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第三章 原初の破壊編
#115 新たな一歩
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ユウリがティルを伴って聖域へと消えてから、そして来人たちが崩壊へと発ってから十分程が経過していた。
ユウリの産み出した『結晶』の壁の向こうには誰も居ない。異界には静寂が訪れていた。
ティルが居なくなったのを見るや、メガはすぐに作業に戻っていて、ギザもそれを手伝っている。
異界に穴を空けて乗り込んで来たティルと、それに応戦するユウリ。
そんな事件が起きたばかりどころか、その戦いの最中であろうと言うのに、まるで何事も無かったかのようにカタカタとキーボードの打鍵音を響かせ始めた二人を見て、美海はぽかんと口を開けていた。
「ねえ……。大丈夫かな、ユウリさん」
不安気に美海がそう問えば、メガとギザは作業の手を止める事無く、口だけを動かして答える。
「大丈夫デスよ。というか、大丈夫じゃない場合ワタシたちは終わりなので、大丈夫だという前提で動くしかないのデス」
「そういう事だネ。今ボクらがやるべき事は、ユウリがティルを倒し、そして地球に降臨した十二波動神の全てをガーネたちが倒してくれるという前提の元、その後を見据えてのバックアップの準備をする事だヨ」
「うん……。そうね」
そうしていると、突如大きなガラスの割れる様な音。
「何っ!?」
美海も驚いて声を上げる。
音の方を見れば、ユウリの『結晶』の壁が粉々に砕け散っていた。欠片が粒子となって光を乱反射しながらぱらぱらと宙を舞い降り注ぐ。
これには流石のメガたちも一度作業の手を止めて、顔を上げた。
そして、その舞い散る結晶の粒子の奥に、光と共に人影が現れた。
光が溶ければ、やがてその姿が露わとなる。
一瞬周囲で警戒態勢を取っていた鬼人たちが構えを取るが、状況を見てすぐにその手を降ろした。
そこには地に腰を下ろすユウリと、横たわるティル、そして傍に寄りそうダンデの姿が有った。
辺りの様子が変わった事に気付いたティルは、身体を起こして立ち上がる。
「もう、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。私は行く」
ティルが歩き出そうとすれば、ユウリも立ち上がる。
「では、わたしもお供しますよ」
「しかし――」
「大丈夫です。ティルさんの邪魔はしません。ただ傍で、見守っていますから」
難色を示すティルだったが、ユウリがそう言うのならば是非も無かった。
「ダンデ」
「はい。参りましょう」
と、すぐさま異界を発とうとする。
その足を止めたのは、メガの声だった。
「待つネ」
「……何だ。というか、誰だ」
ティルの誰かという問いをメガは無視して、言葉を続ける。
「ボクだけなら大体状況を推察する事は出来るが、皆はお前の口から聞く必要が有るだろうヨ。――お前は、ユウリを連れてどこへ、何をしに行く気だネ?」
メガたち地球連合軍とは敵対関係にあった天界の使者ティル。
その来人の前に立ち塞がろうとしていたティルが、今度は急にユウリを連れてどこかへ行こうとするのだ。
ティルは答える。
「ゼウスを討つ。それだけだ」
そう言って、とんと軽く地を蹴って飛翔。
ダンデとユウリを伴って天に空く異界の穴へと消えて行った。
最後にユウリはちらりと後ろを振り返って、美海たちの方へと手を振って見せた。
「何だったの……?」
ぼうっと、半ば反射的に手だけを振り返しつつ美海はそう溢す。
「つまり、ユウリがあの堅物の王子様を懐柔したって事だネ。良かったじゃないか、駒が増えたヨ」
「もう、メガってばそうやってわざわざ嫌な言い方しなくたって」
「わんわん」
面倒になったのか、メガはいつものようにおざなりな犬の真似をして美海の言葉を流し、作業へと戻って行った――。
――真っ黒に焼け焦げ、灰燼と化した広がる廃墟。
数分前までそこに在ったはずの人の営みの面影は、もはや影も形も残されてはいない。
人も、建物も、街を構成していたその全てが真っ黒な『極光』によって焼き尽くされ、消えてしまったのだ。
