ耳がちらりと覗く。

「さて、間に合うと良いのですが――」

 テイテイは今、秋斗の核を使い生み出された赫の悪魔と戦っている。
 悪魔はアークの『破壊』の波動を帯びている。いくらテイテイが来人の契約者だといっても、所詮はただの人間だ。
 それでもテイテイが負けるとは思えないが、急ぎ向かう必要があるだろう。
 何より――、

「――テイテイ君に、お友達を殺させる訳にはいきませんから」
 
 箒を加速させ、空を飛ぶ。
 しかし、その道中の事だった。

「あれー? 帰ってきたと思えば、やけに賑やかだねえ」

 突如、へらへらと笑う声がする。
 ユウリがその方を見れば、そこには自分と同じように空を飛ぶ誰かが居た。

 目深にとんがり帽子を被り、ローブマントで覆われていて首から下を見る事は出来ない。
 ユウリから視認できるのは、場にそぐわぬ笑みを浮かべる口元だけ。男か女かも分からない。
 そのとんがり帽子はユウリの行く手を阻む。

「……どなたでしょうか。そこを、どいて頂けますか。急いでいますので」
「一応、こっち側だから。状況を見るに、あんたはそっち側なんでしょう? なら、どけな――」

 そうとんがり帽子が言い終える前に、ユウリは『結晶』の弾丸を放っていた。
 結晶はとんがり帽子のローブマントの上から貫く。
 しかし――、

(――手応えが、有りませんね……)

 穴の開いたローブマントだった布切れだけが、宙を舞う。
 とんがり帽子とそこから覗く笑みを浮かべた口元だけが怪しくその場に浮いている。
 首から下はぼんやりとした黒い影が煙の様になっていて、結晶の弾丸によって貫かれたのはあの煙だけだったのだろうと分かる。

「十二波動神が一柱――と言っても、他の皆は死んじゃったから、もうこの名乗りも意味はないかもね。ただの旅人、ヘルメスだよ。――今この瞬間までは、ね」
 
 ヘルメスと名乗ったとんがり帽子は、その言葉を最後に、姿を変えて行った。
 影の煙が形を変え、全く別の輪郭を成す。

「――これが、君の旅路の記憶だよ」
「あなたは――」

 ヘルメスは、両の瞳を包帯で覆った少年の様な姿へと変貌した。
 そして、片手の人差し指を向け、そこから赤い稲妻を打ち出した。

 ユウリの右目が真紅に染まる。
 赤い稲妻の軌道を読みすっと軽く身体を逸らせば、稲妻はユウリの頬のすぐ隣を通過して行った。

「――ふうん。上手く使っちゃってまあ。でも、僕の権能、返してもらうよ」
 
 瞳を覆う包帯を片手の親指でぐいと持ち上げれば、そこから覗くのは真っ暗な闇。
 眼球の在るはずの場所には、ぽっかりと風穴が空いていた。

「……ごっこ遊び、ですね」

 そんな目の前に現れた敵に対しても、ユウリの表情は平時のそれだ。
 眼鏡の奥の、真紅と紫紺の両の目を細めてヘルメスを見据えている。
 いや、そんな平静に見えるユウリの表情の裏に、僅かな陰りは見て取れただろう。

「はあ……」

 大きなため息と共に、ユウリは眼鏡を外して懐に仕舞い込み、『結晶』の双剣を両の手に構えた。

「良いですよ。少しだけ、その遊びに付き合ってあげます。そうしなければ、通してはくれないでしょうから」
「その余裕が、いつまで続くかな? ま、“自分のトラウマ”に殺されるといいよ」

 赤い稲妻が奔る。結晶の盾がそれを防ぐ。
 舞うように双刃を振るう。ヘルメスは槍を産み出し、それに応戦。
 数度の攻防が続く。

「これでも、その澄ました顔のままでいられるかな?」

 ヘルメスが指を鳴らせば、どろりと黒い泥が溢れ出て、やがて黒光りするぶよぶよとした異形の怪物の形を成す。
 異形の怪物たちは泥の雫をばら撒きながら、羽を羽ばたかせて襲い掛かって来る。

 ユウリは視線だけをそれらに流し、紫紺の左目を瞑る。
 そして、開いたままの真紅の右目が、輝きを放つ。

「――『聖域サンクチュアリ』」

 小さな『聖域サンクチュアリ』を複数同時展開。
 異形の怪物たちをその世界へと巻き込み――、

 びしゃりと水音を立てて、先ほど『聖域サンクチュアリ』の発生した今は何もない空間から、黒い泥の飛沫が上がる。
 全ての異形を、瞬殺――。

 そして、気づけば既にユウリはヘルメスの背後に居た。

「なッ――」
「はい、おしまいです」

 ユウリは鬼ごっこでもして捕まえたとでも言うかのように、とんと軽くヘルメスの肩を叩く。

「――は? いや、何ふざけて――」

 ヘルメスがそう言いかけた、その時だった。
 突如、ヘルメスの内から熱が沸き上がる。

「――え、いや、まて、そん――」

 内から湧き上がる熱は留まらず、ヘルメスの身体はぶくぶくと音を立てて沸騰を始めた。
 まるで電子レンジに入れられて熱されたかのように、肉が、血が、沸き上がり、そして――弾け飛ぶ。

「――かッ……、かはッ……」

 血反吐を吐き、体中からボトボトと肉を散らす。

「それでは、急いでいますので」

 そのままユウリは事は終わったと、また箒に跨る。
 
「あ、れ……。おかしい、な。君の一番嫌な記憶を、投影したはず、なんだけど……。どうして、君は、恐怖しないんだ……」
「とうの昔に過ぎた事です。あなたがわたしの中に見出した“それ”も、永遠の中のたった一瞬の記憶です。乗り越えた過去に、どうして恐怖するでしょうか。
 ――それに、わたしは一人ではありませんから。傍に大切な人が居れば、何も怖くなんてありませんよ」

 ユウリの左手には、一つのシルバーの指輪が輝いていた。
 
 ヘルメスの姿が、少しずつ元のとんがり帽子へと戻って行く。
 しかし、その姿が完全に元に戻る事は無かった。

 静かに、天から大きな『結晶』の弾丸が降って来る。
 結晶に穿たれたヘルメスはその勢いのまま地に落ちて行く。

 そして、最初の一発を皮切りに、何度も、何度も。
 やがて、幾数本の積み重なった『結晶』は華のように。

 赤黒い悪魔の群れの肉の波の中に、一つの結晶の華が咲き誇る。
 しかし、そんなその輝かしい半透明の紫色の華も、肉の波に圧され儚くも散って行った。

「さよなら、わたしの過去」

 ぽつりと言い残し、ユウリは箒に跨り飛んで行った。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...