【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
113 / 150
第三章 原初の破壊編

#109 純血の王子、再び

しおりを挟む
 来人たちはゲートを潜って行った。
 そして『結晶』の壁を隔てた向こう側、そこにはティルとユウリが対峙していた。

「――簡単に行かせてくれるんですね。追いかけなくても、いいんですか?」

 ユウリは余裕たっぷりにそう言って、穏やかに微笑む。

「お前がただ者ではない事は理解している。ここで捨て置いて奴らを追う事は不可能だと判断したまでだ」

 ティルは固い表情のまま、警戒を緩めない。
 それはユウリの戦いぶりを天界で見ていた故の事。
 ユウリ自身は自分を“末端”と評するが、そんな言葉信じられない程のパフォーマンスを見せた。
 自分の相手に相応しい強敵として、ティルは定めたのだ。

「お褒め頂き光栄です、王子様。それでは、わたしを倒して来人君を追う、という訳ですね」
「そのつもりだ。それが私の仕事だ」
「仕事、ですか……。それが、あなたのやりたい事ですか?」
 
 ティルは心底言っている意味が分からない様に、

「やりたい事? 違う、やるべき事だ」
「いいえ。あなたもまた王と成ろうとするのなら、“欲”が有るはずですよ。今あなたが成したい事が、わたしは知りたいです」

 ユウリはそう言った後、ティルの答えが返ってこないのを見るが否や、『結晶』の双剣を作り出し構えた。
 戦闘体勢だ。

「――それでは、少しお勉強をしましょうか、ティルさん。家庭教師ユウリ先生、久しぶりの授業の時間です。でも、異界ここでは他の皆さんに迷惑が掛かってしまいます。なので――」

 ユウリは片手の剣を天へと掲げる。
 そして――、
 
「――『聖域サンクチュアリ』」

 その一言を境に、世界は一変した。
 
「ティル様!!」

 相棒のダンデの声。
 しかし、その声はもう届かない。
 
 
 周囲の景色が変わり、現れたのは天を突く程の大樹の森だった。
 ひんやりとした空気感が、ユウリとティルを包み込む。

 静か。とても静かだ。
 『結晶』の壁の向こう側から聞こえて来ていた喧騒もどこへやら――いや、『結晶』の壁すらもはやこの場には存在していなかった。
 地を踏みしめる靴裏と砂利の鳴らす音だけでも、うるさく聞こえて来る程に静かな大樹の森だ。
 大樹の幹は不自然に窪んでいて、その窪みには無数の本が所狭しと並べられていた。
 天然の本棚。森の書庫。そんな表現が適切だろうか。

 ティルは周囲を見回すが、共に在った相棒の姿は無い。

「これは……。まるで“異界”の発生の様だ。ユウリと言ったな、お前は何者だ」

 周囲の景色が一変するという現象、ティルにはそれが鬼の上位個体が使う異界の発生と同じ様に見えた。
 そしてそれは当たらずとも遠からずだ。
 ユウリは不敵に微笑み、答える。

「流石、鋭いですね。“器の世界”はご存じでしょう? そうです、ここはわたしの器の世界です」
「お前の世界だと……? しかし、そんな事――」
「あり得ない、ですか? どうしてそう言い切れるのでしょうか。神と契約した者は器の世界同士に繋がりが産まれると聞きます。鬼は自身の核に残る記憶の残滓から心象世界を作り上げ、異界を産み出し世界を染め上げます。それと同じ事です。あなたはわたしの世界フィールドへと、わたしにとっての聖域サンクチュアリへと迷い込んだのですよ」
「――ふん。二対一は不利と判断して、私とダンデを断絶したか」
 
 ユウリは答える代わりにふっと笑い、剣を振るう。
 それに呼応して木々の隙間から『結晶』の弾丸がティルへと降り注ぐ。
 ティルはそれらの結晶の雨を見切り、軽いステップで躱し、放つ『光』の矢で悉くを撃ち落とす。