人々の温かい生活も、希望も、未来も、そんな全てを絶望という名の“黒”が呑み込んでしまった。
そこには瓦礫の残骸を踏みしめて、一人の老人が立ち尽くしていた。
まるで何の感慨も、感情も無いかの様に、その惨状をただ無表情でぼうっと眺めている。
その老人の背後に、誰かの気配。それは一つでは無かった。
瓦礫を踏みしめる音に、老人は振り返る。
そこに居たのは白金色の髪をした若い青年と、黒のロングヘアの眼鏡をかけた女性、そして一匹のライオンだった。
純血の王子ティルと、その相棒のガイア族ダンデ。そして、家庭教師のユウリの姿だった。
ユウリはそっとティルの背を叩き、そのまま後ろへと下がって行く。
ダンデはティルの傍へと寄る。しかし、ティルは首を横に振った。
「ダンデ、お前はユウリとそこで見ていろ」
「しかし! 自分はティル様の契約者です。是非、共に――」
「いいや。何もお前の力が不要だと言っている訳では無い。ただ、これは私が私として、新たな一歩を踏み出す為の戦いだ。だから、私一人の力で成したいと、そう思うのだ」
そう言って、ティルは真っ直ぐとダンデの瞳を見据える。迷いは無く、澄んでいる。
これまで、ダンデは主人のそんな姿を、そんな目を見た事は無かっただろう。
「……わかり、ました。ご武運を」
ダンデは自分の気持ちを抑え、そう言ってユウリの元へと下がって行った。
ティルは単身、ゼウスの前に立つ。すると、ゼウスは口を開いた。
「――ティル、か」
「はい。お師匠様」
「何をしに、ここへ来た」
「あなたを、倒す――いえ、殺しに」
そうティルが答えると、ゼウスはしゃがれた低い声で笑う。
「馬鹿をいうな。ソルが私に殺されたのを、お前も見ていただろう。全く、あの程度の男を弟子に取り、娘をくれてやったのかと思うと、頭が痛くなる――」
ゼウスは鋭い眼光でティルを睨みつける。
ティルは真っ直ぐとゼウスと視線をぶつかり合わせ、一歩も引かない。
「――お前では、相手にならん」
「だとしても――!!」
ティルは弓を構え、『光』の矢を生成。弦を引き絞る。
ゼウスは片手だけを前へと突き出し、構えを取る。
師匠と弟子であり、祖父と孫。
二人の戦いの火蓋が切って落とされた。
ユウリの産み出した『結晶』の壁の向こうには誰も居ない。異界には静寂が訪れていた。
ティルが居なくなったのを見るや、メガはすぐに作業に戻っていて、ギザもそれを手伝っている。
異界に穴を空けて乗り込んで来たティルと、それに応戦するユウリ。
そんな事件が起きたばかりどころか、その戦いの最中であろうと言うのに、まるで何事も無かったかのようにカタカタとキーボードの打鍵音を響かせ始めた二人を見て、美海はぽかんと口を開けていた。
「ねえ……。大丈夫かな、ユウリさん」
不安気に美海がそう問えば、メガとギザは作業の手を止める事無く、口だけを動かして答える。
「大丈夫デスよ。というか、大丈夫じゃない場合ワタシたちは終わりなので、大丈夫だという前提で動くしかないのデス」
「そういう事だネ。今ボクらがやるべき事は、ユウリがティルを倒し、そして地球に降臨した十二波動神の全てをガーネたちが倒してくれるという前提の元、その後を見据えてのバックアップの準備をする事だヨ」
「うん……。そうね」
そうしていると、突如大きなガラスの割れる様な音。
「何っ!?」
美海も驚いて声を上げる。
音の方を見れば、ユウリの『結晶』の壁が粉々に砕け散っていた。欠片が粒子となって光を乱反射しながらぱらぱらと宙を舞い降り注ぐ。
これには流石のメガたちも一度作業の手を止めて、顔を上げた。
そして、その舞い散る結晶の粒子の奥に、光と共に人影が現れた。
光が溶ければ、やがてその姿が露わとなる。
一瞬周囲で警戒態勢を取っていた鬼人たちが構えを取るが、状況を見てすぐにその手を降ろした。
そこには地に腰を下ろすユウリと、横たわるティル、そして傍に寄りそうダンデの姿が有った。
辺りの様子が変わった事に気付いたティルは、身体を起こして立ち上がる。
「もう、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。私は行く」
