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第三章 原初の破壊編
#124 天才の真実
しおりを挟む――メガが背負ったリュックサックから伸ばしたマジックアームで滑らかにタイピングをして、目まぐるしい早さで作業をしいると、宙に映し出された画面の右下に、ピロンと通知音と共にポップアップが表示された。
どうやらメッセージが届いた様だ。
「ギザ、代わ――」
メガはそのポップアップを一瞥した後、そう短く助手へと指示を出そうとする。しかし、その言葉をすぐに引っ込めた。
「いや、良い。時間の無駄だ。作業内容変更だ。作業内容は脳に直接送り込む。何も聞かずに実行しろ」
「え? はい。そうデスか。分かりました」
慣れた動作でメールの文面を要約して読み上げようとしていたギザだったが、メガの言を受けてすぐにその動きを止め、切り返した。
「おい! その辺りの鬼人も使え!」
メガはそう声を上げて、我先にと動き出した。
「メガさん、作業内容は分かりました。でも、珍しくやる気ですね?」
「そうかネ? まあ、難しいゲームを前にすると燃えるものだろう?」
「メガさんにもそういう感情有ったんデスね。ワタシよりも機械みたいな人だと思っていましたよ」
「ボクは精神が機械で、お前は身体が機械で、それは似ていて非なる――って、口じゃなくて手を動かせ」
「はーい」
言葉の内容に反して、どこかメガの口調が柔らかい気がして、ギザは少し頬を緩めつつも指示通りに作業を熟していった。
そして、しばらくして。
「メガさん、指示通りミミたちには水を渡してテントの中に戻ってもらいました」
「オーケー、時間ぴったりだ。来るぞ」
作業内容だけでその意味までを教えてもらっていないギザは不思議そうにしていた。――その時だった。
瞬間、異界全体の空気が揺れる。
それと同時に、空の穴から一人の女が現れ――、
「放て!」
メガの号令と同時に、波動エネルギーを充填したエネルギー砲が放射された。
現れた女は何のアクションをする暇も無く、撃墜された。
どさりと地に落ちた女は、身体に付着した土埃を払いながら立ち上がる。
「わ、わらわは十二波動神が人柱――」
「アテナだろ。良いからかかってこいヨ」
名乗り終わる前に、メガは挑発的にそう被せる。
「不敬な!」
アテナは怒りをあらわに、杖で地を叩く。
すると、地を隆起し数体のゴーレムを産み出した。
「――メガ・キューブ、一斉展開!」
それとほぼ同時に、メガの号令。
地中には幾つものメガ・キューブが埋まっていた。それらを一度に展開。
「――『炎』、『水』、『風』、三つの色を記憶させてある。そして、そのゴーレムは土と岩で出来た泥人形だ。つまり――」
三色の力が、ゴーレムを襲う。
巨兵たちは濡れ、固まり、乾き、それを無限回繰り返し――、
「――風化し、崩れ落ちる。イメージは力だヨ。そうなると思えば、そうなる。結果、それらの事象までの過程をスキップさせてもらった。まあ、愚かな神に理解してもらおうとは思ってはいないがネ」
メガはふてぶてしく、高説を垂れる。
「小癪なッ!!」
次にアテナは剣の雨を降らす。
「ギザ!」
「はい、メガさん!」
メガの一声で、ギザが動く。
小さなキューブを無数に展開し、それらは小さなコイン程度の大きさのシールドを成す。
アテナの降らせた剣はその小さなコインサイズ程度のシールドに丁度阻まれて、ギザたちへと届く事は無かった。
たった一本だけ、地に落ちたに終わる。
「そんな……、有り得ない!! このわらわが――!!」
激昂するアテナは、そのまま拳を振りぬいて殴りかかってくる。
それにはギザも拳で応戦。
『右、左、次はフェイント、左足に蹴りを入れれば軸がブレる――』
メガからの直接脳内に送られる的確な指示が、ギザの身体を動かす。
アテナの全ての打撃は悉く受けられ、いなされ、そして――、
『――そして、軽く小突けば――おっと、丁度先程のナイフが』
ギザがとんとアテナの肩を叩けば、丁度アテナの足元に在った石を踏んだタイミングと重なり、ぐらりとバランスを崩す。
そして、アテナが倒れた先には、先ほど自分が降らせた剣の雨の内、たった一本地に落ちた剣が有った。
その剣は偶々、刃の方を上に向けて刺さっている。
「なッ――!?」
受け身も取れないまま、アテナは自身の剣に肩を貫かれる。
「ぐっ……ならば――」
アテナは周囲の地面を拳で殴り叩き、隆起させ壁を作る。
ギザはすぐさまその壁を掌底打ちで破壊。壁の奥には膝を付いたアテナの姿が見える。
しかし――、
「ギザ、裏だ」
その姿を見せるアテナには目もくれず、そのまま拳を握りこみ、背後に裏拳を叩き込んだ。
その拳は背後に回っていたアテナの顔面に直撃。兜を叩き割り、その身体を吹っ飛ばした。
アテナは地に叩きつけられる。
「何故、わらわの姿が――」
メガはゆっくりと倒れるアテナの元へと歩いて行って、楽し気に口角を吊り上げる。
「――『絶色領域』だヨ。全く、姿を晦ましたと思い込んでそうしている姿は、実に滑稽だったヨ」
周囲にはステルスで存在を隠したメガ・キューブが幾つも浮遊していた。
それらは微弱な電波を発し、辺り一帯に結界の様にフィールドを展開している。
「以前にガイア界で出会ったファントムというガイア族が居た。奴の色は『蜃気楼』――幻覚を見せる能力だった。そして、今これらのキューブはその色を記憶させて、それを元とした元とした『絶色領域』を展開している」
かつてガイア界で見せた『絶色領域』、ファントムの色、メガの手札は潤沢だ。
そして、メガが顎をくいと動かして指示を出せば、それら『絶色領域』を展開しているキューブは範囲を集束して行き、アテナの周囲を取り囲み、拘束した。
「ぐっ……、なんだ、これは……!」
「これまでの戦いで、お前のデータも収集済みだ。ならば、その色たちも『絶色領域』で封じてしまえばいいだけだろう?」
メガは新しい玩具を買ってもらった子供の様に、楽し気に話す。
「お前の色は単一ではない。弱い色を複数重ねて、適時使用する事で相手をかく乱するスタイルだろう? ゴーレムだってあの程度の強度で、剣もナマクラで、幻覚も『蜃気楼』の足元にも及ばない。――まあ、体術はそこそこだったがネ」
メガはマジックアームでアテナの血が付いた剣を拾い上げて、そのまま動くことのできないアテナへと突き刺す。
「ぐああああっ!!」
そのままぐりぐりと傷口を抉りながら、メガは続ける。
「その程度の力なら、一つずつ丁寧に紐解いていけば良いだけだヨ。例え再臨で強化されていようとも、『破壊』の力があろうとも、関係は無い。――全く、それでも苦労はさせられたがネ」
そして、メガは剣に込めていた力を緩めて、小さく呟くように、
「――2768回だヨ」
「は?」
「いいや。こちらの話だ。それよりも、君自身の心配をした方が良いんじゃないかネ?」
「なん、だと……?」
メガは再びにやりと口角を上げる。
「――だって、お前は自分の愚かさ故に、これからボクの玩具として飽きるまで弄ばれるのだからネ」
すると、アテナを拘束していたキューブがぶくぶくと膨張して行き、アテナの身体を呑み込んでいく。
「止めろ……、止めろ! わらわは、わらわは――」
「チェックメイト――なんてネ」
やがて、一つの段ボール箱程の大きさのキューブとなって、ガタンと重量を感じる音を立てて地面に落ちた。
アテナは完全にキューブ内へと閉じ込められ、再起不能となった。
事が終われば、ギザはたったかと小走りでメガの元へと駆けてくる。
「お疲れ様でした、メガさん。なんかタイムアタックみたいというか、攻略サイトを見ながらプレイするゲームみたいでしたね」
「何を寝ぼけた事を言っているんだネ。それよりも、このキューブを片しておいてくれ」
「大丈夫なんですか? これ」
「ああ。それが終わったら少しゆっくりと休むと良い。ボクもそうする」
メガはそれだけ言い残して、自分のテントへと戻って行った。
――今回ボクがこの結果を得るために、“人工色『逆天』”を使用した回数は2768回だ。
例えば紙の上に走らせた鉛筆の線、それは消しゴムで消しても少なからず跡が残る。
そして、もう一度線を引き直そうとすれば、その跡に筆先が嵌り、軌道を取られることが有るだろう。
もちろんそれを理解した上で筆圧をコントロールすればいいだけの話だが、それが出来ないのが愚かなお前たちの悲しい所だネ。
つまりだネ、ボク以外の全ては、『逆天』した時点でボクが観測していた行動を殆どそのまま実行する。
勿論、ボクが行動を変えればそれだけのズレは生じるが、大筋は同じだ。
『逆天』――ボクが自分の命を落とした時点でリセットがかかり、記憶だけがセーブポイントまで返ってくる色。
全ての波動を代償として、“たった一度だけタイムリープが出来る”のだ。
もっとも、貧弱で矮小なボクのこの魂の器では、本来こんな大きな力を使うことは出来ない。
しかし、ボクは自分の魂の器を改造し、拡張した結果、この色を作り上げた。
そして、ボクはその力にわざと穴を作っておいた。
リセットして戻った先の時間軸に存在するボクの魂と身体に、先の未来の記憶だけを移植する。
つまり、“戻った先のボクは波動エネルギーを一切消費していない”。
これは実質的に無限回のリセットが行える、自分で作った穴を自分で突く“バグ技”だ。
ボクはこの『逆天』の存在をガーネにも、ギザにも秘密にしている。
誰も知らない、天才の真実だヨ。
もっとも、この力で大いなる存在までもをコントロールする事は出来ない。
精々今回の様に愚かな者の末路、世界にとっての些末な結果を自分で選び取るくらいだネ。
それでも、ギザはType-GIGAの力で自壊せずに済んだ。ボクはそれでけで充分だヨ。
だから今回の一件――つまり、アークの起こしたこの災厄の行く末までは、ボクには分からない。
分からないし、そもそも干渉できない。何かしら干渉してもそれが結果に影響しない。
悲しいかな、ボクの行動一つ一つは世界に対しての影響力の優先度が低いのだ。
ボクは天才ではあっても、神ではない。
ライトの様に、自分の力で道を切り開く事は出来ない。精々陰ながら助力する程度だ。
――だから、頑張ってくれヨ、ライト。
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