【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

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第三章 原初の破壊編

#120 崩界

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 白い光の道を抜けて、浮遊感から解放される。
 テイテイは知らに土地に立ち尽くしていた。

「さて、と……」

 周囲を見回す。
 モノクロ。まるで時が止まった様に静かな世界。無限に広がる荒野。
 そこにはテイテイ一人しか居ない。

 テイテイは視界に映し出されたメガ・レンズのインターフェイスに視線をやる。
 しかし、そこである重大な問題に気付いた。
 どうして今の今まで気づかなかったのだろうかと後悔するも、もう遅い。

「使い方が、わからん……!!」

 スマートフォンどころか携帯電話すら持たず、電子機器に疎いテイテイは、メガ・レンズという最新鋭のデバイスに対応出来なかったのだ。
 一応一通りレンズを受け取った際にギザが教えてくれたはずだが、一度でマスター出来るほどテイテイは器用では無かった。
 もっとも、仮にきちんと使えていたとしても通信が繋がる訳でもない状況だ。すぐに問題が解決する訳ではない。

「ううむ……。しかし、まあ二人とも生きてはいるみたいだ」

 テイテイが自分の魂の器に意識を集中させると、絆の三十字で繋がっている二人の存在を感じ取ることが出来た。
 秋斗は――、多分少し近くに居る気がする。しかし、来人の存在は遥か遠くに感じられた。
 そしてそれと同時に、来人から契約の繋がりで流れてくる波動の雰囲気が少し変わっている事に気が付いた。

「なんだ、これは……」

 テイテイは来人から流れてくる波動の渦へと意識の手を伸ばす。
 そこへ指の先が触れた瞬間――、

「あっつ!」

 燃え上がる程の熱を感じて、すぐにその手を引っ込めた。
 テイテイの意識は魂の器から帰ってくる。

「これが、王の力……?」

 明らかにこれまでとは質の変わった、来人の波動。
 テイテイは直感で理解した。これが王の力、その波動なのだと。

「全く、ただの人間には手に余るな……」

 来人から流れて来るこの力に身を任せれば、アークや十二波動神とも渡り合えるだろう。
 しかし、テイテイの身が持たないかもしれない。
 
 指の先を触れただけで感じたあの燃えるような感覚――それだけの濃度の波動に、テイテイ自身が呑み込まれないという保証は無い。
 人間の器が神の王の力で押し潰されないとは限らないのだ。

 しかし、だからと言って今更尻込みする様なテイテイでは無かった。
 覚悟を固め、鎖と共に拳を握りしめる。

「まずは二人と合流、だな」

 周囲を見回してみてみれば、広がる無の荒野の先に大きな何かが見える。
 遠目からでははっきりと全貌は定かではないが、おそらくそれは“城”だ。
 真っ黒で大きな城が建っている。

「あそこが本丸か。なら、二人もそこを目指すはずだ」

 そう判断して、テイテイは城を目指して歩き出した。
 来人と秋斗と合流する為に。


 白い光の道を抜け、秋斗が降り立ったのは深い森の中だった。
 枯れた大木に囲まれた、死の森の深くに秋斗は放り出されていた。

「ここは――」

 秋斗は意識をメガ・レンズのインターフェイスに集中させた。
 すると、簡易マップに反応は一つ。

「テイテイ君か。無事みたいで良かった。でも、テイテイ君はちゃんとこれ使えてるかな……」

 もう一つの反応を探すが、見つからない。
 同時に通信機能も使ってみるが、ノイズの様な異音が聞こえてくるだけで応答は無い。

「来人の反応は無い、か」

 秋斗はそう独り言つも、心配はしていなかった。
 何故なら互いの魂の器は絆の三十字で繋がっている。意識を集中させれば、来人の反応を感じ取れた。
 生きているならば、いずれ合流出来るだろう。来人なら意地でもここへたどり着くはずだと、そう信じていた。
 そして、秋斗もここで来人から感じる波動の質が変わっている事に気づく。
 
「王の、力――」

 鬼である秋斗にとって、それは触れても何も感じなかった。
 燃えるような熱さも痛みも感じない。そういう感覚が鬼には無かったのだ。
 ただ大きな力である事は理解出来、来人自身にこの短時間で何か変化が有ったことも理解出来た。

「全く、来人はいつもすぐに先に行ってしまうな。追いかけるのがどれだけ大変か……」

 鬼の面をした今の秋斗の表情は変わらない。
 それでも、もし人間だったなら、その顔はきっと笑っていた事だろう。
 どんどん大きくなって行く友の背を見て、寂しくも喜ばしい。

 一通り状況を把握した後、秋斗はもう一度テイテイの反応に意識を向けた。

「ひとまず、テイテイ君と合流するかな。向こうも僕の場所は分かると思うし、すぐに合流出来るだろう。……多分」

 そうして死の森を抜けようと歩き始めた、その時だった。
 背後から、がさりと木の枝の揺れる音と、殺気。
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