ティルが歩き出そうとすれば、ユウリも立ち上がる。
「では、わたしもお供しますよ」
「しかし――」
「大丈夫です。ティルさんの邪魔はしません。ただ傍で、見守っていますから」
難色を示すティルだったが、ユウリがそう言うのならば是非も無かった。
「ダンデ」
「はい。参りましょう」
と、すぐさま異界を発とうとする。
その足を止めたのは、メガの声だった。
「待つネ」
「……何だ。というか、誰だ」
ティルの誰かという問いをメガは無視して、言葉を続ける。
「ボクだけなら大体状況を推察する事は出来るが、皆はお前の口から聞く必要が有るだろうヨ。――お前は、ユウリを連れてどこへ、何をしに行く気だネ?」
メガたち地球連合軍とは敵対関係にあった天界の使者ティル。
その来人の前に立ち塞がろうとしていたティルが、今度は急にユウリを連れてどこかへ行こうとするのだ。
ティルは答える。
「ゼウスを討つ。それだけだ」
そう言って、とんと軽く地を蹴って飛翔。
ダンデとユウリを伴って天に空く異界の穴へと消えて行った。
最後にユウリはちらりと後ろを振り返って、美海たちの方へと手を振って見せた。
「何だったの……?」
ぼうっと、半ば反射的に手だけを振り返しつつ美海はそう溢す。
「つまり、ユウリがあの堅物の王子様を懐柔したって事だネ。良かったじゃないか、駒が増えたヨ」
「もう、メガってばそうやってわざわざ嫌な言い方しなくたって」
「わんわん」
面倒になったのか、メガはいつものようにおざなりな犬の真似をして美海の言葉を流し、作業へと戻って行った――。
――真っ黒に焼け焦げ、灰燼と化した広がる廃墟。
数分前までそこに在ったはずの人の営みの面影は、もはや影も形も残されてはいない。
人も、建物も、街を構成していたその全てが真っ黒な『極光』によって焼き尽くされ、消えてしまったのだ。
人々の温かい生活も、希望も、未来も、そんな全てを絶望という名の“黒”が呑み込んでしまった。
そこには瓦礫の残骸を踏みしめて、一人の老人が立ち尽くしていた。
まるで何の感慨も、感情も無いかの様に、その惨状をただ無表情でぼうっと眺めている。
その老人の背後に、誰かの気配。それは一つでは無かった。
瓦礫を踏みしめる音に、老人は振り返る。
そこに居たのは白金色の髪をした若い青年と、黒のロングヘアの眼鏡をかけた女性、そして一匹のライオンだった。
純血の王子ティルと、その相棒のガイア族ダンデ。そして、家庭教師のユウリの姿だった。
ユウリはそっとティルの背を叩き、そのまま後ろへと下がって行く。
ダンデはティルの傍へと寄る。しかし、ティルは首を横に振った。
「ダンデ、お前はユウリとそこで見ていろ」
「しかし! 自分はティル様の契約者です。是非、共に――」
「いいや。何もお前の力が不要だと言っている訳では無い。ただ、これは私が私として、新たな一歩を踏み出す為の戦いだ。だから、私一人の力で成したいと、そう思うのだ」
そう言って、ティルは真っ直ぐとダンデの瞳を見据える。迷いは無く、澄んでいる。
これまで、ダンデは主人のそんな姿を、そんな目を見た事は無かっただろう。
「……わかり、ました。ご武運を」
ダンデは自分の気持ちを抑え、そう言ってユウリの元へと下がって行った。
ティルは単身、ゼウスの前に立つ。すると、ゼウスは口を開いた。
「――ティル、か」
「はい。お師匠様」
「何をしに、ここへ来た」
「あなたを、倒す――いえ、殺しに」
そうティルが答えると、ゼウスはしゃがれた低い声で笑う。
「馬鹿をいうな。ソルが私に殺されたのを、お前も見ていただろう。全く、あの程度の男を弟子に取り、娘をくれてやったのかと思うと、頭が痛くなる――」
ゼウスは鋭い眼光でティルを睨みつける。
ティルは真っ直ぐとゼウスと視線をぶつかり合わせ、一歩も引かない。
「――お前では、相手にならん」
「だとしても――!!」
ティルは弓を構え、『光』の矢を生成。弦を引き絞る。
ゼウスは片手だけを前へと突き出し、構えを取る。
師匠と弟子であり、祖父と孫。
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