126 / 150
第三章 原初の破壊編
#122 VSアテナ
しおりを挟む空の穴より異界へと降り立った十二波動神。
戦兜を被り、そこから足元まで伸びた長い髪、胸元の強調された華美なドレスが特徴的な、身の丈程の長い杖を持った女だ。
「――十二波動神が一柱、神格をアテナ。三代目候補者の契約者を殺しに参った」
彼女はゆっくりと降下し、そして地に降り立つと手に持った杖の先でトンと軽く地を叩いた。
すると、途端に地鳴りと共に地が隆起し、盛り上がった土と岩が寄り集まり、幾数体もの巨大な兵士を形作った。
「これは……、ゴーレム、デスか」
「その様だネ。ギザ、頼んだヨ。相手は美海を狙っている」
「はい」
ギザはそう答えると、地を蹴りゴーレムの元へ。
白衣を翻し、掌底をその巨大な土石の塊へと叩き込む。
「くっ……」
しかし、その一撃は巨体にヒビを入れるに留まる。破壊へは至らない。
ゴーレムはゆっくりと首を動かし、懐に入り込んだギザを見据える。
そして、その大きな腕を振り上げ――、
「ぐああああっ!!」
ギザはゴーレムの腕に一振りを受け、投げ飛ばされる。
すぐさま身を翻し、耐性を立て直す。しかし、既に周囲をゴーレムの群れに囲まれていた。
拳のハンマーが頭上から何度も何度も降り注ぐ。
『ギザ、あと二秒耐えろ。そして、解放だ』
ギザの脳内へと通信が入り、メガからの指示が飛んでくる。
(……いち……、に……)
二秒、その後――解放。
ギザは掌底を地面へと叩きつける。
メガ・ブラックとメガ・ホワイトの二種類の特殊金属で構成されたギザのサイボーグのボディへと蓄積されたダメージが、解き放たれた。
「――『ギザ・バウンド』!!!」
ギザを中心として、大きな爆発が起こった。
周囲に群がっていたゴーレム群はその爆発に巻き込まれ、粉々となる。
爆発と共に巻き起こる土煙。それが晴れれば、そこにはボロボロになりながらも立っているギザの姿が有った。
『良くやった。だけど、次は上だヨ』
「はいっ!」
メガの通信の合図が聞こえるのとほぼ同時に、十二波動神の女アテナは杖を天に掲げる。
すると、天からは幾千もの剣の雨が降り注ぐ。
メガのその先すら見据えたかの様な的確な指示の元、ギザは懐から数個のメガ・キューブを指の間で掴み持ち、宙へ投げて展開。
キューブは内に記憶されていた形状“シールド”を呼び起こし、降り注ぐ剣の雨を防ぐ。
しかし、その全てを防ぎ切れはしない。小さなシールドとシールドの間から刃は抜け落ちて、ギザの衣服と肌を裂く。
「くっ……」
裂けた肌の隙間から、鉄で出来た武骨なサイボーグのボディが顔を見せる。
ダメージを受け、膝を付くギザ。その隙をアテナは逃さなかった。
「――好機」
杖地に突き刺し、その杖を使い棒高跳びの要領でふわりと跳び上がり、地に刺さる剣山の内一本を抜き取る。
そして、狙うは――、
「きゃあっ! やだ!」
アテナは真っすぐと美海の元へと向かっていく。
奈緒が前に立ち塞がるが、いくら武術を収めているといっても、ただの人間の奈緒では再臨した十二波動神相手では歯が立たないだろう。
『ギザ、マズい! 狙いは美海だヨ!』
「わかってます――よっ!!」
ギザは身体に波動エネルギーを全力で巡らせて、奮い立つ。
地を蹴り、美海の元へ。しかし、間に合わない。
美海と奈緒の元へ迫るアテナ。
「ふんっ!!」
奈緒は拳を振るい、応戦。
「美海! 下がって!」
「う、うん……!」
美海はささっと奈緒の後方へと下がる。
「無駄な事」
アテナは剣を振るう。
奈緒はその剣の側面へと滑らせるように拳の甲を打ち付け――砕く。
パリンと甲高い音が異界に響き渡る。
兜の奥で驚くように瞳を大きくするアテナ。奈緒は鋭い視線でそれを睨みつける。
その時、にやりと兜から除くアテナの口元がぐにゃりと歪み、吊り上がった。
奈緒に砕かれた剣をすぐさま投げ捨て、拳を握り締める。
アテナと奈緒、両者の拳が唸る。
「ステゴロの方が、わらわも好みじゃよ」
そう言って、アテナは楽し気に拳を振るう。
「じゃあ、あんな柔い武器なんて使ってないで、最初からそうしてなよ」
奈緒は得意のカンガルースタイルのステップで、アテナの攻撃の悉くを寸での所で回避し、最小限の動作で拳をいなす。
アテナの拳にはアークからの祝福『破壊』の力が乗っている。その直撃を受ければ、奈緒は一瞬で無に帰すだろう。
そんな相手の手の内の詳細を知らない奈緒だったが、その天性の“勝負勘”で相手の攻撃を受けてはならないという事を理解していた。
