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第三章 原初の破壊編

#113 究極の『岩』と『氷』

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「な……何を言ってるんですか! そんなの――」
「いいや、お前なら出来る! お前はらいたんの“盾”だネ! 絶対無敵の防御だネ!」

 ガーネは真っ直ぐとジューゴの瞳を見る。

「ネたちにはらいたんの力が有るネ。イメージするネ、お前の『岩』の究極を――」

 その間にも、ポセイドンの練り上げる漆黒の水球は大きくなって行く。
 ジューゴはごくりと生唾を呑み込み、覚悟を決める。――いや、決めるしかなかった。

「先輩! 後は任せましたよ!」
「おうよ! 信じてるぜ、後輩!」

 ――その時だった。
 ポセイドンの漆黒の水球が、放たれる。

「終わりだ――全て、壊れてしまえ!!!」

 ガーネはただその場で佇み、刀へと全神経を集中させる。
 ジューゴは宙を舞い、ポセイドンの水球へと真っ直ぐと突っ込んで行く。

「馬鹿め! それは練り上げた『破壊』の波動の塊だ! 触れただけで終わりだ!!」

 ジューゴの身体が光り輝く。そして、ジューゴと水球が衝突。

 一瞬、天に龍が――いや、その大蛇の様な姿は――リヴァイアサン。一瞬天に浮かび上がったリヴァイアサンのシルエット。
 同時に、ポセイドンの放った漆黒の水球は消え去った。
 
 一瞬現れたリヴァイアサンはすぐに、まるで脱皮した蛇の様に、その全身にヒビが入り、砕け散って行く。
 その表皮は『岩』――いや、武骨で味気の無い岩では無かった。
 光を反射し、透き通る美しい鉱石――その様はまるで『金剛石ダイヤモンド』の様。

 塵行くリヴァイアサンの中から、輝く『金剛石ダイヤモンド』の鎧を纏ったジューゴがゆっくりと降りて来る。
 全くの無傷で、そこに居る。

「僕のスキルは『岩』。流れゆく『水』ではなく、不動の『岩』なのです」

 ジューゴは海に浮かぶ氷の足場へと降り立つ。

「僕は鉄壁の、絶対無敵の王様の盾――そのイメージは『金剛石ダイヤモンド』! 最も硬く、固く、堅い、最強の防御なのです!!」

 それが、ジューゴの色。『岩』の究極。
 イメージを変化させ、転換させ、昇華した。

「なん……だと……」

 ポセイドンは驚きのあまり、一歩後退りする。
 最強のはずの、原初の三柱アークの『破壊』の波動。それは触れたもの全てを消し去るはずだ。
 しかし目の前に居る一匹のガイア族は、その波動の塊を正面から受け、防ぎ切り、そして無傷で立っているのだ。
 あり得ないはずの現実に、ポセイドンは恐怖を覚え、肝が冷えた。

 ジューゴたち契約者には来人との繋がりがある。王の波動が分け与えられている。
 その王の力と鉄壁の『金剛石ダイヤモンド』のイメージが掛け合わされる事によって、ポセイドンという偽物の『破壊』の波動はたった一つの傷すら与える事無く、防ぎ切られたのだ。

「僕の故郷は海でした。だから、見てきた岩はどれも武骨で味気の無い、普通の岩や石ばかり。僕のスキルもそれと一緒で、綺麗でも格好良くも無い。
 でも、先輩の氷は、とても透き通っていて、美しい、まるで『金剛石ダイヤモンド』みたいに――」

 それが、『岩』の究極。ジューゴの色。イメージ。憧れの象徴。
 水の大地という狭い胃の中に居ては知る事の出来なかった、新たな世界。
 大海へと出て、ジューゴは一段高みへと辿り着いた。
 
「もう、弱くて泣き虫なジューゴじゃない! 僕は王様の盾! 全部、守るんだ!!」
 
 ジューゴはヒレを刃として振るう。

「――ジューゴカッター!!」

 『岩』の――いや、『金剛石ダイヤモンド』の礫が放たる。
 防御しようと手を掲げ水流の盾を作るが、それらは豆腐の様に脆く、いとも容易く礫に穿たれ、それらはポセイドンへと突き刺さる。
 
