【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
125 / 150
第三章 原初の破壊編

#121 後方支援組

しおりを挟む
 異界。ユウリとティルが共に経ってから、少しの時間が経過した頃。
 崩界へ繋ぐゲートの第二陣に向けて、メンテナンスと並行してエネルギー充填の作業をしていたガイア族の犬メガと、学生服の上に白衣を纏ったその助手のギザ。
 
 メガが背負ったリュックサックから伸ばしたマジックアームで滑らかにタイピングをして、目まぐるしい早さで作業をしいると、宙に映し出された画面の右下に、ピロンと通知音と共にポップアップが表示された。
 どうやらメッセージが届いた様だ。

「ギザ、代わりに」

 メガはそのポップアップを一瞥した後、そう短く助手へと指示を出す。
 そしてそう言った時には、既にギザは慣れた様にメールの文面を要約して読み上げていた。
 メガに送信されたメールは、自動的に助手のギザにも転送される様になっている。いつもの事だ。

「イリスさんからデス。神王補佐アナと停戦し、天界と共闘の形を取る様です。これからこちらへ向かうとの事」

 その一報を聞けば、メガは作業の手を止めることなく、それでも大きな溜息を吐く。

「全く。先を読めばすぐに手詰まりになる事くらい、愚かな神々は分からないものかネ」
「仕方がないデスよ。神様には神様のプライドってものがありますから」
「ふぅん。ボクはそんなちっぽけなプライドより、利のある択を取るけれどネ」

 そうメガが言うと、ギザはくすくすと笑う。

「メガさんだって、自分の発明にプライドを持っているじゃないデスか。この前だってライバル企業に上位互換出された後、すぐにムキになって――」
「ギザ、口だけじゃなくて手を動かしなヨ」
「はーい」
 
 そんな緊張感の無い呑気な会話をしている二人のメカニックを、後ろで美海は膝を抱えて座りながら眺めていた。
 その隣には友人の奈緒も居る。
 二人はギザの友人だからという理由で、この非常時であるというのにギザが強引に保護して連れてきたのだ。だから、今は危険が及ばない様にギザは目の見える位置に居てもらっている。

「ねえ、奈緒。あの二人見てると、なんか本当に何でもなくて、みんなでキャンプにでも来てるみたいな気になってくるわね」
「そうだね。特に私なんて、そちらの事情はテイテイから触り程度を聞かされていた程度だから、より現実感が湧かないよ。でも――」

 奈緒は周囲に数名だけ残っている鬼人の会の面々を見る。
 人型の鬼人が水のペットボトルが入った段ボール箱等の物資を運んでいる。

「彼らを見ると、まあ信じざるを得ないよ」

 明らかに人間とは違う異形の姿をした鬼。
 鬼人となって人間だった頃に記憶を取り戻した彼らの中にも、大なり小なり差は有る。
 
 それなりに人型の姿をしている者も居れば、動物の様な姿のままの者も居る。
 鬼としての戦闘力を残した者も居れば、鬼人となって力を失ってしまった者も居る。
 言語まで取り戻した者も居れば、言葉を話せない者も居る。
 言葉を話せない者の中にも文字は書ける者も居れば、文字も書けない者も居る。

 しかし、鬼人の会は皆一様に、同じ方向を向いている。
 『顎』の鬼――秋斗のカリスマによって集められ、まとめられ上げている。
 皆一度は死した存在だ。だから、彼らは自分の生の為に動いてはいない。
 彼らは生前かつて愛した者たちの為に戦うのだ。愛した者が自分たちと同じ様な目に合わない為に。

 そして少しの沈黙の後、

「美海、喉が乾かないか?」

 運ばれている水のペットボトルを見たからか、奈緒はそんな事を言い出した。
 
「うん。ちょっと喉乾いたかも。ていうか――」

 と、美海の額にはじっとりと汗が滲んでいた。
 奈緒も同様に、まるで砂漠にでも放り出されて肌をじりじりと焼かれたみたいに汗を浮かべている。

「――あっつい! なんでよ!」

 美海は堪らず声を上げた。
 その声を聞いて、メガは呆れた様に大きな溜息を吐く。

「仕方が無いだろう。ゲートが最初の起動でオーバーヒートしたんだから、多少の熱くらい発するだろうヨ」
「ま、その所為で今作業が難航しているんデスけどねー」

 カタカタという小気味の良いタイピング音と共に、そんな二人の声が返ってきた。
 奈緒はあははと乾いた笑いを置いて、水を取りに。
 メガは「ところで」と続けた。

「ライトはどうだネ?」
「どうって、私に聞いてるの?」
「当たり前だヨ。他にライトの存在を知覚出来る契約者は他に居ないだろう?」
「当たり前って言われても、分かんないわよ」

 メガはまたわざとらしく大きなため息を吐く。
 その様子を見かねたギザは笑いながら助け舟を出す。

「ミミ、自分の胸に手を当てて、先輩の事をイメージすればいいんデス。二人の間に繋がりが有るのなら、きっと何か感じられるはずデス」

 二人の間に繋がりが有るのなら、つまりまだ来人が生きているのなら、分かるはずだ。
 美海は言われるがまま、胸に手を当て、目を閉じる。

「……うーん。多分これかなって、気がするけど――」
「けど?」
「多分これ来人だなーっていう感覚が有ったのよ。でもね、何か違うっていうか、少し前まで一緒に居たはずなのに、どこか遠くへ行ってしまったみたいな……上手く言えないけど」
 
 その美海の言葉を聞いて、メガは一瞬作業の手を止めた。
 しかしそれもほんの一瞬の事で、すぐにカタカタとタイピング音が戻ってきた。
 そのメガの表情は、どこか笑っている様に見えた。
 
 ギザは良くわからなさそうに、「へえ」と相槌をうって、

「目的の崩界は空間座標もとても遠いデスからね。実際、物理的に遠くへ行ったんデスよ。その点で言えば、ちゃんと目的地に辿り着けた可能性は高いと言えますね」
「どちらにせよ、何か感じる物があるという事は、少なくとも生存している事は確かという事だヨ。良かったじゃないか」
 
 そう話していると、水の入ったペットボトルを段ボール箱ごと軽々と抱えた奈緒が戻ってきた。

「お待たせ、美海。はいこれ。あと、タオルも貰って来たよ」
「ありがと」

 奈緒は段ボール箱をばりばりと豪快に開けて、美海にペットボトルを一本渡した後、メガとギザの所へも同じようにペットボトルを持って行って傍に置いた。
 ギザと奈緒は気の知れた友人同士らしく、「ほい」「ん」と軽いやり取りを交わす。
 しかしメガの方は誰相手でもいつもの尊大な態度を崩す事無く、

「蓋を開けておいてもらえると、助かるんだけどネ」
「おっと、それは気が利かずに失礼した。では」

 奈緒は不平を垂れる犬に嫌な顔一つせず、キャンプを捻って置き直す。
 すると――、

 ガクンと、異界全体が揺れる。
 置かれたばかりのペットボトルが倒れ、ドクドクと中の水が地べたに水貯まりを作る。
 水面が波打ち、波紋が広がる。
 
 異界に居た鬼人たちも「何事だ!?」と警戒を強める。
 メガとギザもまた、作業の手を止めた。

「――流石に何事も無く放っておいてくれる訳は無い、か……」

 メガがそう呟く。
 同時に、ギザも動き出した。

「ナオ! ミミを頼みました!」
「分かった」

 ギザはそう言って、白衣をはためかせながら俊敏な動きで飛び出した。
 それは既に先ほどまで作業していたメカニックとしてではなく、戦場に立つ戦士としての目となっていた。
 奈緒は言われた通りに美海の元へと戻り、庇う様に傍に立つ。
 
 異界の空には、ティルの空けた大きな穴が開いていた。
 そこから、空間の振動と同時に一人の女が降り立った。

「――十二波動神!!」
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...