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第三章 原初の破壊編
#121 後方支援組
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異界。ユウリとティルが共に経ってから、少しの時間が経過した頃。
崩界へ繋ぐゲートの第二陣に向けて、メンテナンスと並行してエネルギー充填の作業をしていたガイア族の犬メガと、学生服の上に白衣を纏ったその助手のギザ。
メガが背負ったリュックサックから伸ばしたマジックアームで滑らかにタイピングをして、目まぐるしい早さで作業をしいると、宙に映し出された画面の右下に、ピロンと通知音と共にポップアップが表示された。
どうやらメッセージが届いた様だ。
「ギザ、代わりに」
メガはそのポップアップを一瞥した後、そう短く助手へと指示を出す。
そしてそう言った時には、既にギザは慣れた様にメールの文面を要約して読み上げていた。
メガに送信されたメールは、自動的に助手のギザにも転送される様になっている。いつもの事だ。
「イリスさんからデス。神王補佐アナと停戦し、天界と共闘の形を取る様です。これからこちらへ向かうとの事」
その一報を聞けば、メガは作業の手を止めることなく、それでも大きな溜息を吐く。
「全く。先を読めばすぐに手詰まりになる事くらい、愚かな神々は分からないものかネ」
「仕方がないデスよ。神様には神様のプライドってものがありますから」
「ふぅん。ボクはそんなちっぽけなプライドより、利のある択を取るけれどネ」
そうメガが言うと、ギザはくすくすと笑う。
「メガさんだって、自分の発明にプライドを持っているじゃないデスか。この前だってライバル企業に上位互換出された後、すぐにムキになって――」
「ギザ、口だけじゃなくて手を動かしなヨ」
「はーい」
そんな緊張感の無い呑気な会話をしている二人のメカニックを、後ろで美海は膝を抱えて座りながら眺めていた。
その隣には友人の奈緒も居る。
二人はギザの友人だからという理由で、この非常時であるというのにギザが強引に保護して連れてきたのだ。だから、今は危険が及ばない様にギザは目の見える位置に居てもらっている。
「ねえ、奈緒。あの二人見てると、なんか本当に何でもなくて、みんなでキャンプにでも来てるみたいな気になってくるわね」
「そうだね。特に私なんて、そちらの事情はテイテイから触り程度を聞かされていた程度だから、より現実感が湧かないよ。でも――」
奈緒は周囲に数名だけ残っている鬼人の会の面々を見る。
人型の鬼人が水のペットボトルが入った段ボール箱等の物資を運んでいる。
「彼らを見ると、まあ信じざるを得ないよ」
明らかに人間とは違う異形の姿をした鬼。
鬼人となって人間だった頃に記憶を取り戻した彼らの中にも、大なり小なり差は有る。
それなりに人型の姿をしている者も居れば、動物の様な姿のままの者も居る。
鬼としての戦闘力を残した者も居れば、鬼人となって力を失ってしまった者も居る。
言語まで取り戻した者も居れば、言葉を話せない者も居る。
言葉を話せない者の中にも文字は書ける者も居れば、文字も書けない者も居る。
しかし、鬼人の会は皆一様に、同じ方向を向いている。
『顎』の鬼――秋斗のカリスマによって集められ、まとめられ上げている。
皆一度は死した存在だ。だから、彼らは自分の生の為に動いてはいない。
彼らは生前かつて愛した者たちの為に戦うのだ。愛した者が自分たちと同じ様な目に合わない為に。
そして少しの沈黙の後、
「美海、喉が乾かないか?」
運ばれている水のペットボトルを見たからか、奈緒はそんな事を言い出した。
「うん。ちょっと喉乾いたかも。ていうか――」
と、美海の額にはじっとりと汗が滲んでいた。
奈緒も同様に、まるで砂漠にでも放り出されて肌をじりじりと焼かれたみたいに汗を浮かべている。
「――あっつい! なんでよ!」
美海は堪らず声を上げた。
その声を聞いて、メガは呆れた様に大きな溜息を吐く。
「仕方が無いだろう。ゲートが最初の起動でオーバーヒートしたんだから、多少の熱くらい発するだろうヨ」
「ま、その所為で今作業が難航しているんデスけどねー」
カタカタという小気味の良いタイピング音と共に、そんな二人の声が返ってきた。
奈緒はあははと乾いた笑いを置いて、水を取りに。
メガは「ところで」と続けた。
「ライトはどうだネ?」
「どうって、私に聞いてるの?」
「当たり前だヨ。他にライトの存在を知覚出来る契約者は他に居ないだろう?」
「当たり前って言われても、分かんないわよ」
メガはまたわざとらしく大きなため息を吐く。
その様子を見かねたギザは笑いながら助け舟を出す。
「ミミ、自分の胸に手を当てて、先輩の事をイメージすればいいんデス。二人の間に繋がりが有るのなら、きっと何か感じられるはずデス」
二人の間に繋がりが有るのなら、つまりまだ来人が生きているのなら、分かるはずだ。
美海は言われるがまま、胸に手を当て、目を閉じる。
「……うーん。多分これかなって、気がするけど――」
「けど?」
「多分これ来人だなーっていう感覚が有ったのよ。でもね、何か違うっていうか、少し前まで一緒に居たはずなのに、どこか遠くへ行ってしまったみたいな……上手く言えないけど」
その美海の言葉を聞いて、メガは一瞬作業の手を止めた。
しかしそれもほんの一瞬の事で、すぐにカタカタとタイピング音が戻ってきた。
そのメガの表情は、どこか笑っている様に見えた。
ギザは良くわからなさそうに、「へえ」と相槌をうって、
「目的の崩界は空間座標もとても遠いデスからね。実際、物理的に遠くへ行ったんデスよ。その点で言えば、ちゃんと目的地に辿り着けた可能性は高いと言えますね」
「どちらにせよ、何か感じる物があるという事は、少なくとも生存している事は確かという事だヨ。良かったじゃないか」
そう話していると、水の入ったペットボトルを段ボール箱ごと軽々と抱えた奈緒が戻ってきた。
「お待たせ、美海。はいこれ。あと、タオルも貰って来たよ」
「ありがと」
奈緒は段ボール箱をばりばりと豪快に開けて、美海にペットボトルを一本渡した後、メガとギザの所へも同じようにペットボトルを持って行って傍に置いた。
ギザと奈緒は気の知れた友人同士らしく、「ほい」「ん」と軽いやり取りを交わす。
しかしメガの方は誰相手でもいつもの尊大な態度を崩す事無く、
「蓋を開けておいてもらえると、助かるんだけどネ」
「おっと、それは気が利かずに失礼した。では」
奈緒は不平を垂れる犬に嫌な顔一つせず、キャンプを捻って置き直す。
すると――、
ガクンと、異界全体が揺れる。
置かれたばかりのペットボトルが倒れ、ドクドクと中の水が地べたに水貯まりを作る。
水面が波打ち、波紋が広がる。
異界に居た鬼人たちも「何事だ!?」と警戒を強める。
メガとギザもまた、作業の手を止めた。
「――流石に何事も無く放っておいてくれる訳は無い、か……」
メガがそう呟く。
同時に、ギザも動き出した。
「ナオ! ミミを頼みました!」
「分かった」
ギザはそう言って、白衣をはためかせながら俊敏な動きで飛び出した。
それは既に先ほどまで作業していたメカニックとしてではなく、戦場に立つ戦士としての目となっていた。
奈緒は言われた通りに美海の元へと戻り、庇う様に傍に立つ。
異界の空には、ティルの空けた大きな穴が開いていた。
そこから、空間の振動と同時に一人の女が降り立った。
「――十二波動神!!」
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そしてそう言った時には、既にギザは慣れた様にメールの文面を要約して読み上げていた。
メガに送信されたメールは、自動的に助手のギザにも転送される様になっている。いつもの事だ。
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その一報を聞けば、メガは作業の手を止めることなく、それでも大きな溜息を吐く。
「全く。先を読めばすぐに手詰まりになる事くらい、愚かな神々は分からないものかネ」
「仕方がないデスよ。神様には神様のプライドってものがありますから」
「ふぅん。ボクはそんなちっぽけなプライドより、利のある択を取るけれどネ」
そうメガが言うと、ギザはくすくすと笑う。
「メガさんだって、自分の発明にプライドを持っているじゃないデスか。この前だってライバル企業に上位互換出された後、すぐにムキになって――」
「ギザ、口だけじゃなくて手を動かしなヨ」
「はーい」
そんな緊張感の無い呑気な会話をしている二人のメカニックを、後ろで美海は膝を抱えて座りながら眺めていた。
その隣には友人の奈緒も居る。
二人はギザの友人だからという理由で、この非常時であるというのにギザが強引に保護して連れてきたのだ。だから、今は危険が及ばない様にギザは目の見える位置に居てもらっている。
「ねえ、奈緒。あの二人見てると、なんか本当に何でもなくて、みんなでキャンプにでも来てるみたいな気になってくるわね」
「そうだね。特に私なんて、そちらの事情はテイテイから触り程度を聞かされていた程度だから、より現実感が湧かないよ。でも――」
奈緒は周囲に数名だけ残っている鬼人の会の面々を見る。
人型の鬼人が水のペットボトルが入った段ボール箱等の物資を運んでいる。
「彼らを見ると、まあ信じざるを得ないよ」
明らかに人間とは違う異形の姿をした鬼。
鬼人となって人間だった頃に記憶を取り戻した彼らの中にも、大なり小なり差は有る。
それなりに人型の姿をしている者も居れば、動物の様な姿のままの者も居る。
鬼としての戦闘力を残した者も居れば、鬼人となって力を失ってしまった者も居る。
言語まで取り戻した者も居れば、言葉を話せない者も居る。
言葉を話せない者の中にも文字は書ける者も居れば、文字も書けない者も居る。
しかし、鬼人の会は皆一様に、同じ方向を向いている。
『顎』の鬼――秋斗のカリスマによって集められ、まとめられ上げている。
皆一度は死した存在だ。だから、彼らは自分の生の為に動いてはいない。
彼らは生前かつて愛した者たちの為に戦うのだ。愛した者が自分たちと同じ様な目に合わない為に。
そして少しの沈黙の後、
「美海、喉が乾かないか?」
運ばれている水のペットボトルを見たからか、奈緒はそんな事を言い出した。
「うん。ちょっと喉乾いたかも。ていうか――」
と、美海の額にはじっとりと汗が滲んでいた。
奈緒も同様に、まるで砂漠にでも放り出されて肌をじりじりと焼かれたみたいに汗を浮かべている。
「――あっつい! なんでよ!」
美海は堪らず声を上げた。
その声を聞いて、メガは呆れた様に大きな溜息を吐く。
「仕方が無いだろう。ゲートが最初の起動でオーバーヒートしたんだから、多少の熱くらい発するだろうヨ」
「ま、その所為で今作業が難航しているんデスけどねー」
カタカタという小気味の良いタイピング音と共に、そんな二人の声が返ってきた。
奈緒はあははと乾いた笑いを置いて、水を取りに。
メガは「ところで」と続けた。
「ライトはどうだネ?」
「どうって、私に聞いてるの?」
「当たり前だヨ。他にライトの存在を知覚出来る契約者は他に居ないだろう?」
「当たり前って言われても、分かんないわよ」
メガはまたわざとらしく大きなため息を吐く。
その様子を見かねたギザは笑いながら助け舟を出す。
「ミミ、自分の胸に手を当てて、先輩の事をイメージすればいいんデス。二人の間に繋がりが有るのなら、きっと何か感じられるはずデス」
二人の間に繋がりが有るのなら、つまりまだ来人が生きているのなら、分かるはずだ。
美海は言われるがまま、胸に手を当て、目を閉じる。
「……うーん。多分これかなって、気がするけど――」
「けど?」
「多分これ来人だなーっていう感覚が有ったのよ。でもね、何か違うっていうか、少し前まで一緒に居たはずなのに、どこか遠くへ行ってしまったみたいな……上手く言えないけど」
その美海の言葉を聞いて、メガは一瞬作業の手を止めた。
しかしそれもほんの一瞬の事で、すぐにカタカタとタイピング音が戻ってきた。
そのメガの表情は、どこか笑っている様に見えた。
ギザは良くわからなさそうに、「へえ」と相槌をうって、
「目的の崩界は空間座標もとても遠いデスからね。実際、物理的に遠くへ行ったんデスよ。その点で言えば、ちゃんと目的地に辿り着けた可能性は高いと言えますね」
「どちらにせよ、何か感じる物があるという事は、少なくとも生存している事は確かという事だヨ。良かったじゃないか」
そう話していると、水の入ったペットボトルを段ボール箱ごと軽々と抱えた奈緒が戻ってきた。
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「ありがと」
奈緒は段ボール箱をばりばりと豪快に開けて、美海にペットボトルを一本渡した後、メガとギザの所へも同じようにペットボトルを持って行って傍に置いた。
ギザと奈緒は気の知れた友人同士らしく、「ほい」「ん」と軽いやり取りを交わす。
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