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第三章 原初の破壊編
#125 ゼノ
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――カランカラン。
店の入り口が開き、それを知らせる鈴が鳴る。
「あーい、らっしゃーい」
ワックスで固めた金髪、アロハシャツ。いつもと同じ格好をした坂田ゴールデンはどっしりとレジに前に腰を下ろして、読んでいる文庫本から顔を上げないまま適当な挨拶を投げる。
誰かが入店してくる気配だけを感じて、ゴールデンは耳をそばだてる。
コツコツと暑いブーツが床を叩く音。
(子供じゃないな。でも、体重は軽い――女か)
このゴールデン屋は雑貨屋の様な駄菓子屋の様なよく分からない店。
普段来店するのは近所の子供か、子供でないなら来人の様な成長した昔からの常連くらいだ。
であれば、後者だろう。ゴールデンは客が誰なのか気になり、ちらりと文庫本から顔を上げた。知った顔なら適当にからかってやろうと思ったからだ。
しかし、目に入ったのは知らない女だった。
ふわりと空気を含んだ様に広がるフリルのあしらわれたスカート。ゴスロリチックな、まるでコスプレでもしているみたいな女の子だ。
パーマ掛かった亜麻色の髪も店内の電灯に照らされ艶々と輝いていて、丁寧に手入れされている事が分かる。
本当にどこかの御令嬢だと言われても頷ける装いだ。
そんな目立つ格好をした一見客を、ゴールデンは少し訝しむ。
こんな看板も錆びて怪しい外装の何を売っているかも分からない様な店に、こんな御令嬢が来店する事があるだろうか?
ゴスロリ姿の令嬢は中ほどで一度立ち止まり、店内を一瞥した後、レジの方へを真っすぐと見据える。
そして、小さな握り拳を胸の前に掲げ、その手を広げる。
その手からは小さな植物の種子の様なものがぽとりと落ち、店内のタイル張りの床の上へと落ちる。
そして――、轟音。
「――なッ!?」
ゴールデンはあまりの出来事に動けなかった。
ゴスロリ令嬢の転がした種子はタイル張りの床を突き破り、瞬く間に成長し、巨大な丸太程の大きさの蔦となってゴールデンを襲った。
その勢いに呑まれれば、人間であるゴールデンはいとも容易くぺしゃんこだ。
しかし、そうはならなかった。
「ゼノ、お前――!!」
ゴールデンとゴスロリ令嬢の間に、店の奥で在庫の整理を任されていたはずの少年――ゼノが居た。
ゼノは颯爽と駆けつけ、片手でその蔦を受け止めた。
雇い主を守った少年は平気な様子で、片手で蔦を掴んだまま背後を向く。
「店長、大丈夫?」
その少年の短髪の奥に覗く瞳は純粋にゴールデンを心配するものだ。
「お、おう。しかしこれはまた、どういう事だ……」
「下がってて」
ゴールデンの問いに答えることなく、ゼノはそう言って蔦を掴む手に力を込める。
「――枯れろ」
瞬間、巨大な蔦はゼノの掴んだ手を起点として、茶色く変色し、枯れて行く。
生き物の様に蠢き暴れていた蔦は動きを止め、ぱらぱらと崩れ落ちた。
枯れ蔦の奥で、ゴスロリ令嬢は詰まらなさそうに溜息を吐く。
「――はあ。ライジンの契約者、一撃で仕留めてあげようと思ったのに」
片手でパーマのかかった髪をはらりと撫でる。
ライジン――その名を聞いて、事態を呑み込めず座ったままでいたゴールデンは、手から落とした文庫本を拾い上げて立ち上がる。
「あん? お前、ライジンの知り合いか?」
「さあね」
「YESかNOで答えろよ、まどろっこしいな」
「どちらでもいいじゃないの。あなたはここで死ぬ」
ゴスロリ令嬢は再び拳を握る。
「――させない」