そして幸運な事に、父から受け継いだこのステップを取り入れたスタイルは、祝福を受け再臨した十二波動神との戦いの上では効果的だった。――正確には、“時間を稼ぐには”効果的だった。
一度、二度、奈緒がアテナの注意を惹き拳を受け流す。たったそれだけの、十秒にも満たない僅かな時間。
その時間が、ギザを間に合わせた。
「でやあああっ!!!」
勇ましい掛け声とともに、ギザは背後から大鎌でアテナに斬りかかる。
すぐさまアテナはそれに反応し、なんとか身を躱し、ドレスと僅かに髪の房を払いとるに留まった。
「小癪な」
「まだまだデスよ!」
今度はその大鎌を一度キューブ状に戻し、手の内に収めて接近。
続けて日本刀の形に変えて斬りかかる。それらをアテナは地に刺さる剣山から抜き取った剣で適時応戦。
そんな幾度の攻防の後、ギザが掌底を打ち込もうとすると――、
「ちっ。邪魔デス――ねっ!!」
地面が隆起し、アテナとギザの間に高い壁が出来上がる。
しかしその壁もギザの掌底の一撃で粉砕。
壁の向こうには直前と同じ様にアテナの姿。防御したと思っていたのか、無防備だ。
「終わりデス!」
これまでのダメージを、一気に解き放つ。
「――『ギザ・バウンド』!!」
強い衝撃が空気を、大地を揺らす。そしてアテナの姿はギザの視界から消滅した。
(いや、おかしい……。手ごたえが、無い……?)
その時だった、メガからの通信が入る。
『――愚か者、後ろだ!』
その声を聞いた時には、既に――、
「がっ……、かはっ……」
ギザの鋼鉄のボディは、背後に回っていたアテナの手刀で豆腐の様に容易く貫かれていた。
肌の下の鉄のボディだけでなく、その奥の人間の部分――赤い血肉までもがドクドクと溢れ出ている。
傷口からは『破壊』の波動がじわりじわりと侵食してきて、ギザのボディを、魂を壊して行く。
『……幻覚だ。全く、油断したな』
メガのそんな溜息交じりの声が、ギザの薄れ行く意識の中、聞こえてきた。
そして、それと重なる様に、機械音声がギザの脳内に流れ込んでくる。
『――アナウンス。自動修復、並びにモードチェンジの推奨。実行しますか?』
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。
ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。
少女たちは死地へと赴く。
angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】
白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン!
★第1部はこちら↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083
「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」
幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。
東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。
本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。
容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。
悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。
さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。
自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。
やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。
アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。
そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…?
◇過去最高ランキング
・アルファポリス
男性HOTランキング:10位
・カクヨム
週間ランキング(総合):80位台
週間ランキング(異世界ファンタジー):43位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる