124 / 150
第三章 原初の破壊編
#120 崩界
しおりを挟む白い光の道を抜けて、浮遊感から解放される。
テイテイは知らに土地に立ち尽くしていた。
「さて、と……」
周囲を見回す。
モノクロ。まるで時が止まった様に静かな世界。無限に広がる荒野。
そこにはテイテイ一人しか居ない。
テイテイは視界に映し出されたメガ・レンズのインターフェイスに視線をやる。
しかし、そこである重大な問題に気付いた。
どうして今の今まで気づかなかったのだろうかと後悔するも、もう遅い。
「使い方が、わからん……!!」
スマートフォンどころか携帯電話すら持たず、電子機器に疎いテイテイは、メガ・レンズという最新鋭のデバイスに対応出来なかったのだ。
一応一通りレンズを受け取った際にギザが教えてくれたはずだが、一度でマスター出来るほどテイテイは器用では無かった。
もっとも、仮にきちんと使えていたとしても通信が繋がる訳でもない状況だ。すぐに問題が解決する訳ではない。
「ううむ……。しかし、まあ二人とも生きてはいるみたいだ」
テイテイが自分の魂の器に意識を集中させると、絆の三十字で繋がっている二人の存在を感じ取ることが出来た。
秋斗は――、多分少し近くに居る気がする。しかし、来人の存在は遥か遠くに感じられた。
そしてそれと同時に、来人から契約の繋がりで流れてくる波動の雰囲気が少し変わっている事に気が付いた。
「なんだ、これは……」
テイテイは来人から流れてくる波動の渦へと意識の手を伸ばす。
そこへ指の先が触れた瞬間――、
「あっつ!」
燃え上がる程の熱を感じて、すぐにその手を引っ込めた。
テイテイの意識は魂の器から帰ってくる。
「これが、王の力……?」
明らかにこれまでとは質の変わった、来人の波動。
テイテイは直感で理解した。これが王の力、その波動なのだと。
「全く、ただの人間には手に余るな……」
来人から流れて来るこの力に身を任せれば、アークや十二波動神とも渡り合えるだろう。
しかし、テイテイの身が持たないかもしれない。
指の先を触れただけで感じたあの燃えるような感覚――それだけの濃度の波動に、テイテイ自身が呑み込まれないという保証は無い。
人間の器が神の王の力で押し潰されないとは限らないのだ。
しかし、だからと言って今更尻込みする様なテイテイでは無かった。
覚悟を固め、鎖と共に拳を握りしめる。
「まずは二人と合流、だな」
周囲を見回してみてみれば、広がる無の荒野の先に大きな何かが見える。
遠目からでははっきりと全貌は定かではないが、おそらくそれは“城”だ。
真っ黒で大きな城が建っている。
「あそこが本丸か。なら、二人もそこを目指すはずだ」
そう判断して、テイテイは城を目指して歩き出した。
来人と秋斗と合流する為に。
白い光の道を抜け、秋斗が降り立ったのは深い森の中だった。
枯れた大木に囲まれた、死の森の深くに秋斗は放り出されていた。
「ここは――」
秋斗は意識をメガ・レンズのインターフェイスに集中させた。
すると、簡易マップに反応は一つ。
「テイテイ君か。無事みたいで良かった。でも、テイテイ君はちゃんとこれ使えてるかな……」
もう一つの反応を探すが、見つからない。
同時に通信機能も使ってみるが、ノイズの様な異音が聞こえてくるだけで応答は無い。
「来人の反応は無い、か」
秋斗はそう独り言つも、心配はしていなかった。
何故なら互いの魂の器は絆の三十字で繋がっている。意識を集中させれば、来人の反応を感じ取れた。
生きているならば、いずれ合流出来るだろう。来人なら意地でもここへたどり着くはずだと、そう信じていた。
そして、秋斗もここで来人から感じる波動の質が変わっている事に気づく。
「王の、力――」
鬼である秋斗にとって、それは触れても何も感じなかった。
燃えるような熱さも痛みも感じない。そういう感覚が鬼には無かったのだ。
ただ大きな力である事は理解出来、来人自身にこの短時間で何か変化が有ったことも理解出来た。
「全く、来人はいつもすぐに先に行ってしまうな。追いかけるのがどれだけ大変か……」
鬼の面をした今の秋斗の表情は変わらない。
それでも、もし人間だったなら、その顔はきっと笑っていた事だろう。
どんどん大きくなって行く友の背を見て、寂しくも喜ばしい。
一通り状況を把握した後、秋斗はもう一度テイテイの反応に意識を向けた。
「ひとまず、テイテイ君と合流するかな。向こうも僕の場所は分かると思うし、すぐに合流出来るだろう。……多分」
そうして死の森を抜けようと歩き始めた、その時だった。
背後から、がさりと木の枝の揺れる音と、殺気。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。
ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。
少女たちは死地へと赴く。
angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】
白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン!
★第1部はこちら↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083
「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」
幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。
東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。
本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。
容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。
悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。
さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。
自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。
やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。
アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。
そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…?
◇過去最高ランキング
・アルファポリス
男性HOTランキング:10位
・カクヨム
週間ランキング(総合):80位台
週間ランキング(異世界ファンタジー):43位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる