【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
112 / 150
第三章 原初の破壊編

#108 出立

しおりを挟む

 朝。気持ちの良い陽射しで目が覚められれば良かっただろうが、ここは異界だ。
 空から本物の太陽の陽射しが差し込んでくることは無い。
 そして、それだけでは無かった。
 早朝、全員の目が覚めるよりも早く、異界中にガラスが割れる様な甲高い音が響き渡った。
 その音を目覚まし代わりとして来人たちは目を覚ます。

「なんだ!?」

 テントを出て、空を見上げる。
 そこには空間の亀裂が出来上がっていた。空が割れ、その裂け目から光り輝く翼を生やした一人の人物が侵入して来た。
 弓を手にした、光の翼――ティルだ。
 たったの一撃、たったの一矢を以て、ティルは異界の空間に風穴を空けたのだ。

「来人、何が有ったの!? さっきの音って――」
「美海ちゃんは出て来ないで。――天界の追手だ」

 来人は自分の視界の端――メガ・レンズに表示された一点の情報を注視する。
 そうすると、その情報がピックアップされて、大きく表示された“エネルギーの充填率97%”の文字列。
 ゲートを使用可能になるまで、もうあと僅かだ。それをティルに知られて、邪魔をされてはまずい。

 来人は地を蹴り、表へと出る。
 それと同時に、騒ぎを聞きつけてテイテイと秋斗、鬼人の会の面々も集まって来た。
 ゲートの元には最終段階へ向けてモニターしているギザの姿。しかしティルを警戒してか、メガの姿は見えず、代わりに作業していたであろう跡だけが残されていた。

 ティルはライオンのガイア族ダンデを従えながら、ゆっくりと天から舞い降りて来る。

「――見つけたぞ」

 ティルは地に降り立つなり弓を構えて、来人を睨みつける。

「ちょっと今取り込み中だからさ、用が有るなら後にしてほしいんだけど。それこそ、アークを倒した後に」
「ふざけるな。アナ様から命を受けている。天界への反逆者である貴様を捕縛し、天界へと連れて行く」

 ティルとここで正面から戦う事は賢い選択だとは言えない。
 仮に勝利を収めたとしても、消耗した状態で崩界へ乗り込むのはリスクが高い。

 来人は視界の端を見る。
 98%――もう少しだ。

 次に、ティルの傍に立つダンデの様子を窺う。
 来人の視線に気づいたダンデは少し目を伏せ、そのまま逸らした。
 和解の道は無さそうだ。

 ならば、ここで時間を稼いで、エネルギーの充填のタイミングでゲートに飛び込む。それが今最善の策だろう。
 隣のテイテイと秋斗に目配せを送る。
 二人共それだけで来人の成そうとしている作戦を理解して、小さく頷く。

 来人は剣を抜き、テイテイは拳を構え、秋斗は砲身を銃を構える。
 ティルは弓の弦を引き絞る。

 今まさに、天界の神と地球の人間の戦いが、始まろうとしていた。
 ――その時だった。

 森の方から、突如起こった波。
 波の様に、地から巻き起こる様に、『結晶』が生えて突き上がり、壁の様に来人たちとティルを分断した。
 森の木々よりも高い『結晶』の壁が出来上がり、そして壁の向こうから声が聞こえて来る。

「お待たせしました、来人君」

 来人の家庭教師、ユウリの声だった。
 天界で時間稼ぎを引き受け、その後の様子を知れなかったユウリが現れた。

「ユウリ先生! 無事だったんですね!」
「ええ、わたしは大丈夫です。来人君は、行くのでしょう? ここはわたしに任せてください」

 壁に隔たれていて、来人からユウリの姿は見えない。
 しかしその声は頼もしく、そして今ここに現れたという事はあの天界の神々を相手に戦い、無事に帰って来たという事であり、それは何よりの実力の証明だった。
 だからこそ、来人は信じて、ユウリにこの場を任せる事が出来た。

 99%――、そのタイミングで通信が入る。

『先輩! エネルギーの充填間もなくデス! さあ!』

 ギザからのその通信は、テイテイと秋斗にも同時に送られている。

「分かった!」
『グッドラック、デスよ!』
 
 三人は顔を見合わせ、そしてゲートへと走る。
 去り際、来人は壁の向こうへと、叫ぶ。

「先生! お願いします!!」

 ユウリの答えは、穏やかに返って来た。
 
「ええ。来人君も、お願いしますね。わたし、まだ読みたい小説も、漫画も、いっぱい有ります。だから、この世界を守ってください。頑張れ、わたしの一番弟子」


 100%――ゲートの縁の内側が強い光を放ち、周囲の機器が悲鳴のような音を立て始める。
 ティルは追って来ない。ユウリが足止めをしてくれている。

 来人、テイテイ、秋斗はゲートとへと飛び込む――その直前、

「来人!!」

 テントから出て来ていた美海だ。
 そして、美海がそう声を上げると共に、何か小さな風呂敷包みを投げた。
 来人は走る足を一度止め、それを受け止める。

「美海ちゃん!? これは――」
「おべんと! 昨日作っておいたの! みんなの分も有るから、一緒に食べてね!」
「ありがとう」

 来人の口元がふっと綻ぶ。
 
「うん! 行ってらっしゃい!」

 美海はとびっきりの笑顔で、送り出す。

「――ああ、行って来ます」
 
 そして、三人は光に包まれて行った。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

処理中です...