「かはっ……」
 
 ポセイドンは口から赤黒い血を吐き出す。
 しかし、まだ立っている。

「先輩!」

 ジューゴの声に、ガーネは応える。

「お待たせだネ!」

 ガーネが刀を振るう。――瞬間、世界は静止した。
 
 ジューゴも、ポセイドンも、動かない。波打つ海も彫刻の様に固まって動かない。
 異形の水生生物も、鬼人たちも、戦いの最中が切り取られた一枚の絵画の様。

「よっと」

 ガーネは氷の大地を足場を飛び移りながら、ポセイドンの元へと近づいて行く。

「ジューゴの『岩」の究極『金剛石ダイヤモンド』――良いイメージだネ。ネの『氷』にインスピレーションを受けたという所が、なんとも可愛いネ」

 ガーネはポセイドンのすぐ傍までやって来た。
 しかしそれでも、ポセイドンは身動ぎ一つしない。出来ない。
 
「神の力は想像の創造。イメージさえ出来れば、何だって出来るネ。じゃあ、ネの『氷』の究極とは何か――」

 刀をポセイドンの胸の中心へと突き立てる。

「――『氷』、つまり凍結、凍らせて、動きを止める、停止のイメージだネ。名付けるなら――“時空剣”」

 ガーネは、“時を凍らせた”。
 
 次の瞬間、凍り付いていた時はゆっくりと溶け、動き出す。

 刀はポセイドンの胸へと深く突き刺さり、“死”のイメージを刻みつける。

「ぐはっ……、が、ぐ……」

 ガーネが刀を引き抜いて飛び退けば、ポセイドンは膝を付き悶え苦しむ。
 身体から漆黒の波動を噴出させ、自信の治癒を試みる。
 しかし契約者であるガーネとジューゴの攻撃には来人の王の波動を帯びている。アークの波動による再生も出来ない。
 刀の刺し傷と礫の与えた裂傷が、ポセイドンの身体を蝕む。

「まだ、まだだ……」

 ポセイドンは自身の身を漆黒の波動で埋め尽くして行く。

「先輩、あれは――」
「まさか、再臨!?」

 もう一度、自信を破壊し、そして再構築する。何度でも、何度でも――。
 しかし、

「―――――ッッ!!!!」

 突如、ポセイドンは声にならない声を上げる。
 そして、その場へと倒れ込んだ。

「なんだ……?」

 ガーネたちは事態が理解出来ず、しばらく呆然とそれを眺めていた。
 ポセイドンは、真っ黒に染まった後、動かなくなった。
 同時に、暴れていた水生生物の群れも動きを止める。
 そして、それらの身体は炭のようにボロボロと崩れ落ち、風に舞って海の藻屑と消えて行った。

「どういう事、なのでしょう?」
「――きっと、アークの波動に耐え切れなかったんだネ。“再臨”なんて、魂の再構築だなんて、そう何度も耐えられる訳が無かったんだネ」

 原初の三柱の強すぎる、色濃過ぎる波動にそう何度も耐えられるはずが無かった。
 その“黒”に呑まれ、ポセイドンという存在は塗り潰された。ポセイドンは『破壊』された。

 ガーネはジューゴの傍へと戻り、

「ジューゴ、まだやれるかネ?」
「ええと……はい、まだ全然――」

 と、そう言いかけたジューゴだったが、ふらりと倒れ込む。
 ガーネは自分の背でそれを受け止めた。

「おっと」
「うう……。ごめんなさい、ガス欠なのです」
「まあ仕方ないネ。お前はよくやったネ」

 この地の脅威は去ったが、まだ戦っている場所もある。援軍に向かうべきだろう。
 そして地球の全てが終われば、来人の元へと駆け付けたいという気持ちも有った。
 しかし、ジューゴは初めての『金剛石ダイヤモンド』のスキルを使ってガス欠状態、しばらくは戦えない。
 ガーネだって、平気なように振るまってはいるが、時空剣という大技で殆ど力を使い果たしていた。
 付け焼刃の慣れない戦いに、二人共へとへとだ。

 ガーネはジューゴを背負ったまま、歩いて陸へと戻って行った。
 少し休もう。そして、また飛んで行こう。仲間たちの元へ。
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