【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

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第三章 原初の破壊編

#101 異界にて

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 食事も終わりかけ、美海と藍、あと二人程の鬼人が片しに行った頃。
 忙しそうに作業をしていた犬のガイア族メガと、制服の上に白衣を羽織ったいつもの姿のギザが戻って来た。
 口の端に茶色いカレーの跡が出来ていて、それが食べながら何やらやっていたのだろうという事を物語っていた。

「さて、早速だけど、良い話と悪い話が有るヨ」

 メガがそう切り出した。

「じゃあ、悪い方からで。好物は最後に食べる派だから」

 秋斗がそう答えると、メガは詰まらなさそうに鼻を鳴らして、

「聞いてないヨ。それじゃあ、いい話からしてあげよう。その方が、話がスムーズだからネ。ほら、ギザ」

 と、可愛げのない事を言って、ギザへと顎で指示を出す。
 ギザは「はい、メガさん」と短く答えて、皆の前へと出た。

「まず結論から申しますと、アークの潜伏先が絞れたのデス」

 皆から驚きの声が上がり、騒然となる。
 いきなり本命だ。
 アークは今、世良との同調を完全な物とするために、どこかに身を隠している。
 その場所を、天界の神々よりも早く見つけ、アークを倒さなくては世良を救い出す事は叶わないのだ。
 
 それでも、ギザはそう言った後、それがまるで何でもない事の様に平然と、指を鳴らす。
 すると宙にモニターの様に映像が浮かび上がり、何かの図を映し出した。
 
 見た事が有る様な、無い様な。
 来人はそんなもやもやが気になって、聞いてみる。

「これは?」
「これは世界図デス。つまり、世界を俯瞰して見たと想定した時の、世界と世界の距離感を現した様な物で――」

 と、小難しい説明を羅列し始めた。
 メガが溜息を吐いて、それを要約してくれた。

「つまり、この図自体が、宇宙の星々の様に世界を現した地図という事だヨ。王の間に繋がる廊下で、似たような物を見たんじゃないかネ」
「ああ、あれか!」

 来人の気になっていたもやもやは晴れた。
 この世界図と似たような物、これよりもう少し点の数――おそらく世界の数が少ない物を、以前に世界の歴史を記した壁画として見ていたのだ。

「ここが天界で、その隣がガイア界、こっちが地球で――」

 と、その間もギザは指示棒を使って説明して行く。
 中央にある最も大きな三つの星の様な点が、そうしてまず指された。

「それで、アークの潜伏先って?」
「こちらデス」

 ギザはその中央付近の三点よりも離れた位置にある、少し小さな輝きを失った様に黒い点を指した。

「ここは“崩界”――つまり、既に崩れ、活動の終わった世界です」
「そこに、アークが――」

 活動の終わった世界――元はそこにも生命が、もしかすると人の営みが有ったかもしれない。
 しかしその世界は役目を終えて、崩れ去った。

「じゃあ、そこへ行けば――」

 世良を救い出せる。
 そう来人が続ける前に、メガが言葉を被せた。

「ただし、注意点が幾つか有る。それが悪い方の話だネ」
「……注意点? 何があっても、僕は行くよ」
「まあ待ちなヨ。最後まで聞くんだ」

 メガは言葉を続けた。
 
「一つ、世界とは遠ければ遠い程、時間の流れが異なって来る。所謂時差の様な物が産まれるんだ。それは時間が早く流れるか遅く流れるかも分からない。――そして、ボクらの居るこの中央から、あの崩界はかなり遠く離れている」
「その時差って、どれくらいなの?」
「さあ? ここまで遠い世界には行った事が無いし、常時では本来は観測するだけでわざわざ行く事は無い場所だ。つまり、こちらでの一秒が向こうでは数時間かもしれないし、数日かもしれないし、数年かもしれない、未知数だという事だ」

 それを聞いた美海が、堪らず驚きの声を上げた。

「えっ。じゃあさ、もし来人が妹を助けに行って、帰って来た頃には私がしわっしわのお婆ちゃんになってるかもって事!?」
「まあ、その可能性もゼロではないヨ」
「やだよ! そんなの!」

 美海は悲鳴のような声でそう言うが、来人だってそれは嫌だ。
 でも、だからと言ってその決意は変わらない。
 天秤にかけるのではない、どちらも取るのだ。

「まあ、痴話喧嘩は後でやってくれ。続けるヨ」

 そう言って、メガは二つ目の注意点を上げる。

「二つ目、先程の話に通ずる所が有るが――遠い世界にゲートを繋ぐ為には、それなりの時間を要するという事。アークの融合の完了までに間に合う保証はどこにもない。たった一日で手遅れになる可能性もある」
 
 最初に時差の話を聞いていて、危惧していた事だ。
 しかし、これに関してはどうする事も出来ない。
 そして、

「最後に三つ目だ。それは、ライトと数人の仲間でアークの根城へ乗り込んだとして、勝てる見込みがほぼゼロに近いって事だヨ」

 それは、考えないようにしていた、それでもれっきとした事実として来人の前に立ちはだかる最も大きな壁だった。
 あの天界の全てを一瞬で破壊し尽くした化け物と、どう戦うか。

「それに関して、何かメガの方で作戦とか、アイデアは無い?」
「無いヨ」

 メガは短く、端的に断ずる。

「でも、だからと言ってアークを野放しにしていると全てが破壊されて全部終わりだ」
「まあ、結果無駄だとしても、一応この崩界へ向けてのゲートを繋げる準備だけはしよう。その間、考えておくといいヨ」
「考えるって、何を?」
「世良という少女を諦めてアークが再び襲って来るまでの束の間の平和を過ごすか、それとも自ら命を捨てに行くか、だヨ」
「そんなの――」

 そう言いかけるが、メガは強く念を押す様に、

「よく考えるんだ。さっきも言ったが、世界間には時差が有る。つまり、運が良ければアークが次に現れるのは十年先か、百年先かも分からないんだ。――ライトが想い人と人間としての一生を過ごすくらいの時間は、許されているかもしれない、という事だヨ。――勿論、その道を選んだ場合に待っているのは、世界の終焉だけどネ」
 
 
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