103 / 150
第三章 原初の破壊編
#99 逃避行
しおりを挟むユウリにティルたち天界軍の相手を任せ、来人たちはゲートを目指して走る。
メンバーは来人、ガーネ、ジューゴ、イリス、テイテイの五人だ。
「――ユウリ先生、大丈夫かな……」
来人は決してユウリの事を軽んじている訳では無い。
そこらの一般神よりは断然実力のある人物だと認識している。
それでも、来人やティル――王族である神と一般神ではベースから既にさが産まれているのだ。
相手はティルと、それに加えて精鋭の天界軍だ。
最悪の場合を想定すると、時間稼ぎにすらならない可能性すら有った。
背後からは戦いが始まったのか、激しい音も聞こえて来る。
そんな心配してちらちらと後方を窺う来人に対して、テイテイは、
「大丈夫だ。ユウリ先生は来人が思っているよりも、ずっと強い。それよりも、だ――」
正面へと意識を移す。
すると、ゲートまでもうすぐだという所で、何者かの人影。
「誰か居るぞ」
テイテイがそう言うのだから、共に助けに来てくれたメンバーでは無いのだろう。
「くそ、追手か!?」
距離が縮まれば、その姿も次第に露わになる。
その人物は、来人のよく知っている者だった。
多くの死体の山の上で、その人物は腰を下ろしていた。
大きな三日月型の鎌を背負い、首にはマフラーの様な毛の塊を巻き付けた、影の様なマントを羽織る、白金色の髪の男。
「陸! 生きてたのか!」
戦いの後、姿を見せていなかった陸と、首に巻かれたもふもふ――陸の相棒、イタチのガイア族、モシャだった。
互いに生きての再会を喜ぶ来人だったが、しかしそれも一瞬のこと。
テイテイのとガーネが即座に前に出て、警戒の体勢を取った。
「来人、待て」
「お前は、“どっち側”だネ!?」
そう。天界側か、はたまた来人側か。
陸とモシャもまた、ティルの様に敵に回っている可能性が有った。警戒するのも無理はない。
しかし、来人は知っていた。
「ちょっと待って、二人共! 大丈夫だよ!」
そう言って、今にも飛び掛かりそうな二人を制止する。
「――そうだよね、陸?」
来人がそう問えば、陸は穏やかな様子でぱっと死体の山から軽々と飛び降りた。
よく見れば、その死体の山――正確には、死んでいなかった。天界の神々が、のされて『影』の手で絡め捕られ、動けなくされていた。
「うん。道は空けといたよー」
先回りしてゲート前で待ち伏せしていた神を、陸が対処してくれていた様だ。
しかしテイテイは未だ若干の警戒の様子を見せる。
それに対して陸は弁明する様に、
「まって、僕も“鬼人”の味方だよー」
と、そう言った。
テイテイが来人の顔を見れば、大丈夫だというように頷いた。
陸は続ける。
「詳しくは後でねー。地球へ直通のゲートは全て、アークに操られた世良によって破壊された――けど、今はハックして一つだけ“異界”へのゲートが開いている。急がないと、閉じてしまう。でしょー?」
それを聞けば、テイテイも矛を治める。
鬼人――秋斗と同じ、生前の記憶を取り戻した鬼たち。
その存在自体天界の神々には秘匿されている。
そして何より、その一つだけ存在するという異形へ続くゲート自体、他の誰でもない、来人とテイテイの親友であり鬼人、秋斗の協力が有って開いた物だった。
それを知っているという事は、陸もまたその鬼人の関係者だったのだ。
そのテイテイの様子を見て、
「じゃあ、行こうかー」
一行は、光のエレベーターを降りて、ゲートの間へ。
円形の空間の周囲の壁、その全ては扉だ。
しかしいつもと違い、それら“ゲート”として使われている扉からは光が失われていて、暗く閉ざされている。
その先は、どこへも繋がってはいない。
地球に点在していた接続先の扉は、全て破壊されてしまったのだ。
その消灯した扉群の中で、ただ一つだけ淡く光を放つ物が有った。
間違いない、それこそこが異界へ繋がるゲートだ。
その淡い光の先の景色は、この白いタイル貼りの空間の中で唯一異彩を放っており、どこか禍々しくブレている。
景色がブレているということは、陸の言葉通り時間が残されていない事を示していた。
来人は、ゲートを潜る。
もう引き返す事は出来ない。来人は天界との敵対の道を選んだ。
一行がゲートを潜り終えれば、役目を終えた様にゲートはすぐに閉じ、ゲートの間には静寂と暗闇が訪れた。
ゲートの先、そこは――。
「――湖。ここって、あの時の――」
来人たちの視界に、最初に入って来た光景。
それは森に囲まれた湖の湖畔だった。
来人はこの景色を知っていた。
それは、来人が初めて神へと成ったその瞬間、その時の景色そのものだった。
この湖畔の異界、その主たる鬼――『顎』の鬼、それは親友秋斗の鬼となった姿だった。
つまり、この異界は鬼人である秋斗が作り出した物だ。
ガーネも同じく、見覚えの有る景色に驚いていた。
そうしていた一行に、背後から声がかかる。
「――間に合ったみたいでよかった」
振り返れば、そこには大きな鉄製の扉の枠縁。
何本もの管が繋がっている、この森の湖畔に似つかわしくない、武骨な様相。
これはメガの研究所に在った、“ハッキング・ゲート”だ。
先程来人たちはこれを通って来たのだろう。
枠縁の内側には既に何も無く、その奥には背景の森と、一人の人物が見えた。
その人物こそ声の主。――いや、人物と表現するには、その姿はあまりにも異形だ。
頭には三本の角、おおよそ人間の物では無い怪しくてらてらと光を反射する黒い表皮、右腕は筒状の大砲――その砲身の先は、大きく顎を開いた鬼の形相。
『顎』の鬼――、来人の親友、木島秋斗だった。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。
ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。
少女たちは死地へと赴く。
angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】
白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン!
★第1部はこちら↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083
「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」
幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。
東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。
本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。
容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。
悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。
さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。
自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。
やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。
アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。
そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…?
◇過去最高ランキング
・アルファポリス
男性HOTランキング:10位
・カクヨム
週間ランキング(総合):80位台
週間ランキング(異世界ファンタジー):43位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる