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第三章 原初の破壊編

#135 援軍

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 来人の家庭教師、黒髪のエルフ、ユウリ。
 そしてガイアの契約者たる、ガーネ、ジューゴ。
 なら、彼女だって居るだろう。

 ――七色の輝き。『虹』の光彩が赤黒い肉の波を切り裂く。

「坊ちゃま! わたくしも居ましてよ!」

 金のロングヘア、メイド服、四肢は獣。
 来人の三人目のガイアの契約者、イリスだ。

「面倒な着物の人からの預かり物ですわ!」

 イリスは王の証を来人へと投げる。
 来人はそれを受け取り、それもまた剣の形を成した。
 三つの王の証が、ここに揃った。

「イリスさん! 母さんは……!?」
「ええ、勿論ご無事ですわ。旦那様が、助けてくださいました」
「えっ、父さんが? 生きて……!?」

 その時、天から声。

「おうよ! ここまでよく戦ったな、来人!」

 飛竜の上で仁王立ちをするライジンだ。
 そして、その姿は勿論来人のよく知る肉に身を固めた丸々とした姿ではなく、筋肉隆々の引き締まった身体だ。
 そのまま「とう!」という掛け声と共に、飛竜から飛び降りて来人の隣へと着地した。

「え!? あ、あれ? 本当に……父さん?」
「うん? 格好いいだろう?」
「それは、まあ、前よりは……」
 
 やや強引ながらも同意を得られて、ライジンは上機嫌だ。
 
「息子と、それといつの間にか増えてた娘を助ける為に来てやったぜ」

 そして、ライジンの乗っていた飛竜は一体だけではない。
 何体もの竜が、崩壊の空を飛んでいる。
 彼らは、ガイア族の翼の姿だ。翼の姿を成しているという事は、炎の大地の戦士たちだろう。
 そして、そのガイア族を指揮しているのは――、

 水の大地の戦士たち。ジュゴイチとジュゴツーたちジュゴン六兄弟の五人の姿。
 森の大地の戦士たち。イリスの兄ジャックの姿。
 そして、山の大地の戦士たちの先頭には数多の武器を背負った獣人の男が二人。

「おいおい。肝心のボスが見えねえな。また迷子か?」

 神カンガスと、山の大地の長ユキだ。
 二人の顔は全くと言っていい程同じ物だ。

 更に後方、そこまで来人は見る事は出来ない。
 しかしそこから強い力が放たれ、それが援軍たちを包み込んでいる様だった。

 そこに居たのは、原初の三柱、神王補佐のアナ。
 そして、アナの周りには天界の残存戦力の全てが終結していた。
 ガイア界も、天界、その全ての戦士たちが駆けつけたのだ。
 
 アナは一度敵対した身で顔を出しづらいというアナの心情も有るのだろうが、何よりこの後方という位置が最も“支援”に向いていた。
 自身の『維持』のスキルと王の波動を、バフとして全範囲に加護を与えているのだ。
 
 全ての味方に維持の状態変化無効のバフと、王の波動を与える。これによって、全員が対アークと悪魔の戦闘が可能となった。
 アナは皆を指揮し、鼓舞する様に叫ぶ。
 
「気を付けろ、アークの力が強まっている! 一秒以上黒い波動に触れるな、私の力が守れるのはそれまでだ!」

 アナの原初の力を以てしても、一秒が限界だった。
 しかしそれでもゼロではない。それだけで、天界の戦士たちは悪魔の群れと戦える。
 

 そしてよく見れば、ライジンは何かを肩に担いでいた。

「父さん、それは?」
「おう。ゴールデンから預かった」

 ライジンに担がれていたのは、ゴールデン屋でバイトをしていた少年――もとい、メガによって生み出された原初のガイア族のクローン体、ゼノだった。

「……どうも」

 ゼノはやや気まずそうに担がれたまま挨拶をする。

「え、なんで――」
「メガの研究の成果が出た、と言ったら分かる?」

 研究の成果。ゼノは元々『遺伝子』のスキルを以って鬼人化した秋斗を人間に戻すために生み出された。
 つまり、その成果が成ったという事は、『遺伝子』のスキルの再現に成功したという事だ。
 しかし――、

