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第三章 原初の破壊編
#122 VSアテナ
しおりを挟む空の穴より異界へと降り立った十二波動神。
戦兜を被り、そこから足元まで伸びた長い髪、胸元の強調された華美なドレスが特徴的な、身の丈程の長い杖を持った女だ。
「――十二波動神が一柱、神格をアテナ。三代目候補者の契約者を殺しに参った」
彼女はゆっくりと降下し、そして地に降り立つと手に持った杖の先でトンと軽く地を叩いた。
すると、途端に地鳴りと共に地が隆起し、盛り上がった土と岩が寄り集まり、幾数体もの巨大な兵士を形作った。
「これは……、ゴーレム、デスか」
「その様だネ。ギザ、頼んだヨ。相手は美海を狙っている」
「はい」
ギザはそう答えると、地を蹴りゴーレムの元へ。
白衣を翻し、掌底をその巨大な土石の塊へと叩き込む。
「くっ……」
しかし、その一撃は巨体にヒビを入れるに留まる。破壊へは至らない。
ゴーレムはゆっくりと首を動かし、懐に入り込んだギザを見据える。
そして、その大きな腕を振り上げ――、
「ぐああああっ!!」
ギザはゴーレムの腕に一振りを受け、投げ飛ばされる。
すぐさま身を翻し、耐性を立て直す。しかし、既に周囲をゴーレムの群れに囲まれていた。
拳のハンマーが頭上から何度も何度も降り注ぐ。
『ギザ、あと二秒耐えろ。そして、解放だ』
ギザの脳内へと通信が入り、メガからの指示が飛んでくる。
(……いち……、に……)
二秒、その後――解放。
ギザは掌底を地面へと叩きつける。
メガ・ブラックとメガ・ホワイトの二種類の特殊金属で構成されたギザのサイボーグのボディへと蓄積されたダメージが、解き放たれた。
「――『ギザ・バウンド』!!!」
ギザを中心として、大きな爆発が起こった。
周囲に群がっていたゴーレム群はその爆発に巻き込まれ、粉々となる。
爆発と共に巻き起こる土煙。それが晴れれば、そこにはボロボロになりながらも立っているギザの姿が有った。
『良くやった。だけど、次は上だヨ』
「はいっ!」
メガの通信の合図が聞こえるのとほぼ同時に、十二波動神の女アテナは杖を天に掲げる。
すると、天からは幾千もの剣の雨が降り注ぐ。
メガのその先すら見据えたかの様な的確な指示の元、ギザは懐から数個のメガ・キューブを指の間で掴み持ち、宙へ投げて展開。
キューブは内に記憶されていた形状“シールド”を呼び起こし、降り注ぐ剣の雨を防ぐ。
しかし、その全てを防ぎ切れはしない。小さなシールドとシールドの間から刃は抜け落ちて、ギザの衣服と肌を裂く。
「くっ……」
裂けた肌の隙間から、鉄で出来た武骨なサイボーグのボディが顔を見せる。
ダメージを受け、膝を付くギザ。その隙をアテナは逃さなかった。
「――好機」
杖地に突き刺し、その杖を使い棒高跳びの要領でふわりと跳び上がり、地に刺さる剣山の内一本を抜き取る。
そして、狙うは――、
「きゃあっ! やだ!」
アテナは真っすぐと美海の元へと向かっていく。
奈緒が前に立ち塞がるが、いくら武術を収めているといっても、ただの人間の奈緒では再臨した十二波動神相手では歯が立たないだろう。
『ギザ、マズい! 狙いは美海だヨ!』
「わかってます――よっ!!」
ギザは身体に波動エネルギーを全力で巡らせて、奮い立つ。
地を蹴り、美海の元へ。しかし、間に合わない。
美海と奈緒の元へ迫るアテナ。
「ふんっ!!」
奈緒は拳を振るい、応戦。
「美海! 下がって!」
「う、うん……!」
美海はささっと奈緒の後方へと下がる。
「無駄な事」
アテナは剣を振るう。
奈緒はその剣の側面へと滑らせるように拳の甲を打ち付け――砕く。
パリンと甲高い音が異界に響き渡る。
兜の奥で驚くように瞳を大きくするアテナ。奈緒は鋭い視線でそれを睨みつける。
その時、にやりと兜から除くアテナの口元がぐにゃりと歪み、吊り上がった。
奈緒に砕かれた剣をすぐさま投げ捨て、拳を握り締める。
アテナと奈緒、両者の拳が唸る。
「ステゴロの方が、わらわも好みじゃよ」
そう言って、アテナは楽し気に拳を振るう。
「じゃあ、あんな柔い武器なんて使ってないで、最初からそうしてなよ」
奈緒は得意のカンガルースタイルのステップで、アテナの攻撃の悉くを寸での所で回避し、最小限の動作で拳をいなす。
アテナの拳にはアークからの祝福『破壊』の力が乗っている。その直撃を受ければ、奈緒は一瞬で無に帰すだろう。
そんな相手の手の内の詳細を知らない奈緒だったが、その天性の“勝負勘”で相手の攻撃を受けてはならないという事を理解していた。
そして幸運な事に、父から受け継いだこのステップを取り入れたスタイルは、祝福を受け再臨した十二波動神との戦いの上では効果的だった。――正確には、“時間を稼ぐには”効果的だった。
一度、二度、奈緒がアテナの注意を惹き拳を受け流す。たったそれだけの、十秒にも満たない僅かな時間。
その時間が、ギザを間に合わせた。
「でやあああっ!!!」
勇ましい掛け声とともに、ギザは背後から大鎌でアテナに斬りかかる。
すぐさまアテナはそれに反応し、なんとか身を躱し、ドレスと僅かに髪の房を払いとるに留まった。
「小癪な」
「まだまだデスよ!」
今度はその大鎌を一度キューブ状に戻し、手の内に収めて接近。
続けて日本刀の形に変えて斬りかかる。それらをアテナは地に刺さる剣山から抜き取った剣で適時応戦。
そんな幾度の攻防の後、ギザが掌底を打ち込もうとすると――、
「ちっ。邪魔デス――ねっ!!」
地面が隆起し、アテナとギザの間に高い壁が出来上がる。
しかしその壁もギザの掌底の一撃で粉砕。
壁の向こうには直前と同じ様にアテナの姿。防御したと思っていたのか、無防備だ。
「終わりデス!」
これまでのダメージを、一気に解き放つ。
「――『ギザ・バウンド』!!」
強い衝撃が空気を、大地を揺らす。そしてアテナの姿はギザの視界から消滅した。
(いや、おかしい……。手ごたえが、無い……?)
その時だった、メガからの通信が入る。
『――愚か者、後ろだ!』
その声を聞いた時には、既に――、
「がっ……、かはっ……」
ギザの鋼鉄のボディは、背後に回っていたアテナの手刀で豆腐の様に容易く貫かれていた。
肌の下の鉄のボディだけでなく、その奥の人間の部分――赤い血肉までもがドクドクと溢れ出ている。
傷口からは『破壊』の波動がじわりじわりと侵食してきて、ギザのボディを、魂を壊して行く。
『……幻覚だ。全く、油断したな』
メガのそんな溜息交じりの声が、ギザの薄れ行く意識の中、聞こえてきた。
そして、それと重なる様に、機械音声がギザの脳内に流れ込んでくる。
『――アナウンス。自動修復、並びにモードチェンジの推奨。実行しますか?』
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