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第三章 原初の破壊編
#99 逃避行
しおりを挟むユウリにティルたち天界軍の相手を任せ、来人たちはゲートを目指して走る。
メンバーは来人、ガーネ、ジューゴ、イリス、テイテイの五人だ。
「――ユウリ先生、大丈夫かな……」
来人は決してユウリの事を軽んじている訳では無い。
そこらの一般神よりは断然実力のある人物だと認識している。
それでも、来人やティル――王族である神と一般神ではベースから既にさが産まれているのだ。
相手はティルと、それに加えて精鋭の天界軍だ。
最悪の場合を想定すると、時間稼ぎにすらならない可能性すら有った。
背後からは戦いが始まったのか、激しい音も聞こえて来る。
そんな心配してちらちらと後方を窺う来人に対して、テイテイは、
「大丈夫だ。ユウリ先生は来人が思っているよりも、ずっと強い。それよりも、だ――」
正面へと意識を移す。
すると、ゲートまでもうすぐだという所で、何者かの人影。
「誰か居るぞ」
テイテイがそう言うのだから、共に助けに来てくれたメンバーでは無いのだろう。
「くそ、追手か!?」
距離が縮まれば、その姿も次第に露わになる。
その人物は、来人のよく知っている者だった。
多くの死体の山の上で、その人物は腰を下ろしていた。
大きな三日月型の鎌を背負い、首にはマフラーの様な毛の塊を巻き付けた、影の様なマントを羽織る、白金色の髪の男。
「陸! 生きてたのか!」
戦いの後、姿を見せていなかった陸と、首に巻かれたもふもふ――陸の相棒、イタチのガイア族、モシャだった。
互いに生きての再会を喜ぶ来人だったが、しかしそれも一瞬のこと。
テイテイのとガーネが即座に前に出て、警戒の体勢を取った。
「来人、待て」
「お前は、“どっち側”だネ!?」
そう。天界側か、はたまた来人側か。
陸とモシャもまた、ティルの様に敵に回っている可能性が有った。警戒するのも無理はない。
しかし、来人は知っていた。
「ちょっと待って、二人共! 大丈夫だよ!」
そう言って、今にも飛び掛かりそうな二人を制止する。
「――そうだよね、陸?」
来人がそう問えば、陸は穏やかな様子でぱっと死体の山から軽々と飛び降りた。
よく見れば、その死体の山――正確には、死んでいなかった。天界の神々が、のされて『影』の手で絡め捕られ、動けなくされていた。
「うん。道は空けといたよー」
先回りしてゲート前で待ち伏せしていた神を、陸が対処してくれていた様だ。
しかしテイテイは未だ若干の警戒の様子を見せる。
それに対して陸は弁明する様に、
「まって、僕も“鬼人”の味方だよー」
と、そう言った。
テイテイが来人の顔を見れば、大丈夫だというように頷いた。
陸は続ける。
「詳しくは後でねー。地球へ直通のゲートは全て、アークに操られた世良によって破壊された――けど、今はハックして一つだけ“異界”へのゲートが開いている。急がないと、閉じてしまう。でしょー?」
それを聞けば、テイテイも矛を治める。
鬼人――秋斗と同じ、生前の記憶を取り戻した鬼たち。
その存在自体天界の神々には秘匿されている。
そして何より、その一つだけ存在するという異形へ続くゲート自体、他の誰でもない、来人とテイテイの親友であり鬼人、秋斗の協力が有って開いた物だった。
それを知っているという事は、陸もまたその鬼人の関係者だったのだ。
そのテイテイの様子を見て、
「じゃあ、行こうかー」
一行は、光のエレベーターを降りて、ゲートの間へ。
円形の空間の周囲の壁、その全ては扉だ。
しかしいつもと違い、それら“ゲート”として使われている扉からは光が失われていて、暗く閉ざされている。
その先は、どこへも繋がってはいない。
地球に点在していた接続先の扉は、全て破壊されてしまったのだ。
その消灯した扉群の中で、ただ一つだけ淡く光を放つ物が有った。
間違いない、それこそこが異界へ繋がるゲートだ。
その淡い光の先の景色は、この白いタイル貼りの空間の中で唯一異彩を放っており、どこか禍々しくブレている。
景色がブレているということは、陸の言葉通り時間が残されていない事を示していた。
来人は、ゲートを潜る。
もう引き返す事は出来ない。来人は天界との敵対の道を選んだ。
一行がゲートを潜り終えれば、役目を終えた様にゲートはすぐに閉じ、ゲートの間には静寂と暗闇が訪れた。
ゲートの先、そこは――。
「――湖。ここって、あの時の――」
来人たちの視界に、最初に入って来た光景。
それは森に囲まれた湖の湖畔だった。
来人はこの景色を知っていた。
それは、来人が初めて神へと成ったその瞬間、その時の景色そのものだった。
この湖畔の異界、その主たる鬼――『顎』の鬼、それは親友秋斗の鬼となった姿だった。
つまり、この異界は鬼人である秋斗が作り出した物だ。
ガーネも同じく、見覚えの有る景色に驚いていた。
そうしていた一行に、背後から声がかかる。
「――間に合ったみたいでよかった」
振り返れば、そこには大きな鉄製の扉の枠縁。
何本もの管が繋がっている、この森の湖畔に似つかわしくない、武骨な様相。
これはメガの研究所に在った、“ハッキング・ゲート”だ。
先程来人たちはこれを通って来たのだろう。
枠縁の内側には既に何も無く、その奥には背景の森と、一人の人物が見えた。
その人物こそ声の主。――いや、人物と表現するには、その姿はあまりにも異形だ。
頭には三本の角、おおよそ人間の物では無い怪しくてらてらと光を反射する黒い表皮、右腕は筒状の大砲――その砲身の先は、大きく顎を開いた鬼の形相。
『顎』の鬼――、来人の親友、木島秋斗だった。
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