 それを見てもユウリは様子も変えずに、双剣をまるで指示棒の様に振るって、
 
「ウルス様の『憑依混沌カオスフォーム』――あれも素晴らしい技です。そしてウルス様自身が創り出した技です。
 来人君も陸君も、そしてティルさんも――ですかね。祖父であり先代である師から継承した秘技。そのルーツはウルス様にあります。
 さて、ここで問題です。先程わたしの見せた『聖域サンクチュアリ』、これは一体誰の技――ルーツはどこに有るでしょうか?」

 ユウリは再び、剣を振るう。
 次いでは地が隆起し、それらが巨人を成す。
 土で構成されたゴーレムが二体現れて、ティルへと拳を振り下ろす。
 
 ティルは片手の掌底だけでその拳の一つを打ち砕き、もう片方の弓を持つ方の手で人差し指を立てた拳銃の形を作り、指先から放つ光弾でゴーレムを消し去った。
 一瞬で二体のゴーレムを制圧。

「答えも何も、問題にすらならない。ライジン様だな。お前が天界で名を出していた」
「あら、わたしとした事が。でもそうです、正解です」

 ユウリはわざとらしく、しまったという様な表情を見せる。
 
「二代目神王ウルス様が『憑依混沌カオスフォーム』を創り出した様に、本来三代目神王となるはずだったライジン様もまた、新たな技を産み出したのです。その名も『聖域サンクチュアリ』。
 流石、王と成る者は一味も二味も違いますよね。“技”に“名”を与えて定義して、他者にも想像出来る様に、使用できるように形創った」
「何が言いたい。何の話をしている……? また、時間稼ぎか?」

 ティルは露骨に苛立ちを見せる。
 しかし、ユウリは表情を崩さない。

「いいえ。ですから、ユウリ先生の授業ですよ。
 より強い“力”を求め、“力”を追求したウルス様。それは外に対して向けた王として上に立つ物の象徴だった事でしょう。
 そして、その“力”を持っていたが故に、器の世界という内側へと目を向けたライジン様。そして産まれた『聖域サンクチュアリ』――もっとも、ライジン様がそれを使うに値する相手はこの世に存在しなかったが故に、陽の目を見る事は有りませんでしたが」

 もう一度、ユウリは剣を天に掲げ振り下ろす。
 すると、冷たい空気に包まれていた大樹の森に、“熱”が降り注ぐ。

「なんだ、これは……!?」

 流石のティルにも驚きの表情が浮かぶ。
 天を仰げば、そこに在ったのは“隕石”だ。
 轟々と燃え盛る炎の球が降り注ぎ、森を焼き尽くさんとしているのだ。

「お前のスキルは『結晶』ではないのか!? 先程のゴーレムも、この隕石も、それに該当しない――」

 そう。この『聖域サンクチュアリ』へと来てから、ユウリの使った力の数々。
 ユウリの持つスキルは『結晶』、そのはずだ。
 しかしユウリはそのイメージにそぐわない、該当しない力の数々を披露して見せた。

「お前の様な王族でも無い神が、他にもスキルを隠し持っていた……? それとも、この『聖域サンクチュアリ』の力……?」
「どちらの解答も丸を付けて上げます。ここはわたしの世界ですから、わたしが“主人公”であり、わたしが“神”。なら、何だって出来ますよね? 何だって想像して、何だって創造出来る」

 それが、神。

「ふん。生意気な――私を、あまり舐めるなよ」

 隕石は、炎球は迫り来る。
 木々の葉を燃やし、幹を割り、降り注ぐ。

 ティルは燃え盛る大樹に囲まれたその中で、立ち尽くし、そして――、

「――来い!! ダンデ!!」

 瞬間、雷鳴。
 轟と光の瞬きが、空間を引き裂く。

 ユウリはあまりの極光を前に、腕で視界を覆う。
 
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...