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第三章 原初の破壊編
#131 最終決戦、開幕
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来人、テイテイ、秋斗の三人は、漆黒の城の中へ。
城の中は、外から見た時と印象もうって変わって荒廃していた。
瓦礫の山が無造作に散乱していて、城というよりも“城だった場所”の様に感じられる。
アークはこの崩界に元々打ち捨てられていたであろう、城だった場所を根城としていたのだ。
「外面だけ、取り繕った感じだな」
「そうだね。どこかの綺麗好きが見栄でも張ろうとしたんじゃないかな」
「アークは拘らないだろうしね」
三人はそう会話しつつも、周囲への警戒を怠らない。
これまでよりもピリリと張りつめた空気感の中、それでもその重圧に押し潰されまいと、互いを鼓舞し合う様に言葉を並べる。
「どうだ、アークは居るか?」
「うん。一番奥の部屋に、とびきり大きな反応がある。世良は……分らない」
来人は分らないと言った。
それは存在を感じられないという事であり、つまり、世良はもう――。
そんな来人の言葉を汲んで、二人はその肩を叩く。
顔を見合わせる。言葉は要らなかった。
踏みしめればぎいぎいと嫌な音の鳴る朽ちた階段を登って行き、やがて、ひと際大きな扉の前に辿り着いた。
その奥からは、圧倒的な存在感が放たれている。
「……ここだ」
アークは白の最奥部の部屋で、ゆったりと大浴場の湯船に浸かっていた。
この部屋だけは廃城の内側で、唯一綺麗な、新品と言ってもいい程の豪奢な内装だ。
どこかの美に拘る神がここに拠点を構えるにあたって、外装共々勝手に改装したのだ。
もっとも、その当人は既にこの世に無く、今はアークだけがそこに居る。
「一つ、二つ、三つ……」
天を仰ぎながら、何かを指折り数えて行く。
その褐色の肌には、白銀色の細い線が走っていた。その身体に、魂に、世良という半身の存在が次第に馴染んできている証だ。
「おいおい、あいつらもう殆ど残ってねえじゃねえか」
アークが僕とした十二波動神。
彼らの内の半数以上が、既に来人とその仲間たちによって悉く打ち倒されていた。
「ま、元々期待してはいねえ。内に燻る欲、怒り、劣等感、そんな負の感情を刺激して、そこに『破壊』の色をほんの一滴垂らしただけだ。俺に忠実なわけでもねえ。時間稼ぎが出来ただけでも充分だろう」
ポセイドンは衰え行く自身の力への焦りから。
ハーデスは自らが救おうとした人間への失望から。
ゼウスは自分よりも若くして高みへと至ったライジンへの劣等感から。
ヘラは愛される他者への嫉妬から。
アテナは自分よりも愚かな者たちへの怒りから。
セレスは十二の柱に列する者の末端であり、同調圧力から。
アフロディーテは醜い世界への失望から。
アポロンは自分より強い相手を求める求道心から。
アレスは戦への止む事無い執着から。
皆、心の内に燻る何かを抱えていた。
そして、それをアークは突いた。
「って事は、そろそろ来やがるか。まだ同調も完全じゃねえってのに――」
アークと世良の同調は、想像していたよりも難航していた。
それもそのはずで、世良という幻想自体が来人という王の血統から産まれた存在であり、アークの『破壊』とは根本の部分が相容れない。
世良と自分は元々同一の存在のはずなのに、その一点の違いだけでこうも馴染まないのかと、アークは歯がゆさを覚えながらも、ただ時を待っていた。
現段階でも、まだ7割ほど。最後のピースが足りない。
「おい、世良。大好きな“らいにい”が来てくれるぞ、良かったな。――っと、もう殆ど呑み込んじまったから、意識も記憶もねえわな」
アークはただただ、風呂の湯に浸かりながら、誰が聞くでもないのに独り言を垂れ流し続けている。
どうしてだろうか。黙っているには、この城は広すぎて、静か過ぎた。
しかしそんな静寂は、空間を震わす程の轟音によって打ち破られた。
――ドゴオオオン!!
