【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
135 / 150
第三章 原初の破壊編

#131 最終決戦、開幕

しおりを挟む
 来人、テイテイ、秋斗の三人は、漆黒の城の中へ。
 城の中は、外から見た時と印象もうって変わって荒廃していた。
 瓦礫の山が無造作に散乱していて、城というよりも“城だった場所”の様に感じられる。
 アークはこの崩界に元々打ち捨てられていたであろう、城だった場所を根城としていたのだ。

「外面だけ、取り繕った感じだな」
「そうだね。どこかの綺麗好きが見栄でも張ろうとしたんじゃないかな」
「アークは拘らないだろうしね」

 三人はそう会話しつつも、周囲への警戒を怠らない。
 これまでよりもピリリと張りつめた空気感の中、それでもその重圧に押し潰されまいと、互いを鼓舞し合う様に言葉を並べる。

「どうだ、アークは居るか?」
「うん。一番奥の部屋に、とびきり大きな反応がある。世良は……分らない」

 来人は分らないと言った。
 それは存在を感じられないという事であり、つまり、世良はもう――。
 そんな来人の言葉を汲んで、二人はその肩を叩く。
 顔を見合わせる。言葉は要らなかった。
 
 踏みしめればぎいぎいと嫌な音の鳴る朽ちた階段を登って行き、やがて、ひと際大きな扉の前に辿り着いた。
 その奥からは、圧倒的な存在感が放たれている。

「……ここだ」



 アークは白の最奥部の部屋で、ゆったりと大浴場の湯船に浸かっていた。
 この部屋だけは廃城の内側で、唯一綺麗な、新品と言ってもいい程の豪奢な内装だ。
 どこかの美に拘る神がここに拠点を構えるにあたって、外装共々勝手に改装したのだ。
 もっとも、その当人は既にこの世に無く、今はアークだけがそこに居る。
 
「一つ、二つ、三つ……」
 
 天を仰ぎながら、何かを指折り数えて行く。
 その褐色の肌には、白銀色の細い線が走っていた。その身体に、魂に、世良という半身の存在が次第に馴染んできている証だ。

「おいおい、あいつらもう殆ど残ってねえじゃねえか」

 アークが僕とした十二波動神。
 彼らの内の半数以上が、既に来人とその仲間たちによって悉く打ち倒されていた。

「ま、元々期待してはいねえ。内に燻る欲、怒り、劣等感、そんな負の感情を刺激して、そこに『破壊』のスキルをほんの一滴垂らしただけだ。俺に忠実なわけでもねえ。時間稼ぎが出来ただけでも充分だろう」

 ポセイドンは衰え行く自身の力への焦りから。
 ハーデスは自らが救おうとした人間への失望から。
 ゼウスは自分よりも若くして高みへと至ったライジンへの劣等感から。
 ヘラは愛される他者への嫉妬から。
 アテナは自分よりも愚かな者たちへの怒りから。
 セレスは十二の柱に列する者の末端であり、同調圧力から。
 アフロディーテは醜い世界への失望から。
 アポロンは自分より強い相手を求める求道心から。
 アレスは戦への止む事無い執着から。

 皆、心の内に燻る何かを抱えていた。
 そして、それをアークは突いた。

「って事は、そろそろ来やがるか。まだ同調も完全じゃねえってのに――」

 アークと世良の同調は、想像していたよりも難航していた。
 それもそのはずで、世良という幻想イマジナリー自体が来人という王の血統から産まれた存在であり、アークの『破壊』とは根本の部分が相容れない。
 世良と自分は元々同一の存在のはずなのに、その一点の違いだけでこうも馴染まないのかと、アークは歯がゆさを覚えながらも、ただ時を待っていた。
 現段階でも、まだ7割ほど。最後のピースが足りない。

「おい、世良。大好きな“らいにい”が来てくれるぞ、良かったな。――っと、もう殆ど呑み込んじまったから、意識も記憶もねえわな」
 
 アークはただただ、風呂の湯に浸かりながら、誰が聞くでもないのに独り言を垂れ流し続けている。
 どうしてだろうか。黙っているには、この城は広すぎて、静か過ぎた。
 しかしそんな静寂は、空間を震わす程の轟音によって打ち破られた。

 ――ドゴオオオン!!

 突如、大浴場の大きな扉がぶち破られる。

「――あん?」

 アークは首だけを動かして、音の方を見る。
 砕かれた扉と、立ち込める土煙。

 そして、やがてその煙が晴れれば、音の主は露わとなった。

「――やっと見つけたぞ、アーク。世良を返してもらう」

 そこには来人、テイテイ、秋斗。
 各々の手には三十字を柱とした、それぞれの武器が握られている。
 扉はテイテイの右拳の一撃で粉砕されていたのだ。

 アークは待ち詫びた楽しみがやっと訪れたといわんばかりに、にやりと口角を上げる。

「やっとお出ましか。待ってたぜ、“らいにい”」

 同時に、来人の表情からさっと感情が失せ跳ぶ。

 戦闘開始だ。
 漆黒の城、その上半分は瞬く間に消し飛んだ。

 ほんの一欠けらの手抜きも手加減もない。
 最初から全力で、来人は力を振るう。
 魂の奥底から溢れ出る王の波動が、来人の身体を駆け巡る。

 弾け飛び、飛び散り、降り注ぐ城だったモノの残骸。その瓦礫が地に落ちるよりも早く、来人とアークは時間すらも置き去りにした。
 そして、その来人に迸る王の力は、契約者たるテイテイと秋斗にも伝播していった。
 舞い散る瓦礫を足場として、宙を舞い踊る様に、アークの周りを三人は縦横無尽に駆け巡り、攻撃の雨を浴びせ続ける。

「世良を、返せっ!!」
「それしか言えねえのか。なら、殺してみろよ」
「くっ……」

 このままアークを殺せば、同時に世良をも殺す事になってしまう。
 それが出来ないことを分かって、アークは挑発する。

 ただ殺してはならない。どこかでチャンスを作り、来人の王の波動を刺し込み、内側から引き剥がさなくてはならない。
 しかし、本気で殺しにかかっても殺せるかどうか分からない様な相手だ。
 来人たちは手加減などしていない。三人がかりで本気で殺しにかかって、やっとギリギリ勝負になっているのだ。

 まだ完全に至っていないとは言っても、アークの『破壊』はこれまでの紛い物――十二波動神のモノとは比べ物にならない。
 たったの一撃でも受けてしまえば、それが致命的となる。
 来人たちは回避と防御に徹し、アークの攻撃をいなしつつ、ヒットアンドアウェイを繰り返す。

 剣が、拳が、銃弾が――そして、鎖が。
 人数さは来人たちに分がある。次第にアークを追い詰めて行き、やがて地に降り立った。
 
 
 
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...