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第三章 原初の破壊編
#130 鎖の王
しおりを挟む轟音と共に、天から“何か”が降り落ちる。
それは百万の槍を携えた軍勢の中心に、まるで流星のように落ちてきた。
「――何だ!?」
いざこれからというタイミングで思わぬ乱入。
テイテイと秋斗は驚き、足を止めた。
流星の着弾地点で、爆風が巻き起こる。
そして、軍勢が次から次に投げ出され、宙を舞う。
その衝撃は一度ではない。何度も、何度も。
やがて、軍勢の中に大きなクレーターが出来上がり、土煙の隙間から流星の正体が露わとなった。
――白金色の髪。二本の金色の剣。
金色の剣が振るわれ、弧を描く。
そしてそれに追従する様に、もう一本。
その刃が槍の戦士を断つと時を同じくして、その戦士たちの“隙間”からは『鎖』が生まれる。
鎖は爆風と共に周囲を巻き込み、竜巻の様になって軍勢を薙ぎ払って行く。
宙には無数の『泡沫』。
戦士たちが槍を振るって応戦するや否や、鎖を通してバブルにイメージが伝わって行く。
そして、バブルの中からは全く同じ槍が撃ち放たれ、戦士たちを穿つ。
一体、また一体と槍の戦士は倒れて行く。
しかし、無限に増え続けるかの如く、倒しても倒しても、切りがない。
やがて――、
――カキン、と甲高い金属がぶつかる音が響く。
右に握る十字の剣が、槍に弾かれ取り落とされる。
剣は宙を舞い、地に刺さる。
「――『鎖拳』」
剣を取りこぼした右手を握り締める。
袖口の隙間から鎖が生まれ、拳に纏う。
そして、すぐさま鎖の拳は戦士の胴に叩き込まれる。
直後、左手の剣をも頭上に投げ、剣が回転し宙を舞う。
その左拳も右に倣い鎖を纏い――、放たれる。
「――“連鎖”」
右拳に続き、左の拳が弾丸の様に戦士を打つ。
そして、その衝撃は――連鎖して行く。
一体、二体、三体――、瞬く間に拳に打たれた戦士の周囲の個体にもそのダメージは伝播して行き、同様の拳の跡が腹に刻まれ、吹き飛ばされて行く。
その衝撃の伝播によって、直線状に居た槍の戦士の悉くは倒れ伏す。
――そして、一本の道が出来あがった。
宙を舞う剣はやがて落ちてきて、それを掴み取る。
右手を背後に伸ばせば、弾かれた剣も手元へと呼び戻る。
そして、出来上がった死体に囲まれた道をゆっくりと歩いて行く。
しかし依然虫のように湧き続けて、自分と同じ姿をした死体の山を乗り越えて、襲い掛かろうとする槍の戦士たち。
そんな軍勢にはもう目もくれず、歩みを進めて行く。
やがて、内の一体が死体の山を乗り越え、迫り来る――が、しかし。
その戦士の額に、一発の銃弾。
それは道の先に立つ、秋斗の左手のフリントロック式の銃から放たれていた。
「――なるほど、そういうイメージね。じゃあ――」
秋斗が言葉を紡ぎ終える前に、テイテイも既に動いていた。
最も間近に居た槍の戦士の胸倉を掴んで、右拳を叩き込む。
「「――“連鎖”!!」」
テイテイの放った鎖拳の一撃が、伝播する。
その衝撃は扇状に広がり、羽虫の如く軍勢をなぎ倒して行った。
そして、その伝播は秋斗の放った銃弾からも。
額を撃ち抜かれた戦士を起点として、蛇行する様に不規則な『腐り』が感染。
次々と溶解して、崩れ落ちて行った。
そして、テイテイと、秋斗と、死体の道を歩くいて来たもう一人。
三人はゆっくりと歩みより、集まった。
「おまたせ、二人とも」
空から降り降りた流星。
その正体は、三代目神王候補、半神半人の鎖使い、天野来人だ。
「遅いぞ来人。何やってたんだ」
「そうだよ。危うくこのまま二人で全部倒しちゃうところだったよ」
決して二人で倒し切れる数の敵ではなかった所に、まさに好機といったタイミングで現れた来人。
そんな来人を茶化すように、軽口を叩く。
「あれ? じゃあ、残りは全部任せようかな」
「ちょ、待って待って、嘘だから!」
「あはは。分かってるよ。じゃあ――」
三人は、並び立つ。
神と、人と、鬼と、それぞれ違った色。
「――行こうか」
「「――ああ!」」
それからの戦いは、圧倒的だった。
剣が、拳が、銃弾が。
絆の三十字の鎖で繋がる三人の息の合った攻撃の数々。
それらの一撃一撃が“連鎖”し、相手が百万の軍であろうと、その悉くを滅して行く。
――辺りに積み重なる死体の山が、一つ、また一つと塵となって消えて行く。
そして、最後の一体。
「お前が本体か」
来人は剣先を向ける。
その先には、その他の個体と全く同じ姿をした槍の戦士。
「――見事。アーク様の祝福によって『軍』のリミッターを解除してもなお、届かぬとはな。――しかし、ここを通す訳にはいかぬ」
戦士は槍を構える。
しかし、既にその槍はたった一本。
「十二波動神が一柱、アレス――参る」
――一閃。
金色の弧がアレスに重なる。
そして、既に再臨を終えたその身は黒く塵となって崩れ去った。
来人の元に、テイテイと秋斗が駆け寄る。
「お疲れ、来人」
「ああ。でも、足を止めている暇はない」
眼前にそびえ立つ漆黒の城を見る。
「あそこに、アークが……世良が……」
「うん。急ごう、来人」
すると、来人は剣を地に突き刺す。
そして、そこに波動を込めれば――、
じゃりじゃりと鎖同士の擦れる金属音が鳴り響く。
そして、鎖同士が交差し、編まれ、城へと繋がる大きな階段が完成した。
テイテイと秋斗が「おおー」と歓声を上げるのを尻目に、来人は剣を引き抜いてそそくさと階段を駆け上がって行く。
「置いてくよー」
二人は顔を見合わせ、それから来人の後を付いていく。
その道中、テイテイと秋斗はこそこそと小声で話す。
「なんか、やっぱり来人ちょっと変わったよな」
「そうだね。雰囲気……波動? が、違うのかな?」
来人の髪色は常に白金色だ。
それに対して、口調は人間状態の時のまま。
そして纏う雰囲気もどこか落ち着いている――まるで悟りでも開いたみたいに、平常そのものだ。
これから命を懸けた戦いに赴くとは思えないほどに穏やかなのだ。
「まあ、なんにせよあいつも無事で良かった」
「うん。三人揃って、戦える。昔みたいにね」
「相手はいじめっ子じゃなくて、世界を滅ぼす魔王だけどな」
そう話をしていれば、長い階段の最後まで来ていた。
頂上で来人が待っている。
駆け足で上がり、合流すれば城門は目と鼻の先。
三人はそれぞれ互いに顔を見合わせたあと――、
――ばん、と一発の銃声。
秋斗が城門に一発の銃弾を放った。
城門は腐り落ち、人の通れる程の大きな穴が開いた。
「行こう」
三人は、城の中へ――。
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