【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
105 / 150
第三章 原初の破壊編

#101 異界にて

しおりを挟む

 食事も終わりかけ、美海と藍、あと二人程の鬼人が片しに行った頃。
 忙しそうに作業をしていた犬のガイア族メガと、制服の上に白衣を羽織ったいつもの姿のギザが戻って来た。
 口の端に茶色いカレーの跡が出来ていて、それが食べながら何やらやっていたのだろうという事を物語っていた。

「さて、早速だけど、良い話と悪い話が有るヨ」

 メガがそう切り出した。

「じゃあ、悪い方からで。好物は最後に食べる派だから」

 秋斗がそう答えると、メガは詰まらなさそうに鼻を鳴らして、

「聞いてないヨ。それじゃあ、いい話からしてあげよう。その方が、話がスムーズだからネ。ほら、ギザ」

 と、可愛げのない事を言って、ギザへと顎で指示を出す。
 ギザは「はい、メガさん」と短く答えて、皆の前へと出た。

「まず結論から申しますと、アークの潜伏先が絞れたのデス」

 皆から驚きの声が上がり、騒然となる。
 いきなり本命だ。
 アークは今、世良との同調を完全な物とするために、どこかに身を隠している。
 その場所を、天界の神々よりも早く見つけ、アークを倒さなくては世良を救い出す事は叶わないのだ。
 
 それでも、ギザはそう言った後、それがまるで何でもない事の様に平然と、指を鳴らす。
 すると宙にモニターの様に映像が浮かび上がり、何かの図を映し出した。
 
 見た事が有る様な、無い様な。
 来人はそんなもやもやが気になって、聞いてみる。

「これは?」
「これは世界図デス。つまり、世界を俯瞰して見たと想定した時の、世界と世界の距離感を現した様な物で――」

 と、小難しい説明を羅列し始めた。
 メガが溜息を吐いて、それを要約してくれた。

「つまり、この図自体が、宇宙の星々の様に世界を現した地図という事だヨ。王の間に繋がる廊下で、似たような物を見たんじゃないかネ」
「ああ、あれか!」

 来人の気になっていたもやもやは晴れた。
 この世界図と似たような物、これよりもう少し点の数――おそらく世界の数が少ない物を、以前に世界の歴史を記した壁画として見ていたのだ。

「ここが天界で、その隣がガイア界、こっちが地球で――」

 と、その間もギザは指示棒を使って説明して行く。
 中央にある最も大きな三つの星の様な点が、そうしてまず指された。

「それで、アークの潜伏先って?」
「こちらデス」

 ギザはその中央付近の三点よりも離れた位置にある、少し小さな輝きを失った様に黒い点を指した。

「ここは“崩界”――つまり、既に崩れ、活動の終わった世界です」
「そこに、アークが――」

 活動の終わった世界――元はそこにも生命が、もしかすると人の営みが有ったかもしれない。
 しかしその世界は役目を終えて、崩れ去った。

「じゃあ、そこへ行けば――」

 世良を救い出せる。
 そう来人が続ける前に、メガが言葉を被せた。

「ただし、注意点が幾つか有る。それが悪い方の話だネ」
「……注意点? 何があっても、僕は行くよ」
「まあ待ちなヨ。最後まで聞くんだ」

 メガは言葉を続けた。
 
「一つ、世界とは遠ければ遠い程、時間の流れが異なって来る。所謂時差の様な物が産まれるんだ。それは時間が早く流れるか遅く流れるかも分からない。――そして、ボクらの居るこの中央から、あの崩界はかなり遠く離れている」
「その時差って、どれくらいなの?」
「さあ? ここまで遠い世界には行った事が無いし、常時では本来は観測するだけでわざわざ行く事は無い場所だ。つまり、こちらでの一秒が向こうでは数時間かもしれないし、数日かもしれないし、数年かもしれない、未知数だという事だ」

 それを聞いた美海が、堪らず驚きの声を上げた。

「えっ。じゃあさ、もし来人が妹を助けに行って、帰って来た頃には私がしわっしわのお婆ちゃんになってるかもって事!?」
「まあ、その可能性もゼロではないヨ」
「やだよ! そんなの!」

 美海は悲鳴のような声でそう言うが、来人だってそれは嫌だ。
 でも、だからと言ってその決意は変わらない。
 天秤にかけるのではない、どちらも取るのだ。

「まあ、痴話喧嘩は後でやってくれ。続けるヨ」

 そう言って、メガは二つ目の注意点を上げる。

「二つ目、先程の話に通ずる所が有るが――遠い世界にゲートを繋ぐ為には、それなりの時間を要するという事。アークの融合の完了までに間に合う保証はどこにもない。たった一日で手遅れになる可能性もある」
 
 最初に時差の話を聞いていて、危惧していた事だ。
 しかし、これに関してはどうする事も出来ない。
 そして、

「最後に三つ目だ。それは、ライトと数人の仲間でアークの根城へ乗り込んだとして、勝てる見込みがほぼゼロに近いって事だヨ」

 それは、考えないようにしていた、それでもれっきとした事実として来人の前に立ちはだかる最も大きな壁だった。
 あの天界の全てを一瞬で破壊し尽くした化け物と、どう戦うか。

「それに関して、何かメガの方で作戦とか、アイデアは無い?」
「無いヨ」

 メガは短く、端的に断ずる。

「でも、だからと言ってアークを野放しにしていると全てが破壊されて全部終わりだ」
「まあ、結果無駄だとしても、一応この崩界へ向けてのゲートを繋げる準備だけはしよう。その間、考えておくといいヨ」
「考えるって、何を?」
「世良という少女を諦めてアークが再び襲って来るまでの束の間の平和を過ごすか、それとも自ら命を捨てに行くか、だヨ」
「そんなの――」

 そう言いかけるが、メガは強く念を押す様に、

「よく考えるんだ。さっきも言ったが、世界間には時差が有る。つまり、運が良ければアークが次に現れるのは十年先か、百年先かも分からないんだ。――ライトが想い人と人間としての一生を過ごすくらいの時間は、許されているかもしれない、という事だヨ。――勿論、その道を選んだ場合に待っているのは、世界の終焉だけどネ」
 
 
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...