突如、大浴場の大きな扉がぶち破られる。
「――あん?」
アークは首だけを動かして、音の方を見る。
砕かれた扉と、立ち込める土煙。
そして、やがてその煙が晴れれば、音の主は露わとなった。
「――やっと見つけたぞ、アーク。世良を返してもらう」
そこには来人、テイテイ、秋斗。
各々の手には三十字を柱とした、それぞれの武器が握られている。
扉はテイテイの右拳の一撃で粉砕されていたのだ。
アークは待ち詫びた楽しみがやっと訪れたといわんばかりに、にやりと口角を上げる。
「やっとお出ましか。待ってたぜ、“らいにい”」
同時に、来人の表情からさっと感情が失せ跳ぶ。
戦闘開始だ。
漆黒の城、その上半分は瞬く間に消し飛んだ。
ほんの一欠けらの手抜きも手加減もない。
最初から全力で、来人は力を振るう。
魂の奥底から溢れ出る王の波動が、来人の身体を駆け巡る。
弾け飛び、飛び散り、降り注ぐ城だったモノの残骸。その瓦礫が地に落ちるよりも早く、来人とアークは時間すらも置き去りにした。
そして、その来人に迸る王の力は、契約者たるテイテイと秋斗にも伝播していった。
舞い散る瓦礫を足場として、宙を舞い踊る様に、アークの周りを三人は縦横無尽に駆け巡り、攻撃の雨を浴びせ続ける。
「世良を、返せっ!!」
「それしか言えねえのか。なら、殺してみろよ」
「くっ……」
このままアークを殺せば、同時に世良をも殺す事になってしまう。
それが出来ないことを分かって、アークは挑発する。
ただ殺してはならない。どこかでチャンスを作り、来人の王の波動を刺し込み、内側から引き剥がさなくてはならない。
しかし、本気で殺しにかかっても殺せるかどうか分からない様な相手だ。
来人たちは手加減などしていない。三人がかりで本気で殺しにかかって、やっとギリギリ勝負になっているのだ。
まだ完全に至っていないとは言っても、アークの『破壊』はこれまでの紛い物――十二波動神のモノとは比べ物にならない。
たったの一撃でも受けてしまえば、それが致命的となる。
来人たちは回避と防御に徹し、アークの攻撃をいなしつつ、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
剣が、拳が、銃弾が――そして、鎖が。
人数さは来人たちに分がある。次第にアークを追い詰めて行き、やがて地に降り立った。
城の中は、外から見た時と印象もうって変わって荒廃していた。
瓦礫の山が無造作に散乱していて、城というよりも“城だった場所”の様に感じられる。
アークはこの崩界に元々打ち捨てられていたであろう、城だった場所を根城としていたのだ。
「外面だけ、取り繕った感じだな」
「そうだね。どこかの綺麗好きが見栄でも張ろうとしたんじゃないかな」
「アークは拘らないだろうしね」
三人はそう会話しつつも、周囲への警戒を怠らない。
これまでよりもピリリと張りつめた空気感の中、それでもその重圧に押し潰されまいと、互いを鼓舞し合う様に言葉を並べる。
「どうだ、アークは居るか?」
「うん。一番奥の部屋に、とびきり大きな反応がある。世良は……分らない」
来人は分らないと言った。
それは存在を感じられないという事であり、つまり、世良はもう――。
そんな来人の言葉を汲んで、二人はその肩を叩く。
顔を見合わせる。言葉は要らなかった。
踏みしめればぎいぎいと嫌な音の鳴る朽ちた階段を登って行き、やがて、ひと際大きな扉の前に辿り着いた。
その奥からは、圧倒的な存在感が放たれている。
「……ここだ」
アークは白の最奥部の部屋で、ゆったりと大浴場の湯船に浸かっていた。
この部屋だけは廃城の内側で、唯一綺麗な、新品と言ってもいい程の豪奢な内装だ。
どこかの美に拘る神がここに拠点を構えるにあたって、外装共々勝手に改装したのだ。
もっとも、その当人は既にこの世に無く、今はアークだけがそこに居る。
「一つ、二つ、三つ……」
天を仰ぎながら、何かを指折り数えて行く。
その褐色の肌には、白銀色の細い線が走っていた。その身体に、魂に、世良という半身の存在が次第に馴染んできている証だ。
「おいおい、あいつらもう殆ど残ってねえじゃねえか」
アークが僕とした十二波動神。