しかし、その拳が開く前にゼノが動く。
脱兎の如く床を蹴ったゼノが、令嬢の華奢な身体を蹴飛ばし、店の外へ吹っ飛ばす。
ふわりとドレスが揺れて、宙を舞う。
ゼノはそのまま、店外へと追って行った。
ぽつんと、店内には坂田ゴールデンが一人残された。
「……はぁ。なんだってんだ、全く――」
床のタイルは剥がれ、山積みされていた陳列棚も崩れ、店の中はぐちゃぐちゃだ。
後始末の事を考えてげんなりしつつも、ゴールデンは文庫本を乱雑にレジ台に放り投げた。
「――臨時休業だ」
アロハシャツを着直し、派手な金髪を掻き上げる。
ゴールデン屋の隣に併設された公園。そこを舞台に、ゼノと令嬢は対峙していた。
「私の仕事は、ただの人間を一人殺して帰る――そういう楽な仕事のはずだったのだけれど。あなたは?」
「……ゼノ。ただ、それだけ」
「ふうん。人間、よね……? まあいいわ――」
目の前の少年を上から下までじろじろと舐める様に見た後、
「――十二波動神が一柱、セレス=シルヴィア。十二の柱の中では一番の若輩者だけれど、許してね」
そう名乗り、拳を握った。
セレスが握り拳を広げれば、先ほどよりも多くの小さな種子が零れ落ちる。
それらは地に触れれば瞬く間に蔦の形を成し、ゼノへと襲い掛かる。
ゼノは仁王立ちのまま、その瞳だけをぎょろりと動かして蔦の軌道を読み、素手で掴み取る。
その掴み触れた端から、またもや蔦は枯れて行く。
「ふぅん。そういう感じなのね……。じゃあ、こうしましょう」
セレスは握り拳を開き、再び種子を落とす。
今度の種子は、漆黒のオーラを纏っていた。そのオーラは――『破壊』。
真っ黒な蔦が生え、ゼノを襲う。
「――無駄」
同じように素手で掴むゼノだったが、しかし――、
「――ッッ!!?」
ゼノの腕は、蔦に触れたと同時に消し飛んだ。
右腕、そして左腕。両腕を捥がれた少年は、その勢いのまま後方へと弾かれる。
「――アーク様の祝福、『破壊』の波動。残念だったわね」
まさに深層の令嬢の如く、落ち着いた様子で地に倒れるゼノを見下ろすセレス。
「……」
ゼノは両腕を捥がれたというのに悲鳴一つ上げる事も無く、痛みに苦悶する事も無く、無表情のまま倒れている。
セレスはそんなゼノにトドメを刺そうと、再び拳を握る。
――その時だった。
店の入り口が開き、それを知らせる鈴が鳴る。
「あーい、らっしゃーい」
ワックスで固めた金髪、アロハシャツ。いつもと同じ格好をした坂田ゴールデンはどっしりとレジに前に腰を下ろして、読んでいる文庫本から顔を上げないまま適当な挨拶を投げる。
誰かが入店してくる気配だけを感じて、ゴールデンは耳をそばだてる。
コツコツと暑いブーツが床を叩く音。
(子供じゃないな。でも、体重は軽い――女か)
このゴールデン屋は雑貨屋の様な駄菓子屋の様なよく分からない店。
普段来店するのは近所の子供か、子供でないなら来人の様な成長した昔からの常連くらいだ。
であれば、後者だろう。ゴールデンは客が誰なのか気になり、ちらりと文庫本から顔を上げた。知った顔なら適当にからかってやろうと思ったからだ。
しかし、目に入ったのは知らない女だった。
ふわりと空気を含んだ様に広がるフリルのあしらわれたスカート。ゴスロリチックな、まるでコスプレでもしているみたいな女の子だ。
パーマ掛かった亜麻色の髪も店内の電灯に照らされ艶々と輝いていて、丁寧に手入れされている事が分かる。
本当にどこかの御令嬢だと言われても頷ける装いだ。
そんな目立つ格好をした一見客を、ゴールデンは少し訝しむ。
こんな看板も錆びて怪しい外装の何を売っているかも分からない様な店に、こんな御令嬢が来店する事があるだろうか?