「そっか……。でも、秋斗はもう――」

 来人の視線は遠くへと向けられている。
 その方角は、テイテイと赫の悪魔が戦っている方角だ。

「ああ、そうだ! テイテイ君が、秋斗――だったモノと、戦っているんだ! 今どうなっているか分からないけど、誰か助けに行ってあげて!」

 その声には、箒に跨り空を飛ぶユウリが答えた。

「分かりました。それでは、わたしはテイテイ君の元へ」
「お願いします!」

 ユウリはそのまま来人の指した方へと飛んでいく。
 ライジンはどう言ったら良いものかと悩ませつつも、

「あー、まあ、なんだ。残念だったな。だが――」
「ううん。大丈夫」

 来人の瞳にはしっかりとした覚悟の光が宿っていて、そこに悲しみも絶望も感じられなかった。
 あの頃の、塞ぎ込んでしまう弱い来人ではなかった。
 それを見たライジンは、息子の成長に目を細めて、それ以上の言葉を続けなかった。

 そこに、ゼノが「ちょっと、いいかな」と口を挟む。

「本来の役目は果たせなくなったみたいだけど、まだ仕事はあるんじゃない?」
「仕事……? 『遺伝子』の……?」

 どう使うのか、何に使えるのか、来人は考える。
 そして、その答えにはすぐに至った。

「魂の遺伝子を書き換える。それは、アークに対しても……?」

 ゼノはこくりと頷く。

「君の妹? を引き剥がせるかもしれない。やった事は、ないけどね――」
 

 ――カンガスとユキが先陣を切って、ガイア族の戦士たちは悪魔の群れに立ち向かう。
 しかし、その群れを割って、一柱の神が現れた。

 カンガスとユキと殆ど同じ様な、背に無数の武器を背負った男だ。

「ヘファイストスか」

 十二波動神が一柱、ヘファイストスがカンガスたちの前に立ち塞がる。

「カンガス様、今ここで足止めされていては、後ろの者たちが――」
「ちっ」

 カンガスたちの後ろに続くのはガイア族の戦士たち。
 今ここで彼らの指揮を執っているカンガスが手間取っていれば――、

 と、その時だった。

「――ああ、やっと着いた」

 全身を縫い合わせた継ぎはぎの大男、二代目神王ウルスだ。
 アークに破壊されてもなお、根気よくアナが維持の力っで相殺していき治療を施した事によって、ここに復活した。
 しかしその姿はかつての様な凛々しいものではなく、治療も急造なのが見て取れるほどの痛々しい様相だ。
 縫い後と包帯で全身が覆われている。

「全く、久しぶりに会ってもその方向音痴は変わっていないな」
「お前が案内してくれれば良かっただろう」
「いや、何を言う。私が先頭を走るよりも早く、ウルスが走って行ってしまったんだろう。そんなボロボロの身体で、よくもまあ……」

 そして、ウルスの傍には大きな一頭の熊。
 相棒のガイア族、アッシュだ。
 
「ま、一回死んだ価値はあっただろうよ。お前が帰って来てくれたんだからな」

 ウルスはアークに一度破壊され、死んだと言ってもいい。
 それをアナの力で復活させる際に、ウルスの中に在った憑依混沌カオスフォームに呑み込まれていたアッシュの魂が分離した。
 結果、今のウルスの血にアッシュは混じっておらず、十全な王の波動を振るう事が出来る。
 アッシュは嬉しそうに鼻で笑って返す。

「ま、ともかく、だ」

 と言って、ウルスはカンガスを向いて、

「カンガス、そいつの相手は任せる。ガイア族たちの指揮は俺に任せろ」

 と言って、親指を立てる。

「おう、任せたぜ、兄弟!」

 カンガスは相棒のユキと共に、ヘファイストスと戦う。
 そして、ウルスは熊の背に跨り、拳を天に掲げ、空間の震えんばかりの声を上げる。

「天界の、ガイア界の、誇りある戦士たちよ! オレに続け! 勝利は、我らの手に!!」
「ウオオオオオオオオオ!!!!!!」

 胴の入った戦士たちを鼓舞する今代の王の咆哮に、戦士たちの喝采が続く。
 二代目神王ウルスを旗印として、悪魔の群れが次々となぎ倒されて行く。

「――さあ、これが俺の最後の仕事だ。その後は――ライト、任せたぞ」
 
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