【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
136 / 150
第三章 原初の破壊編

#132 顎

しおりを挟む

 アークは漆黒の『破壊』の波動を練り上げ、二本の刃を作り出す。
 来人の金色の剣と、アークの漆黒の刃が、ぶつかり合う。

「全く欲深いな、若き王。お前が世良という一を諦め、他の全だけを取ったのならば、束の間の幸せくらい味わえたかもしれないというのに。お前はその欲深さ故に、全てを失うのだ!」
「僕の器の上に有る物は、ただの一つも取りこぼさない。それが僕の覇道だ!」

 漆黒の刃は、白き王の波動を帯びた剣によって砕かれる。
 しかし砕いても、砕いても、ただの波動を凝縮しただけの刃は何度でも生成され続ける。

「来人、避けて!」

 秋斗の声とほぼ同時に、来人は既に動いていた。
 鎖のアンカーを打ち出し、巻き取る勢いで加速。
 瞬く間にアークの視界から姿を消す。

 その代わりに、一発の銃弾が来人が居たはずの空間に放たれていた。
 来人を隠れ蓑として、『腐り』の弾丸がアークに迫る。

「ちいッ」

 アークは回避が間に合わなかった。
 片腕で自身の身体を庇うが、その銃弾を受けた腕は瞬く間に腐り落ちた。
 びちゃりと水音を立てて、肉が地に落ちる。

 アークはその腕に傷口を破壊し再構築しようと、もう片方の手で抑えつける。
 『破壊』の波動が傷口を覆い、その傷を作った王の波動を溶かして、瞬く間に腕は形作られる。
 しかし、その一瞬。
 一瞬だけ、アークの両腕から自由が失われた。

 ――その好機を、逃さない。
 
「『炎鎖葬滅えんさそうめつ』!!!!」

 テイテイの拳から放たれる、『鎖』と『マグマ』の二重奏。
 太陽をも凌駕する圧倒的熱の嵐と、切断への絶対耐性を持つ最強の鎖。
 テイテイのフルパワーを、その隙に叩き込む。

(――入った!!)

 テイテイは確かな手ごたえを感じていた。
 しかし、それと同時に――、

 がくりと、テイテイは膝を付く。
 アークを燃やし尽くさんとしたはずが、同時にテイテイ自身の身体が燃える様に熱を帯び、火傷の様に身体に斑の発疹が浮かび上がっていた。
 その斑模様からはしゅうしゅうと音を立てて、白い煙が上がる。

「「テイテイ君!」」
 
「大丈夫だ。俺の修行不足だ」

 そう言いながらも、テイテイの表情は苦し気だ。

(――来人の波動、これほどまでとは……)

 テイテイは来人から契約を通して流れてくる王の波動を、全力で自身の技に込めた。
 その結果、どれだけ強いとは言っても所詮は人間の身であるテイテイの身体は耐えられなかった。
 魂から体中をめぐる波動の脈が悲鳴を上げ、ショートした。

 しかし、確実にその一撃はアークを捉えた。
 下手すれば殺しているかもしれないと思うほどに、強力な一撃だった。
 捨て身で放ったその技に価値はあっただろう。

 やがて、硝煙は晴れて行く。
 それに伴って、テイテイの身体もだんだんとその熱を冷まして行った。
 
 硝煙の奥に、アークは居なかった。
 正確には、散らばる肉片だけがそこには在った。
 血肉の焼ける嫌な匂い。

 やったのか? 殺してしまった? ――そんな思考が、三人の間に走る。
 しかし、それも一瞬にも満たない間だけだった。

「後ろだ!!」

 テイテイは振り返る。しかし――、

「おせえよ」

 漆黒の波動を纏った拳が、テイテイの腹部を打つ。
 テイテイは咄嗟に地を蹴って、殴られた衝撃を逃がす事でダメージを抑えるに徹する。
 その身は勢いのまま吹き飛ばされ、数度地を転がった。

 テイテイはその身に鎖を編み込んだ鎖帷子を纏っていた。
 鎖は来人と繋がり、王の波動を帯びている。『破壊』を直接受けることなく、被害はその鎖帷子の鎧が砕けるに留まった。
 
 しかし、その一撃で終わるはずが無かった。
 更なる追撃。

「人間のお前じゃ、相手にならん。死ね」

 漆黒の一閃。
 地に降すテイテイは、回避しようと鎖を伸ばす。
 しかし、間に合わない。もう鎖の鎧は無い。次の一撃を受ければ、命は無い。

 来人は――間に合わない。
 その黒の閃きが、その身を、穿つ――。

 しかし、その一閃はテイテイへと届かなかった。
 穿たれたのは――秋斗のだった。

 アークとテイテイの間に、三本角の鬼が立っていた。
 胴には穴が開き、そこからどくどくと混沌色の血液が溢れ出している。
 傷口からは『破壊』が侵食していき、だんだんとその身を崩して行く。

