【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
127 / 150
第三章 原初の破壊編

#123 Type-GIGA

しおりを挟む

「ギザ――!!」

 美海が叫ぶ。しかし、倒れ伏すギザは動かない。
 鋼の戦士はその機能を停止さてしまった。

 ギザから引き抜いた血で赤黒く染まった手刀を構え、アテナは続いて美海と奈緒へと再び襲い掛かる。

(やだっ……)


 美海は助けを求めようと、視線をさ迷わせる。
 目の前には奈緒。拳を構えて、自分を守ろうとしてくれている。しかし、駄目だ。時間を僅かに稼げようと、いずれ諸共殺されてしまう。
 アテナのさらに奥には、先ほど手刀で貫かれて地に倒れ伏すギザ。駄目だ。ギザは、もう……。
 視界の端、遠くで我関せずと言ったようにモニターの前に座る犬、メガ。全然駄目だ。助手がやられたとうのに、動こうともしない。その内気づいたら一匹だけ勝手に逃げているかもしれない。

 美海は無力だった。ただの人間である美海には戦う術が無い。
 そして、頼れる相手も居なかった。この場において唯一戦えるギザが敗北した。もはや詰みだ。

 だから、美海はぎゅっと手を握り、この場に居ない相手へと縋った。
 
(来人、たすけてっ……!)

「――チェックメイト、じゃ」

 アテナの手刀が、美海へと――。

 瞬間、美海の握り締めた手の内――左手の薬指に嵌められた指輪が光を放った。
 
 美海の指輪、角度を変えてみれば光り方が変わる、見た事も無い様な不思議な石が嵌められた指輪。
 それはガイア界から持ち帰った“ガイア鉱石”を宝石の代わりとして使った、来人がカンガスの元でバイトした際に作ってきたお手製の指輪だ。
 素人作ながら売り物と遜色無い出来で、あれから美海はいつも身に着けていた。
 
 ガイア鉱石の指輪から放たれた光が、美海と奈緒を包み込む。
 アテナの手刀の先がその光に触れれば、手には焼けるような痛みが走る。
 驚愕と共に、その手刀を退いた。

「なんじゃ、それは――!?」
「なに、これ……?」

 美海も自分意思でやった事ではない。同じく驚きの表情を浮かべた。

「らい、と……? 来人なの?」

 指輪嵌められた石、ガイア鉱石。
 ガイア界、山の大地グロッグウォールの頂上――つまり、最も天に近い場所。
 そこでガイア界の大気中の波動を浴び続けた特別な石だ。
 それに来人の意志が、想いが、王の力が乗って、美海を守った。
 やがて、その光のバリアも薄れて行く。――それでも、指輪が“一瞬の時間を作った”。
 

 ――アナウンス。自動修復、並びにモードチェンジの推奨。実行しますか?

 倒れ伏すギザの脳内に、機械音声が響き渡る。

 ――自動修復、並びにモードチェンジの推奨。実行しますか?

 ――実行しますか? 実行しますか? 実行しますか? 実行しますか?

 ――実行しま――……、

 『――全く、五月蠅いネ』

 機械音声は、メガの通信の声に断ち切られた。

『やむを得ん、強制実行だヨ。起きろ、ギザ――いいや、GIGAギガ
「――イエス……、マス、ター……」

 瞬間。黒と白の鋼が液体金属の様にどろりと、意思を持つかの様に互いに結合して行き、倒れ伏すギザの胴に手刀の一撃で空けられた穴が、まるで逆再生の様に塞がって行く。

 美海へと迫るアテナ。
 その背後で、ふらりと立ち上がる鋼の戦士の姿を、美海は見た。
 そして、次の瞬間美海の視界に入った物。
 それは、掌底打ちの一撃で華美なドレスを引き裂かれ、骨を折られ、その細く長い四肢をあらぬ方向へと曲げ、吹き飛ばされるアテナの姿だった。

「――Type-GIGAタイプ・ギガ・再起動。対象者を守護――トモダチヲ、マモル、デス」

 全身の肌は裂け、黒い鋼のボディが大胆に露わとなっている。
 四肢のあちこちから白い煙と共に熱を発し、その肉体はキリキリと今にも爆発しそうなほどの悲鳴を上げている。
 その姿はもはや人間のそれではなく、機械仕掛けの鋼の戦士。

 鋼の戦士は数多のキューブを駆使して、十二波動神が一柱を蹂躙する。

『――さて、事が終わるまでの間、少し独り言でも話そうか。誰が聞いている訳でも無いが、ボクは元からお喋り、話好きだからネ』

 
 ――かつて遥か遠方の国、その戦地で戦災に遭った少女が居た。――具体的には、地雷を踏み抜いたんだ。
 まあ、普通なら命を繋ぐことなんて不可能だろう。戦地では大した医療設備も揃っていないし、そもそも設備が有ろうとどうなるかという話でも無い。
 でも、その時丁度ボクはその地へと赴いて居てネ。
 