彼らの内の半数以上が、既に来人とその仲間たちによって悉く打ち倒されていた。
「ま、元々期待してはいねえ。内に燻る欲、怒り、劣等感、そんな負の感情を刺激して、そこに『破壊』の色をほんの一滴垂らしただけだ。俺に忠実なわけでもねえ。時間稼ぎが出来ただけでも充分だろう」
ポセイドンは衰え行く自身の力への焦りから。
ハーデスは自らが救おうとした人間への失望から。
ゼウスは自分よりも若くして高みへと至ったライジンへの劣等感から。
ヘラは愛される他者への嫉妬から。
アテナは自分よりも愚かな者たちへの怒りから。
セレスは十二の柱に列する者の末端であり、同調圧力から。
アフロディーテは醜い世界への失望から。
アポロンは自分より強い相手を求める求道心から。
アレスは戦への止む事無い執着から。
皆、心の内に燻る何かを抱えていた。
そして、それをアークは突いた。
「って事は、そろそろ来やがるか。まだ同調も完全じゃねえってのに――」
アークと世良の同調は、想像していたよりも難航していた。
それもそのはずで、世良という幻想自体が来人という王の血統から産まれた存在であり、アークの『破壊』とは根本の部分が相容れない。
世良と自分は元々同一の存在のはずなのに、その一点の違いだけでこうも馴染まないのかと、アークは歯がゆさを覚えながらも、ただ時を待っていた。
現段階でも、まだ7割ほど。最後のピースが足りない。
「おい、世良。大好きな“らいにい”が来てくれるぞ、良かったな。――っと、もう殆ど呑み込んじまったから、意識も記憶もねえわな」
アークはただただ、風呂の湯に浸かりながら、誰が聞くでもないのに独り言を垂れ流し続けている。
どうしてだろうか。黙っているには、この城は広すぎて、静か過ぎた。
しかしそんな静寂は、空間を震わす程の轟音によって打ち破られた。
――ドゴオオオン!!
突如、大浴場の大きな扉がぶち破られる。
「――あん?」
アークは首だけを動かして、音の方を見る。
砕かれた扉と、立ち込める土煙。
そして、やがてその煙が晴れれば、音の主は露わとなった。
「――やっと見つけたぞ、アーク。世良を返してもらう」
そこには来人、テイテイ、秋斗。
各々の手には三十字を柱とした、それぞれの武器が握られている。
扉はテイテイの右拳の一撃で粉砕されていたのだ。
アークは待ち詫びた楽しみがやっと訪れたといわんばかりに、にやりと口角を上げる。
「やっとお出ましか。待ってたぜ、“らいにい”」
同時に、来人の表情からさっと感情が失せ跳ぶ。
戦闘開始だ。
漆黒の城、その上半分は瞬く間に消し飛んだ。
ほんの一欠けらの手抜きも手加減もない。
最初から全力で、来人は力を振るう。
魂の奥底から溢れ出る王の波動が、来人の身体を駆け巡る。
弾け飛び、飛び散り、降り注ぐ城だったモノの残骸。その瓦礫が地に落ちるよりも早く、来人とアークは時間すらも置き去りにした。
そして、その来人に迸る王の力は、契約者たるテイテイと秋斗にも伝播していった。
舞い散る瓦礫を足場として、宙を舞い踊る様に、アークの周りを三人は縦横無尽に駆け巡り、攻撃の雨を浴びせ続ける。
「世良を、返せっ!!」
「それしか言えねえのか。なら、殺してみろよ」
「くっ……」
このままアークを殺せば、同時に世良をも殺す事になってしまう。
それが出来ないことを分かって、アークは挑発する。
ただ殺してはならない。どこかでチャンスを作り、来人の王の波動を刺し込み、内側から引き剥がさなくてはならない。
しかし、本気で殺しにかかっても殺せるかどうか分からない様な相手だ。
来人たちは手加減などしていない。三人がかりで本気で殺しにかかって、やっとギリギリ勝負になっているのだ。
まだ完全に至っていないとは言っても、アークの『破壊』はこれまでの紛い物――十二波動神のモノとは比べ物にならない。
たったの一撃でも受けてしまえば、それが致命的となる。
来人たちは回避と防御に徹し、アークの攻撃をいなしつつ、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
剣が、拳が、銃弾が――そして、鎖が。
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