「秋斗!!!!」
「どうして、秋斗……。どうして俺を庇った!」
 
 来人は駆け寄るが、間に合わなかった。
 テイテイの元に辿り着くもその足を止め、愕然としている。
 
 秋斗は今すぐにでも倒れてもおかしくないというのに、必死に二本の足で立ち、首だけを後ろに向けて来人とテイテイを見る。

「どうしてって、親友を助けるのに、理由なんて要らないだろう……」

 『顎』の鬼は崩れ落ちて行く。
 角が折れ、地に落ちる。

「折角、折角また会えたのに、また――」

 ――また、居なくなってしまうのか。

 来人は手を伸ばす。しかし、その手はもう秋斗へは届かない。

「ごめんね、来人。折角助けてくれようとしていたのに、またお別れだ。でもね――」

 秋斗の右腕、鬼の形相の砲身もが壊れ行く。
 それでも、左手には絆の三十字が握り締められている。

「僕は鬼だ、もう死んでいるんだよ。今のこの時間は、おまけみたいなものさ。だから泣かないで、来人、テイテイ君。今を生きている二人の為に、僕はこの命、この力を使うよ」
 
 秋斗は最後の力を振り絞り、左手を真っすぐと前へ。
 三十字は光と共にフリントロック式の銃へと変わり、一発の銃弾――いや、『鎖』のアンカーを打ち出した。

 その最後の一発はアークへと、真っすぐと放たれる。

「……フン」

 壊す事も、避ける事も出来ただろう。しかしアークはその鎖を右手で受ける。
 打ち込まれた鎖はアークの右腕に巻き付き、締め上げる。
 しかし、それが限界だった。

 アークはそのまま鎖ごと右手を握りこみ、その拳を秋斗へと叩き込んだ。

「「秋斗おおおぉぉぉッッ!!!!」」

 二人の声は、もう届かない。
 漆黒の一閃によって秋斗を蝕んでいた『破壊』は、その拳の一撃の追撃で瞬く間に全身に。
 『顎』の鬼は塵となって消え去り、最後には――、

 アークが右拳を開けば、そこにいは一つの混沌色の石ころ――『顎』の鬼の“核”が握られていた。
 そして、秋斗の左手に握られていたフリントロック式の銃は三十字へと戻り、カランと音を立てて地に落ちた。
 来人とテイテイは、親友の二度目の死を目の当たりにする事になったのだ。

「アーク、お前ッッッ!!!!」
「……絶対に、許さない。焼き尽くしてやる!!」
 
 来人とテイテイ、二人は激昂。
 感情のままに、剣と拳を振るう。
 来人が怒り斬りかかる。テイテイは怒り殴りかかる。
 
 しかしそんな直情的な攻撃がアークに通用するはずもない。

「良い顔だ。お前らも絶望し、そして壊れて行け」

 余裕の笑みで応戦。
 地を蹴り、天を駆け、攻防を続ける。
 しかし、先ほどまでの三体一ですら及ばなかったというのに、今は二人だけ。
 やがて、力及ばず、二人は叩き落とされる。

「ぐあっ……。ぐ、クソっ……」

 地に降す来人。
 そして、そこは丁度秋斗が死した場所だった。
 来人の視界には、金色の輝く十字架が在った。

「秋斗……、秋斗……」

 来人は手を伸ばし、落ちた秋斗の絆の三十字を拾い、ぎゅっと力強く握り締める。
 そこに、ふらふらとしながらもテイテイが来て、来人に手を伸ばした。

「まだ、立てるか」
「……ああ。勿論だよ。負けられない」

 テイテイの手を取り、来人は再び立ち上がる。
 来人は秋斗の三十字もその形を愛刀と同じ金色の剣に変化させた。しかしそのサイズはいつもよりも小さく、短剣と呼べる物だ。
 
 左手には陸から託された王の証を柱とした剣。右手には二本の三十字の短剣。
 秋斗の想いも背負う様に、左に一本、右に二本の三刀を以って、アークに立ち向かう。


 アークは以前立ち塞がる二人を前に、不敵に笑う。
 そして、数度自分の手を握り、開き、感触を確かめる様に。
 戦いの中でも、世良との同調は少しずつ進んでいた。しかし、やはり最後のピースが足りず、完全には至らない。

 そして、その右腕には、秋斗が最後に放った鎖がまだ巻き付いたままだ。
 力を込め破壊しようと試みるも、依然鎖はそこに在る。
 それはただ、想いが作り出した幻想だ。そこに物理としての鎖は存在せず、呪いの様に鬱陶しくまとわりついているだけ。
 害すらも無いその鎖が、アークにとっては忌々しかった。

「……フン」

 アークはそんな呪いの鎖を些事だとでも言うかのようにつまらなさそうに鼻で笑い飛ばす。
 そして手の内にある核に視線を移して、今度は新しい玩具を見つけたみたいに口角を吊り上げた。

 アークは秋斗の核を前に突き出して、来人とテイテイに煽る様に見せびらかしながら、
 
「折角だから、こいつを使わせてもらおう」
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...