 そうそう。“メガ・ブラック”と“メガ・ホワイト”だ。
 ボクはとある筋からその存在を嗅ぎ付け、いち早く独占する為に動いていたんだ。
 
 丁度そのタイミング、彼女は運が良かった。
 地雷を踏み抜いて一秒も経たない頃、本当に偶然、まさにその瞬間、偶々その二つの希少鉱石を採掘したばかりのボクがそこを通りかかったんだ。
 別に、ボクは命を助けたかたかった訳じゃなかった。でも、丁度そこに実験台が転がっていたから、回収した。それだけだヨ。
 勿論実験は――もとい、手術は成功だ。この天才たるボクが直々に行ったオペレーションだからネ、当然だろう。
 
 ボクは彼女の爆破で消し飛んだ身体の代わりに、採掘してきたばかりの希少な鉱石を惜しみなく使い、新たなボディを作った。
 血も、骨も、肉も、欠損部位の全てを新たに作り直した。
 幸い、脳が生きていて、魂もまだそこに在った。なら簡単だ。
 ボクは全ての英知と財をつぎ込んで、彼女を創った。
 
 目が覚めた彼女に、ボクはこう言った。

『――おはよう、Type-GIGAタイプ・ギガ。今日からそれが君の名前だ』

 彼女はこう答えた。

『ぎ……ざ……?』
『違うヨ。ギガ、君はGIGAだ。“メガ”であるボクをも越える、最高傑作――Type-GIGAタイプ・ギガだ』

 Type-GIGAタイプ・ギガ――ボクの様な戦えないガイア族の落ちこぼれとは違う。メガを越えるギガ、それが彼女に与えた名だ。
 ボクを越える為に創り出した、最高傑作だ。
 
『ぎざ……、ギザ!』
『全く。発音が上手くいかないのか? 幼いからか、それともオペレーションの問題か――いや、それは無いな。まあ、良いだろう』

 幼さからギガという名を上手く認識出来なかった彼女は、結局成長した今でも“ギガ”ではなく“ギザ”と覚えてしまい、それが定着してしまった。
 面倒だったボクは彼女の名をギザと呼ぶ事にした。別に、名前なんて何でも良かったからネ。
 だから、このType-GIGAタイプ・ギガは裏コードだ。彼女の普段抑えている力を解放するための、オーバークロックの為のモードチェンジシステム。

 彼女の血液にもまた、液状の二種類の希少鉱石が流れている。
 それらは波動エネルギーを使って互いに結合し、ボディを自動で修復して行く。
 肉体の出力もまた飛躍的に上昇――最も、それも長くは保たない。
 仮にも人間の器だからネ、やがてオーバーヒートしてしまう。

 ――ま、オーバーヒートするまでの間“サンドバック”の方が保つか、という話では有るがネ。
 おっと、事が終わった様だヨ。


 見れば、二つの人物が倒れていた。
 一つは、十二波動神アテナ。身体の四肢を明後日の方向へ曲げて、ボロ雑巾の様に転がっていた。
 Type-GIGAタイプ・ギガの暴力的な、圧倒的な力によって、蹂躙された後だ。
 ギザの持つキューブの中には来人の波動の記録も含まれている。その王の波動を惜しみなく使い、再臨した十二波動神の『破壊』の力をも圧殺した。

 そして、もう一つ。Type-GIGAタイプ・ギガのオーバークロックを使用したギザの姿。
 全身から黒煙を噴き上げ、ぴくりとも動かないまま倒れている。

 メガはそんなギザの元へと、歩いて寄っていく。

「戦闘時間は――三十三秒といった所か。ふむ、少し超過してしまった様だネ。ギザ、動けるかい?」

 ギザは、答えない。答えられない。
 敵は倒した。しかし、ギザもまたその力を限界まで振り絞った。――結果、相打ち。

「オーバーヒート、か……。全く、無茶をしたネ。それも、お前のお友達の為、かネ」

 ちらり、と美海と奈緒の方を見る。
 腰を抜かしたまま、その場にへたり込んでいる。時折、ギザの名を呟きながら涙を流している様だ。

「ふん。この結果を勝利と呼んで、お前の死を美しいモノとして語り継ぐ事は、容易いだろうネ。でも――」

 すると、メガの身体はふらりと倒れた。

 
 ――でも、この結果を勝利と呼ぶ事を、ボクは許さないヨ。
 折角、ボクが与えた二度目の命だ。ここで捨て身で友人を救った程度で、満足して終わるのか? いや、その程度の価値ではないだろう?
 お前は、もっと幸せになるべきだヨ。

 “もう一回だ”。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...