【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

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第三章 原初の破壊編

#102 訪れた危機

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 異界に一先ずの腰を下ろし、束の間の休息を取る来人たち。
 メガコーポレーションで用意してくれた仮設テントを設置し、皆それぞれのテントで仮眠を取っていた。
 来人はガーネとジューゴに挟まれてぎゅうぎゅうのおしくらまんじゅうになって寝袋に包まって眠り、そしてたった今起きた所だ。

 目が覚めた来人は自分の腕を確認する。

 ――よし、大丈夫だな。

 肉と骨で形作られた綺麗な腕が、そこには在った。
 失った腕は『鎖』で補われ、そして完治した。

 これが神の力、想像の創造。

 ――いや、王の血のおかげ、かな。

 こうやって失った腕がすぐに治ってしまうなんて、それが神であっても常では無い事は来人にも分かっていた。
 自分が王の血筋であるからこその、ここまでの力だ。

 喉の渇きを感じて、起きようと思えば足の上にガーネとジューゴが乗っていて立ち上がれない。
 起こさない様に寝袋を抜け出そうとしても、難しそうだ。

 そうしてもぞもぞとしていると、

「うぅん……」
「ふわぁぁ~~」

 二人が起きて来た。
 
「おはよ」

 完全に目が覚めた三人は、“メガコーポレーション”のロゴか描かれた段ボール箱から水の入ったペットボトルを取り出し、喉を潤す。
 
「――それで、どうするんだネ? らいたん」

 どうするとは、つまり仮眠をとる前のメガの言っていた事だろう。
 アークを倒す為に、崩界へと向かうのか。
 それとも、いつ再び訪れるか分からない世界の終焉を前にして、停滞するか。
 
「どうするって、そんなの――」

 その後に続く言葉が何なのか、聞くまでもなくガーネだっても分かっていた。
 分かっていて聞いた。覚悟を問うた。
 
 ――決まっている。崩界へと向かい、アークを倒し、世良を救う。
 
 口で言うだけなら簡単だ。
 しかし、それを実行、そして実現しようとすると、それはとてつもなく果てしなく、非現実的だ。
 それでも、それを現実としなければならない。そうしなければ、未来はない。

 今も鬼人の会の作るこの異界で、メガとギザがアークの潜む“崩界”へのゲートを作る為に手を休める事無く作業を続けている。
 他にもたくさんの仲間たちが、来人と共に戦おうと集まってくれている。

 
 程なくして、来人のテントに金髪のメイド――イリスがやって来た。
 
 来人の腕程ではないにしろかなりの怪我を負っていたイリスだったが、既にイリスも殆ど治っていた。
 それは来人との契約による効果だろう。王の力が契約者にも作用している証だ。
 思えば、最初もそうだった。
 コロッセオで神々がアークの波動の圧だけで気を失っている中、王の血筋とその契約者だけは立ち、そして戦うことが出来た。
 
 イリスは来人が起きている事を確認すると、軽く一礼してから、要件を告げた。

「おはようございます、坊ちゃま。目覚めたばかりで申し訳ございませんが、緊急ですので、手短に。――外で情報を集めていた鬼人の会の者から、地球に十二波動神じゅうにはどうしんが現れたとの報せが入っていますわ。ですから、奥様の事も心配ですし、わたくしは一度家に戻ろうかと思っていますの」

 十二波動神――ゼウスを含む、強い波動を持つ神の一団。
 彼らはアークの力に、そしてカリスマに魅了され、その軍門に下った。
 そして、アークの力――破壊の黒を祝福ギフトとしてその身に受け、一度死しても“再臨”し、より強力な力を得て蘇る。
 その十二波動神が、地球に。

「どうして、こっちに……? アークと共に崩界に行った訳じゃあないのか?」

 十二波動神が地球に現れる理由が、来人には分からなかった。
 アークの軍門に下ったというのなら、付き従うものだとばかり。
 
 しかし、そうではない。
 彼ら十二波動神はアークと共に行動する訳では無く、地球に現れた。
 ならば、理由が有る。彼らには彼らなりの大義の元、動いているのだ。

「十二波動神――ゼウスの一派は、所謂“純血派”ですわ。ですから、もしかすると――」
「まさか、人間を、殺しに……?」

 最悪の想像が、来人の脳裏を過る。
 イリスも同じ様に考えていた様で、小さく頷いた。

「主義主張が高じて、闇へと堕ちる。そういう事も在りましょう。ですから、わたくしは奥様の事が、心配なのです」

 ここでイリスがこのテント内へと入って来た時の第一声へと、話題は戻って来る。

「そうか、母さんは、僕の母さんだから――」
「ええ。神ゼウスが最も恨む者というと――率先して人の血を混ぜた旦那様、ライジン様に他なりません。であれば、奥様が狙われる可能性は高いですわ」

 ここに来て、更に来人の前に積み上がる障害の上に、更なる障害が積み重なる。
 攫われた妹、迫る世界の終焉、敵対する天界。その上に、更に母親にまで危険が及ぶ可能性。

 来人は片手で頭を抱えた。
 多すぎる。あまりにも、対処すべき事が多い。
 来人一人の手では足りない。

 考え込む来人を見て、イリスは更に言葉を続けた。

「坊ちゃま。何も坊ちゃまが抱え込むことは有りませんわ」
「え? でも――」
「ええ、ですから、初めに申した通りですわ。“わたくし、一度家に戻ろうかと思っていますの”」

 ――ああ、そうか。

 来人は何一つ取りこぼさない様にと、全てを成そうと、何もかもを自分で解決しようとしていた。
 だが、違う。
 ここにはイリスだけではない。
 ガーネも、ジューゴも、そしてこの異界にはテイテイや秋斗、それだけではなく鬼人の会の面々や、今もゲートを開く為に動いているメガとギザ、それに陸とモシャ、多くの仲間が居る。
 全てを来人一人で成す必要は無い。皆に頼ればいい。人の手を借りればいい。

「――わかった」

 来人が頷けば、イリスはにこりと優しく微笑んで、

「皆、集まっていますわ。行きましょう、坊ちゃま」
 
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