ゴスロリ姿の令嬢は中ほどで一度立ち止まり、店内を一瞥した後、レジの方へを真っすぐと見据える。
そして、小さな握り拳を胸の前に掲げ、その手を広げる。
その手からは小さな植物の種子の様なものがぽとりと落ち、店内のタイル張りの床の上へと落ちる。
そして――、轟音。
「――なッ!?」
ゴールデンはあまりの出来事に動けなかった。
ゴスロリ令嬢の転がした種子はタイル張りの床を突き破り、瞬く間に成長し、巨大な丸太程の大きさの蔦となってゴールデンを襲った。
その勢いに呑まれれば、人間であるゴールデンはいとも容易くぺしゃんこだ。
しかし、そうはならなかった。
「ゼノ、お前――!!」
ゴールデンとゴスロリ令嬢の間に、店の奥で在庫の整理を任されていたはずの少年――ゼノが居た。
ゼノは颯爽と駆けつけ、片手でその蔦を受け止めた。
雇い主を守った少年は平気な様子で、片手で蔦を掴んだまま背後を向く。
「店長、大丈夫?」
その少年の短髪の奥に覗く瞳は純粋にゴールデンを心配するものだ。
「お、おう。しかしこれはまた、どういう事だ……」
「下がってて」
ゴールデンの問いに答えることなく、ゼノはそう言って蔦を掴む手に力を込める。
「――枯れろ」
瞬間、巨大な蔦はゼノの掴んだ手を起点として、茶色く変色し、枯れて行く。
生き物の様に蠢き暴れていた蔦は動きを止め、ぱらぱらと崩れ落ちた。
枯れ蔦の奥で、ゴスロリ令嬢は詰まらなさそうに溜息を吐く。
「――はあ。ライジンの契約者、一撃で仕留めてあげようと思ったのに」
片手でパーマのかかった髪をはらりと撫でる。
ライジン――その名を聞いて、事態を呑み込めず座ったままでいたゴールデンは、手から落とした文庫本を拾い上げて立ち上がる。
「あん? お前、ライジンの知り合いか?」
「さあね」
「YESかNOで答えろよ、まどろっこしいな」
「どちらでもいいじゃないの。あなたはここで死ぬ」
ゴスロリ令嬢は再び拳を握る。
「――させない」
しかし、その拳が開く前にゼノが動く。
脱兎の如く床を蹴ったゼノが、令嬢の華奢な身体を蹴飛ばし、店の外へ吹っ飛ばす。
ふわりとドレスが揺れて、宙を舞う。
ゼノはそのまま、店外へと追って行った。
ぽつんと、店内には坂田ゴールデンが一人残された。
「……はぁ。なんだってんだ、全く――」
床のタイルは剥がれ、山積みされていた陳列棚も崩れ、店の中はぐちゃぐちゃだ。
後始末の事を考えてげんなりしつつも、ゴールデンは文庫本を乱雑にレジ台に放り投げた。
「――臨時休業だ」
アロハシャツを着直し、派手な金髪を掻き上げる。
ゴールデン屋の隣に併設された公園。そこを舞台に、ゼノと令嬢は対峙していた。
「私の仕事は、ただの人間を一人殺して帰る――そういう楽な仕事のはずだったのだけれど。あなたは?」
「……ゼノ。ただ、それだけ」
「ふうん。人間、よね……? まあいいわ――」
目の前の少年を上から下までじろじろと舐める様に見た後、
「――十二波動神が一柱、セレス=シルヴィア。十二の柱の中では一番の若輩者だけれど、許してね」
そう名乗り、拳を握った。
セレスが握り拳を広げれば、先ほどよりも多くの小さな種子が零れ落ちる。
それらは地に触れれば瞬く間に蔦の形を成し、ゼノへと襲い掛かる。
ゼノは仁王立ちのまま、その瞳だけをぎょろりと動かして蔦の軌道を読み、素手で掴み取る。
その掴み触れた端から、またもや蔦は枯れて行く。
「ふぅん。そういう感じなのね……。じゃあ、こうしましょう」
セレスは握り拳を開き、再び種子を落とす。
今度の種子は、漆黒のオーラを纏っていた。そのオーラは――『破壊』。
真っ黒な蔦が生え、ゼノを襲う。
「――無駄」
同じように素手で掴むゼノだったが、しかし――、
「――ッッ!!?」
ゼノの腕は、蔦に触れたと同時に消し飛んだ。
右腕、そして左腕。両腕を捥がれた少年は、その勢いのまま後方へと弾かれる。
「――アーク様の祝福、『破壊』の波動。残念だったわね」
まさに深層の令嬢の如く、落ち着いた様子で地に倒れるゼノを見下ろすセレス。
「……」
ゼノは両腕を捥がれたというのに悲鳴一つ上げる事も無く、痛みに苦悶する事も無く、無表情のまま倒れている。
セレスはそんなゼノにトドメを刺そうと、再び拳を握る。
――その時だった。
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